鯖男
2021-10-22 21:19:54
9651文字
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たてゆでミステリー書こうとしたやつ

まだまだ途中だけど最近上げてないから上げるやつ。ぜーんぜん謎解きまでいってない

書かなければ。
自身の存在意義を示すのはそれだけだ。
書かなければ。
力が籠もる。
書かなければ。
ぴし、とペン先が鈍い音を立てた。男の狂気に耐えきれなくなったペンが悲鳴を上げたのだ
醜くひしゃげたペン先はフォークのように二股に分かれた。
書かなければ。
だが男は止まることなくペンを走らせる。歪んだペン先が紙に引っかかり、ぐしゃりと皺がよった。それでも男はペンを走らせる。追い立てられる強迫観念にペンは鈍ることを知らない。
書かなければ。
漏れ出るインクを撒き散らし、延々と用紙を叩く。文字は書かれない。ただ延々と用紙を叩いてインクを撒き散らすのみ。ペン先が機能していないのだから仕方がない。
書かなければ。
書かなければ、と男はペンを走らせる。
紙は大量にしみこんだインクによって紙のみならず、机まで汚していた。そして吸いきれなかったインクは黒いラインを描きながら机の端まで伝い、床を黒く染めていく。
まるで酸化した血液のようだった。



波が終わり、黒幕である女神を倒し、平和が戻った。
訂正。平和が戻ったが、再び他の女神に目をつけられる可能性はあった。
なので盾の勇者である俺、岩谷尚文は盾の力と神の力を使い、世界全体に防御壁を張ったのだ。二度と女神が侵入してこないように。二度と世界をボードゲーム感覚で破壊されないように。
神狩りとして様々な世界に渡る俺の他に、元の世界でラフタリアと結ばれる俺とこのまま異世界で暮らしていく俺と分け身を作った。
こんなに苦労して手に入れた平和だって言うのに、神狩りで終えるなんてごめんだからな。人間、欲張ってなんぼだ。まあ限度はあるが。そう言ったら同僚となったアークは「尚文くんらしいねえ」と笑っていた。強欲な自覚はあるからな。
これからの話は異世界で暮らしている俺が遭遇したものだ。
俺はそれを観測するだけ。口出しも手助けも出来ない。映画館の観客状態だ。
だがそれでいい。
神が生きてる人間に干渉するとかどこぞの女神と同じだろう。生きようが死のうが、それが異世界の俺の運命なのだから仕方がない。
「尚文くんって以外と冷めてるよね。精神年齢だけ歳取っちゃってさ」
「煩い。お前はまだ仕事の途中だろ。さっさと行って来いよ」
「ちぇー」
しっし、とアークを追い払い、画面に投影する。
そこには懐かしい顔ぶれが映っていた。



よく晴れた日だった。
雲一つない快晴だ。
真夏だった。
「異世界にも四季ってあるのか」
俺はシャツの首元を緩め、書類の束で風を送る。重要書類? 知らんな。
「ありますよ。今は夏ですね」
ラフタリアは追加の書類を机に置く。紙束の圧で更に気温が上がった気がした。
「日本の夏より乾燥してるからまだ我慢できるが……
湿気の多い暑さではなく、乾燥した暑さ。地中海とかが近いのかもしれない。俺は海外旅行したことないから知らないが。
だとしてもエアコンという文明の利器に生かされていたオタクにとって、この暑さはキツい。
「こっちでは夏ならではの涼み方とかってあるのか」
日本だと夕涼みや風鈴とかだが。でもそういった文化は、全て日本から来た勇者が持ち込んでるんだろう。なら同じでも不思議じゃないな。
「そうですね、氷菓子を食べたり、海で遊んだりでしょうか」
