鯖男
2021-12-28 12:41:21
7499文字
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たてゆミステリー書こうとしたやつ2

死体発見したからあげ。また変更するかもしれないけどプロトタイプということで許してクレメンス

「何か違和感があったら声かけをしていくぞ。どんな小さな違和感でもいい」
木々の隙間からラフタリアとフィーロを見やる。二人は頷き、更に向こう側にいる勇者に同じ言葉を繰り返した。
周囲は木々に包まれている。だが鬱蒼としているのではなく、木々の隙間から日の光が降り注ぐ程度には隙間がある。だがそうなると行方不明になるのに疑問が生じる。
俺はラフタリア、フィーロよりも離れた錬を見やる。この中では暗色系の装備をつけており、森と同化しやすい。だがまだ日の光が降り注ぐ現在なら、見失うことはなかった。
こんな視界の拓けた森というより、林に近い場所で人が忽然と消えるのか?
「ラフタリア、魔術の痕跡は見つけられそうか?」
「いえ……集中はしているのですが全く……
「こっちもないよー」
うちのパーティで探索を得意とする二人が発見できないとなると、やはり魔法ではなく物理での誘拐なのだろうか。物理だとしたらひっくり返ったフィロリアルに気付かれない早さで攫ったことになる。あの野性的なフィロリアルに気付かれないように人を攫う? にわかに信じがたい。となれば魔法でも物理でもない第三の方法。
ふと思いついたのは狂言だ。村ぐるみで「誘拐され、荷物を駄目にした」と言い張って行商をなかったことにする。だがメリットが思い浮かばない。ここは異世界であり、荷物に対する保証などない。例え山賊に襲われようとも自己責任だ。駄目になった積み荷が戻ってこないのだから、かなりデメリットがでかい。『行商を駄目にする』ことが目的だったのなら一応は筋が通るが、そうなるとメルティに渡された調書の筋が通らない。行方不明者はこの村だけではない。同時に何か思惑があって、様々な人間が行方不明を企てたというのは無理があるし、そもそも人間不信極まりない。この案は却下だな。
村に来たお陰でヒントが手に入ったのに、一向に犯人に繋がる手がかりが掴めない。……嫌な感じだ。
……い、おい、尚文!」
錬の声に意識が引き戻される。
「どうした。何か手がかりでも」
「樹がいないんだ!」
確か樹は錬の隣にいたはずだ。だが錬より向こう側には誰もいなかった。弓兵だからか隠密癖なのか、樹の装備カラーはどうにも森に紛れそうな色合いをしている。ふざけて隠れているだけかとも思ったが、さすがにこの状況下でやるような奴ではない。
「錬、いつ頃気付いた?」
「今さっきだ。村人がどういなくなったのか俺たちなりに推理していたんだ。そしたら返事が途絶えておかしいと横を向いたら……
「いなかったのか」
勇者が忽然と消えた。これは一般人とは一線を画すほどにまずい。
というのも、大した抵抗もできない一般人と異なり、勇者は聖武器の加護はあるし、レベルも十分なので状態異常も掛かりづらい。更には資質向上や強化方法の共有などで数値は跳ね上がっているのだからそう簡単にはやられないだろう。
だが結果はコレだ。隣の錬に気付かれることなく、煙のように姿が消えている。
「みんな。一カ所に集まって背中合わせになれ。周囲を警戒しろ!」
俺の声に、残りのメンバーの警戒心が高まる。しかし周囲には人が隠れられるような木々はない。どれもこれも細身で、身体がはみ出してしまいそうだ。しかし俺の視界にはそのような不自然な木は存在しない。皆も声を上げないのだからそうなのだろう。じりじりと焦燥感に駆られる。これはもう、単純大量行方不明事件ではないのでは。勇者とはいえ、一介の学生には手に負えない事案なのではないか。一旦森を出るべきか?