氷菓子……かき氷のことか? 水魔法適正のある錬やメルティに言えば氷くらい出してもらえるか。そうしたら村で夏祭り……それに乗じてフィーロとキールのアイドルショーなんかもできるか。うわー、すげー金が動きそうだ。やるなら大国女王であるメルティに話通しておかないとな。氷提供だけじゃ済まなさそうだ。
「ナオフミ様が悪い顔をしています」
「失礼だな。大公としての仕事に明け暮れる働く男の顔と言え」
するとノックが聞こえた。嫌な音だ。恐らく良い知らせではないだろう。入室の許可を迷う程度には良い知らせではない。「ふぇえええ」聞き慣れた鳴き声にスルー一択。視線を書類に落とすと、ラフタリアがため息と共に扉を開ける。こら、疫病神を入れるんじゃない。
「ふぇえええ! ラフタリアさん、ありがとうございますぅ」
案の定、リーシアが持ってきたのは書類の束だった。しかも顔が見えないほどうずたかく積まれている。変幻無双流の修行のお陰ですっ転ばずにここまで来れたのか。
「というか、辺境の領主に仕事回しすぎじゃないか」
「ナオフミ様は領主の他に、国の大公や勇者という肩書きがあるので……
申し訳なさそうにラフタリアが呟いた。
欲しくて貰った肩書きでもないのに、そのせいで忙しいとはな。勇者は他にもいるだろうに。あ、でも錬だとくそ真面目に一から情報集めてストレスから胃に穴開けそうだし、元康は狂人だから論外。リーシア補佐につけたらまともにできそうなのは樹か……
「勇者がチェックするだけの書類ならそれでいいんですけど、ナオフミ様のところに集められたのはその土地を治める領主の印や、侯爵以上の地位を持つ者の印なども含まれますので」
「ああ、一カ所で済ませた方が効率が良いとかそんなんか」
俺一人のところに集めれば、領主の印も大公の印も勇者の印も押せるもんな。そりゃ楽だわ。俺の負担は増大だがな!
「勇者の印って眷属器でもいいのか」
「あ、はい。四聖か眷属器、どちらでも大丈夫です」
リーシアの言葉にラフタリアと顔をつきあわせた。そういう重要な情報、さっさと教えてくれねえかなぁ!?
「リーシアは書類の仕分け! ラフタリアはひたすらサイン! 一気に書類減らすぞ!」
「「お、おー!!」」
いいとこの学校行ってただけあって、リーシアは頭の出来がいい。サインのみ必須、内容確認のちにサイン、現在の状況確認から成否判断サイン。見た瞬間に判断、仕分け。修行の成果か、身体の動きに無駄はなく、種類ごとに分けられた書類は見る見るうちに積み上げられていく。あとは根気だけ。ひたすら自身の名前を書いていく作業。ゲシュタルト崩壊なんて何のその。フォーブレイに協力要請してデジタル化の検討を視野に入れるほどにキツい苦行だった。
「ふ、ふぇえええ……
最期の断末魔か、リーシアはか細い声を上げて机に突っ伏した。無理もない。数時間ノンストップ仕分けだったしな。ただサインをするという単純作業をしていた俺やラフタリアとは比べものにならないほど脳内疲労だろう。
「一山減りましたけど……
そびえ立つ書類の山はまだまだある。だが人間限界はあるわけで。俺は椅子から立ち、机の前に立つ。書類が視界に入らないように背にしたままだ。見なかったことにする、はさすがに無理だとしても、明日の俺に任せるはありだろう。明日の俺、任せたぞ。明日の俺が「無責任だ」と喚いているが知ったことか。
「ところでさっき、夏の過ごし方について話していたんだが、リーシアは何かあるか」
「ふぇ」
没落したとはいえ、リーシアは貴族令嬢だった。それなら村娘のラフタリアとは違う涼み方があるだろう。でも貴族の娘に料理教えるほど平民に近い暮らしをしていたのならそう大差ないか?
「ええっと……うちは氷菓子食べたり日陰で読書したりですかねえ」
似たり寄ったりか。さながらラフタリアはアウトドアの涼み方、リーシアはインドアの涼み方といった具合か。
「そういえば暑いときはホラー系を読んだりしますね」
「ホラー」
ドラゴンゾンビやゴーストがいる世界のホラーってなんだ? いや、『いる』と『出会う』だと大分違うよな。
「じゃあ肝試しとかあったか?」
「学校の文化祭でやりましたよ」
リーシアの行ってた学校はかなり良いとこだったはずだが、学校の仕組みや行事がまんま日本なんだよな……
「リーシアさん、キモダメシってなんですか?」
「夜、怖い場所へ行ってドキドキしながら帰ってくる儀式みたいな遊びです」
「肝を試す。ようは度胸試しみたいなもんだ」
「それが涼しくなるんでしょうか?」
「恐怖で血の気が引くのを涼しく感じるんだよ」
ラフタリアはいまいちピンと来ていない。ルルロナ村には肝試しはなかったのか。
「怖いことなら夜の村の外とか嵐とか色々ありますし」
「ああ、そうか」
領土があり、大きな家を持った貴族なら恐怖は少ない。だからこそ作り物の恐ろしいものに悲鳴を上げるのだ。だが村人は盗賊や魔物、自然災害など恐ろしいものが多すぎる。わざわざ恐ろしいものを用意して肝を冷やす必要がないのか。
「肝試しは貴族特有の遊びみたいだぞ」
「そうなんですか」
「よくわかりません……
「学校とかに七不思議とかなかったのか?」
「ありましたよ」
「あったのかよ」
学校の怖い話といえば七不思議。まさか異世界の学校にもあるとは思わなかった。
「えーっとですね、いつの間にか増える階段、三階の踊り場にある鏡を深夜に覗くと鏡の世界に連れて行かれてしまう、とかですね」
「ちょっと不気味ですけど魔法を覚えた今なら幻惑魔法でどうにかなりそうですね」
「まあな」
ホラーと魔法、相性悪いな。というよりラフタリアが脳筋なのか。村の奴らも似たり寄ったりな気がする。
「あと呪われた魔道具とか」
「ほう」
「学校には封印が施されたガラスケースに安置された魔道具があるんです。どれも既に壊れてしまった物を歴史的財産として展示してるだけなんですけど、その中で何個かおかしなものがあるんです」
「展示された魔道具の数は」
「結構ありました。正確な数はなんとも」
正確な数は分からないが、おかしなものがある。なるほど、曖昧なところがホラー向けだな。そうしてホンモノか見間違いか、はたまた作り話が入り乱れて学校の七不思議が作られていくというわけか。
「でも呪われた魔道具とかあるんだな」
「私の通っていた学校は、防壁魔法や解呪に長けた先生がたくさんいましたので七不思議という娯楽になったのかもしれません」
「もし私の村周辺にあったのなら、笑い話ではすみませんから」
確かに。対策があるのなら呪いも恐るるに足らず、といった具合か。一方で田舎の村にそんな物騒な物があったら、誰も近づかず立ち入り禁止区域となっていただろう。
「しかし村で肝試しは却下だな。うちの村の連中は脳筋が過ぎる」
「怖がるより立ち向かいそうですよね……
「ふぇえ……
精神的にタフになってしまった村の子供には肝試しは向かないだろう。それならばラフタリアの案を採用しよう。かき氷に海開きか。ついでにフィーロとキールのアイドル活動も開催しよう。村一つの行事で経済効果を生み出すぞ。
この後、メルティに企画を伝え、詰めていくか。
やはり俺は世界のために戦うより、金のために企画を立ち上げる方が向いている。
「フィーーーーーーロたーーーーーーん!」
「やーーーーーーーーーっ!!」
窓枠が軋みをあげる。どんな声量してるんだあいつら。
窓の隙間から覗けば、村の中央で子供とイケメンが追いかけっこしている。『おいかけっこ』と言えば聞こえはいいが、端からみれば変質者に襲われた幼女だ。顔が良いから通報されてないだけなのに気付け。
「元康も嫌われてることに気付かないかね」
「あそこまで拒否しててあの対応ですからね……
瞬間、赤い双眸がこちらに向く。うわ、何メートルあると思ってるんだ。
「お義父さん! お義父さーん!!」
元気に手を振る元康はとても成人済みには見えなかった。フィーロもこちらに気付いたようで、こちらへ全力ダッシュをしてきた。後ろに元康を引き連れるな。