「尚文、どうする」
錬の問いに俺は逡巡した。だが迷ってもいられない。
……一回森を出る! メルティに報告後、体勢を立て直すぞ!」
返事は、なかった。不審に思うも、実のところは動揺していたのだ。樹は声もなくいなくなった。では他のメンバーもそうならないとは限らない。口内が乾く。ふと冤罪を受けたときの、拠り所がない心細さを思い出した。
「ラフタリア……
少女の名前を呼ぶ。いつもならばすぐさま返事が来るというのに。木々のざわめきが酷く耳障りだった。俺は「そんなはずない」と自身に言い聞かせながら、ゆっくりと振り返る。ああ、と懇願のような声が漏れた。
俺の背後には、だれもいなかった。一緒に森に入った仲間全員、いなかった。
指先がじりじりと痛み出す。血が通っていないみたいにひやりと冷たく、それを誤魔化すよう、俺は握りこぶしを作った。
だがここで怒りに振り回されるわけにはいかない。全員がいなくなった今、この情報を持ち帰れるのは俺だけとなった。こうなるとフィーロに『フィロリアルサンクチュアリ』を張らせないでよかった。張っていたら転移ができなくなっていたところだ。不幸中の幸いと言うべきか、『ポータルシールド』を起動させ、村をメルロマルクを選択する。そして転移を選択する瞬間、視界が暗くなった。世界が反転したような異質さ。内臓までも捲りあげられたような不快感に口をおさえる。迫り上がる胃酸をどうにか抑え、数度瞬きをすれば、そこは森ではなくなっていた。
俺がいるのは恐らく玄関ホールだ。吹き抜けが設けられ見上げるほどの天井は、メルロマルクの教会を連想させる。両階段は結婚式場なんかで見られるカタチだろう。足下に敷かれた長毛のカーペットは使い込まれているが、決して汚いわけではない。昔ながらの貴族の家、といった感じか。
「転移、か……?」
行方不明は転移が原因ならば「突然いなくなった」のも合点がいく。だがいなくなったのは十人では足りなかったはずだ。この屋敷で生きているのか、はたまた何かの目的で幽閉されっているのか。一歩前進はしたものの情報が足りなかった。
「ラフタリア、フィーロ!」
呼びかけるが応答はなかった。ラフタリアは勇者になり奴隷紋は外れてしまい、捜索はできない。なので魔物紋をつけたフィーロの現在位置を調べる。だがフィーロのステータス欄を開こうとしたとき、『ロスト』となっており、捜索が不可能となっていた。
血の気が引く。さすがに死んだとは考えにくいが、奴隷紋が機能しない状態に追い込まれていることは確かだ。他の勇者達とは連絡手段はない。一先ずメルロマルクへ戻ろうと『ポータルシールド』を唱えようとするが、寸でで止まる。ポータルは国や村、島で取るものだ。それにポータルが取れる数も三つと決まっており、新しいのを取ったら古いものからどんどん消えていく仕組みとなっている。既にメルロマルク、ロックバレーと取っていたので、先ほどの村ではポータルは取っていなかったのだ。フィーロという足がなくなった今、『メルロマルクへ転移し、メルティに報告のち、ロックバレーに戻って新たにパーティを編成して再び森へ戻る』といったルートは現実味を帯びていなかった。俺一人ならガエリオンに乗って移動もできるが、攻撃できない俺だけが戻っても意味はない。そもそも森に入って転移された場所に辿り着けるかも怪しい。それだけ森の中に目印などないのだから。
ともかく一度撤退するのは却下だ。ならば進むしかない。
「とりあえず散策だな」
手始めに正面の扉を開ける。観音開きの扉はぎぎ、と嫌な音を立てた。そこは随分と拓かれた場所で、中央に設置された大きなテーブルと椅子が十脚前後ある。ここはダイニングか。
端には黒々と輝いているグランドピアノが設置してあった。鍵盤部分を開ければそこにはビロードが掛けられている。確か学校にあったグランドピアノにも鍵盤部分にかけてあったっけな。
普通の民家、というには裕福そうに思える。メルロマルクにいた亜人友好派のヴァンの屋敷に近い。
はっきりとしないまま、俺はダイニングの脇にある部屋へ入る。ここはキッチンだな。整理が行き届いており、好感が持てるが違和感も持ってしまう。
生活感がないのだ。
まるでモデルルームのようなそこには、人が使っていたであろう使用感がなかった。無人の屋敷なのか。それはダイニングを見たときから否定された。なぜならダイニングには埃がなかったのだ。あの黒光りしているグランドピアノなど、埃がつけば一目で分かってしまうと言うのに、そんなものはなかった。
ならば本当に誰も使用していないモデルルームやもしれない。だがそれも否定される。
俺は金属でできた箱に手を掛ける。開けると頬を撫でる冷気に顔を顰めた。それは氷室だった。冷蔵庫という電化製品が存在しない異世界で、水属性の魔法を使わなくても生ものを腐らせない保存箱。ラフタリアから聞いた話では、平民は金属加工ができる者が少ないので、木箱に氷を敷き詰めたり、そもそも『生ものの保存』をせず、すぐに干し肉へ加工したり、食べてしまう。
そんな氷室の中に紙に包まれた肉と、数種類の野菜が入っていた。ご丁寧に肉と野菜が触れ合わないよう仕切りまでされている。
なんで無人なのに、氷室に生ものが入ってるんだ。
氷室の冷気以外の寒気が背筋を震わせた。
廊下を出て、二階へ向かう。左右に伸びる廊下は対称だった。手始めに右手側へ行こう。