「ごしゅじんさまー! 助けて-!!」
「せめて元康撒いてからこっちにこい」
「お義父さーん! フィーロたーん!」
俺の助力が期待できないと分かると、フィーロはフィロリアル姿に変身し、村を飛び出した。対する元康は場外追いかけっこだと思ったのか、フィーロの後を追いかけるのだった。勇者といえどフィロリアルに自前の足で追いかけるのおかしいだろ……。レベル上げたら俺でも出来るのか? しないが。
「槍の勇者はナオフミ様とフィーロがいると黙ることはありませんね」
「ずっと喋り続けるよな……
「私はイツキ様と二人っきりだと緊張で黙ってしまうので羨ましいです……
個人的にはずっと喋ってられるよりそっちの方が好みだがな。


企画をメルティに伝えたところ、二つ返事で了承が貰えた。
なんでも俺の村で行う催し物は、俺が思っている以上に大国メルロマルクの経済を動かしてるらしい。
何度か城に出向き、企画を詰めていく。そして何度目かの話し合いを終え、席を立ったとき、メルティに呼び止められた。
「今からするのはメルロマルクから勇者への依頼です」
硬質化した声。だが無機質ではなく、地位ある者が持つ責任感のある凜としたものだ。『仲間のメルティ』のものではなく、『メルロマルク女王メルティ=メルロマルク』から発せられたと理解し、俺は首だけではなく、身体ごとメルティと向き合う。
「なんだ」
「行方不明者の捜索よ」
メルティは端に除けてあった紙束を寄せ、俺に渡す。報告資料のようだった。
一枚目。メルロマルク南部にて男性二名が行方不明。二名は隣村へ行商に向かっていた。
異変に気づいたのは村を出て二日後のことだった。隣村の若者がこちらの村に来たのだ。
「最近そちらから行商にこないからこちらから来させてもらったよ」
そんなはずはなかった。村長は行商人は二日前に村を発ったことを伝え、証明として商業通行手形の写しを見せる。
「では途中、魔物か盗賊に襲われたのでは」
近隣ではあまり凶暴な魔物は出ないはずだが、何事にも例外はある。村の若い男達は捜索隊を結成し、行商ルートを辿っていく。
だが何往復しても、二人を見つけることはできなかった。
二枚目。メルロマルク北東部にて女性一名が行方不明。一名は普段と変わらず、父親が経営しているフィロリアル牧場でフィロリアルの世話をしていた。
いつものように父親は彼女にフィロリアルたちの世話を任せ、自宅で事務作業をしていた。するとフィロリアルたちが騒がしくなってきたので、様子を見に行ったのだ。そこには忙しなく翼をバタつかせたフィロリアたちがいた。
「お前達だけか?」
そこには娘の姿はなかった。
※この件についてはフィーロちゃんに任せること!
注意書きはメルティがメモしたものだろう。しかしまあ、それも妥当だ。なにせ二枚目の事件の目撃者はフィロリアルしかいない。普通のフィロリアルは言葉が喋れないのだから、事情聴取するなら必然的にフィーロになる。しかしあいつの言葉回しは感覚的なところがあるから通訳が必要になるぞ。
三枚目、四枚目……と目を通していき、五枚目からはいなくなった人数だけみるようになった。
「異常な人数、だよな?」
「異常よ。王都から離れれば離れるほど魔物や盗賊の仕業であることは増えるけど、ここまでじゃない。しかも今はメルロマルクに四聖がいるのよ。小競り合いならまだしも、大規模な行方不明者を出しておおごとにするのは犯人側からしても悪手でしょ」
確かに。波や女神討伐の功績を持つ勇者が大勢いる土地で、犯罪を犯そうという気が知れない。
メルティは歳に似合わない重々しいため息を吐き、こめかみを揉む。そういえば女王は俺たちの前でこういった態度は取らなかったな。仲間だとしても弱みを見せないスタンスだったのか。
「行方不明者が出た村から届け出が提出され、国として調査を開始したの。でも日にちがかなり経ってるのを差し引いたとしてもまったく目撃証言がなかったわ。勿論落としたものもね」
「事情は分かった。だが目撃証言も手がかりもない状態で何を調べればいいんだよ」
「フィロリアル牧場」
瞬間、俺の顔が歪んだのは許せ。というか、フィーロを貸し出せばいい話じゃなかったのか!