どうにも廊下が薄暗い。窓には板が打ち付けられており、物々しい雰囲気が漂っている。日の光が入らないので、廊下に等間隔に設置された燭台が周囲を照らしていた。その明かりの弱さと言ったら。異世界に慣れたとはいえ、蝋燭だけの頼りない灯りは不安を煽っていく。
突き当たりへたどり着き、端の部屋から扉を開けていく。その部屋は随分と布が多い。真っ白な布の塊は、薄闇でも存在を主張していた。しかしどうにも効率が悪い。申し訳ないと思いながらも、燭台の一個を取り外し、ランタン代わりに部屋を照らしていく。布の山の正体はシーツだった。タオル、客人用の簡素な寝間着もある。ここはリネン室か。
ふと、リネン室の奥に扉を見つけた。俺は躊躇うことなく開ける。そこは拓けた部屋で、床や壁の材質が通常の部屋と異なっていた。煉瓦のような、硝子のような……ああ、そうだ。洗面所の壁みたいな材質だ。天井近くには木の棒が二本、突っ張り棒のように張られている。その下には麻で作られた大きな籠が置いてあった。リネン室よりも少し大きめに取られた部屋だというのに、何の部屋だが検討もつかない。とりあえず保留にして更に先に進める扉を開けた。
随分と見覚えの得る部屋だった。正方形に仕切られた棚の中に、竹のような素材で編まれた籠が置かれている。これにはピンと来た。脱衣所か。なら前の部屋はランドリールームか? 洗濯機がないからわからなかった。まあこの異世界に洗濯機はないわけだからしょうがないが。
ランドリールーム、脱衣所、と来たら残りは一つだろう。次の扉を開ける。案の定、そこはバスルームだ。外国のを参考にしたのか、浴槽は小さく、シャワーを主体としている。蛇口を捻れば水が出た。水質検査は良好であり、飲み水としても支障はない。……人はいないというのに、生ものが保管され、水が生きている。まるで今の今まで生活していた人がいたというのに、忽然と姿を消してしまったかのような奇妙さ。背筋に走る冷たいものを見なかったことにし、バスルームを後にした。
リネン室から出て、その隣を覗く。客間か、はたまた誰かの部屋か。ベッドとサイドテーブルと簡素な洋服タンスのみの部屋だった。窓は一つ。外側に開く一般的な窓だ。
部屋を検分していくと同じような部屋が三部屋続いていた。配置も同じでまるでビジネスホテルのようだった。
そして一番手前、階段に近い部屋は少々大きく取られていた。暖炉とテーブルと椅子だけの部屋。暖炉は薪だけが設置してあるが、使用した形跡はない。応接室、だろうか?
これで右手側の大半の部屋は検分した。浴室やトイレらしきところはあったが、さすがにそこは行っていない。
しかし人は勿論、気配すらないな。他人の家を散策するのはゲームの中だけで十分だというのに。
次は左手側だ。やはり、といった具合か部屋数や配置は同じに見える。奥まで行けば、デジャブのように同じ光景が広がっていた。唯一違うのは左右逆ということか。
最初に検分するのは一番奥の部屋だ。広さはリネン室と同じくらい。整理されているものの、他の部屋と比べると乱雑な印象を受けた。あと多少の埃臭さを感じる。古びた毛布、うっすら埃の被った燭台。表に設置されているものよりも古い型に思える。ここは物置だろうか。
その隣は右手側の部屋と同じ部屋が並んでいた。用意された家具も同じもので、唯一違うのは左右逆と言うこと。道に迷うことはなさそうだな。
階段に近い部屋は右側同様、応接室らしき部屋だった。『らしき』というのは、先ほど見た暖炉とテーブルと椅子だけの部屋と全く同じだったからだ。唯一違うのは左右逆と言うことぐらい。
これにて二階の散策は終わった。散策と言っても詳しく調べ回ってはいない。さすがに人手が足りなさすぎる。
「まあ弱音を吐いても仕方ない……
足取り重く一階へ戻ってきた。
無人の屋敷だというのにライフラインが生きており、生ものが完備されている。たまたま屋敷の主人が留守にしていた? 都合が良くないか? 埒が明かない。屋敷は大体散策したのだし、外に行ってみるか。玄関のドアノブに手を掛ける。瞬間、背後で金属の擦れ合う音がした。長い間勇者を続けていた反射神経か、俺はすぐさま盾を構え、振り返る。しかしそこにいたのは敵ではなく、見知った男だった。
……尚文か」
「錬!?」
ダイニングから向かって左側の廊下から、剣を構えて現れたのはいなくなった錬だった。随分と焦燥した顔をしている。見知った顔を見つけて安堵したのか、深く息を吐き、剣を下ろす。
「お前、森からいなくなってからどうしたんだ」
「樹がいなくなってみんなで背中合わせに警戒しただろ。瞬間、森からこの屋敷に来てたんだ」
錬の証言に頷く。俺も同じだった。
「で、とりあえず散策しようと屋敷の中を調べてたんだ」
「ん? おかしいな。それはいつ頃の話だ」
「ついさっきまでだ。で、ココの廊下の突き当たりを曲がったところに部屋があるから、そこで一休みしていた。そしたら変な物音がするから来てみたら尚文がいたんだ」
錬の証言によると、さっきまで屋敷の散策をしていたらしい。だがそうなるとさっきまで散策していた俺とかち合わないのはおかしくないか。とはいえ、錬が嘘を言っているとも思えない。ずっとすれ違っていたのか? そりゃ互いに互いの居場所をしる手段はないが、そんな一昔前の舞台道化みたいな。
「錬は他のみんなと一緒じゃないのか」
「ああ。ずっと一人だった」
二人がかりで部屋の散策していたのに誰とも出会ってない。ならばこの屋敷には誰もいないってことじゃないのか?
「合流できたことだし、外に行ってみるか」
「そうだな。尚文がいるなら俺は攻撃に専念できるし」
後衛はいないが、まあバランスのいいパーティだと思う。一時しのぎにはなるだろう。くるりと振り返って再びドアノブを握る。瞬間、ダイニングの扉が勢いよく開けられた。爆発が起こったんじゃないかと錯覚するほどにどかんと。ばかんと。
「お義父さん、ご無事でしたかな!!」
「げえ」
思わず本気の「げえ」が出た。
「お前はずっとダイニングにいたのか」
「はい。あの森からここに転移されて、なにやら表でお義父さんの声がしたので飛び出してきた所存でありますぞ」
「──は?」
元康の証言によると、今さっきここに転移してきたと言ってるみたいだった。しかしそれはおかしいだろう。だってここに転移されたのは俺が最後のはずで、その俺が屋敷の中の探索ができるほど前に到着してるんだぞ。
「嘘言ってんのか」
「そんな! 俺はフィロリアル様に誓ってお義父さんに嘘を言うことはありませんぞ!」
「俺もそう思う」
元康から存在をカットされた錬がようやく意見を言う。だがその通りなんだよな。コイツは壊れて狂っているけど、俺に対して嘘は言わない。この証言も嘘ではないのだろう。
「そういえばこの屋敷で時計ってみたか?」
「いや……でもそんな細かいところまで見てないからじゃないのか?」
「俺は見てませんな」
元康の証言からダイニングには時計がない。俺も思い返すが、どの部屋にも時計らしきものはなかった。もし体感時間が狂わされているとしたら、俺たちに正確な時間を知る術はないということになる。
「外に出るぞ! やばい気がする!」
転送された俺たちの時間のズレ。感覚か時間そのものか、どちらかが狂わされている可能性が出てきた。それは俺たち個人に掛けられた魔法なのか、屋敷という敷地限定の魔法なのか。はっきりさせるために一度敷地から出るべきであろう。
「──尚文」
背後から錬に声を掛けられる。だが構っている暇はない。一刻も早く屋敷から出ることが優先だ。
「尚文、あれ、」
「ちょっと後にしてくれ! くそ、開かねえ!」
鍵は開けた。だが押そうが引こうが扉は開くことはなかった。まるで接着剤で固定されているように、元々は壁であったかのように、ピクリとも開く気配がない。
「お義父さん」
次は元康か! 俺はお前らの親じゃねえぞ!
「鉄のニオイが、血のニオイがします」
それは淡々とした口調だった。事実だけを告げる血の通っていない声。
思えば錬の声はいつもより震えていた気がする。
いくら勇者とはいえ、高校生だ。実際の死体など見ないだろう。異世界に来たってそうそう見るものじゃない。
ゆっくりと振り返る。俺だって死体に耐性があるわけじゃない。それでも見ないという選択肢はなかった。他人なのか、身内なのか。判断せねばならない。脳裏に浮かぶのはまだ合流できてない仲間の顔。中でも俺を救い上げてくれた少女の──。
震える手で握りこぶしを作り、弱る心を鼓舞する。そしてようやく振り返った。
二階から網が下ろされていた。投網のようだ。中身は赤く染まりすぎてわからない。一滴一滴床を叩く赤い雫はカーペットを濡らし、染みを広げていく。ただそれだけというのに俺の視線は投網から離れられなかった。
それは死体だったのか。だが網の隙間から見える指や足が『人であった』と告げている。
ぐちゃぐちゃに荒くミンチされた『人』が網に入れられている。
「──っぐぅ!!」
迫り上がる胃液が腔内を満たし、耐えきれずに床に零す。不幸中の幸いは胃液のみだったことか。