「フィーロちゃんの証言を纏められる人が一緒じゃないと駄目でしょ。ついでに調べてきてよ。暇でしょ」
「暇じゃねえよ」
だが大国女王であるメルティと比べたら暇なのかもしれない。近日中にやることといったら書類の印と夏祭りの企画詰め程度だ。
というか女王直々の命だ。大した理由もないのに断ったら不敬罪とかになるんかね?
「しょうもないこと考えてるのはわかるわ」
「随分俺のこと分かるようになったんだな」
俺は了承の意として行方不明者リストを受け取った。


フィーロの事情聴取は数分で済んでしまった。
というのも、行方不明の女性が最後に会っていたフィロリアルたちは一様に「わからない」とのことだからだ。
そもそもながらフィロリアルの餌をあげてから、女性はどこか行くのは珍しいことではなかった。お手洗いや自身の食事や様々だったが、フィロリアルが食べ終わった頃には戻ってきていた。いなくなった日も同じように餌をあげてからいなくなった。フィロリアルたちは別段不審に思わず、餌を食べていたらしい。だが食べ終わってから昼寝をし、日が傾いても帰ってこない。おかしい、とその牧場のフィロリアルのリーダーが思った。感情は伝染し、ぐあぐあと鳴き声をあげているところに不審に思った父親がやってきて事件発覚、という流れらしい。
「手がかりは何もなし、か」
フィーロに馬車を牽かせ、荷台の中でメルティから渡された行方不明者リストを並べる。性別、人種、年齢。何もかも共通点が見いだせない。辛うじて共通点と言えるのはメルロマルクに住んでる者ばかりだ。だが根っからのメルロマルク民ではなく、シルトヴェルトから移住してきた者や転勤族のように定住しない者だったり。
「この資料やフィロリアル牧場寄って気がついたこととかあったか?」
「うーん……リストを見る限り、共通点らしいものはありませんよね。リストに書かれない事項が共通項とか?」
樹の言葉にふむ、と腕を組む。確かにリストばかり見ていたが、そこに書かれていないことが共通項の可能性はある。そしてそうならば俺たちにはお手上げだ。今から行方不明者が出た村に出向くのは時間が掛かりすぎる。
「無差別犯行ってのは考えられないのか」
錬はおずおずと手を上げながら答える。別に意見を出す場なのだからそんな気後れしなくてもいいのに。
「その可能性もあるな。なんにせよ情報が少なすぎる」
「やはり事件が起こった土地に直接で向いた方がいいのでは」
「やっぱりそうなるか……
ラフタリアはフィーロの手綱を握りながら意見をした。正直時間が掛かるからやりたくはないのだが、犯人を捜すにしても情報が少ない今ならば妥協するしかない。
「ここから一番近いのは……ココか。フィーロ!」
「はーい」
方角を指し示せば、フィーロは力強く地面を蹴り上げる。冤罪時、行商で行った村だった。だからこそ方角といつ行った村かを説明すれば迷わず行けるのだ。
一時間ほど経った頃か、リスト一枚目の男達がいた村についた。
「盾の勇者様。本日は行商でしょうか?」
「いや、お前達の村で行方不明者が出ただろう。国と勇者たちの合同捜査ということになってな。調べに来た」
本当のことを言えば国が調査しても進展がなかったので、勇者に丸投げされたのだがそれは言わない。何が面白くて国の信用を落とすのか。
「我々もほとほと困ってまして。なにせ一緒になくなった品物はあるのに行商人だけいなくなるなんて。盗賊なら間抜けすぎますもんね」
「ちょっと待て。商品は残っていたのか?」
そんなことはリストには書いていなかった。纏めるのを新人に任せたのか、はたまたいらない情報だと切り捨てたのか。なんにせよ直接話を聞きに来たのは正解だったな。
「はい。行商ルートの往復のとき、道の外れに森があるのですが、そこを入ってすぐに馬車が転倒していたのです。中には腐った食べ物と薬、あと衣服ですね。それは村を出たときから減っていませんでした」
「確か隣村にはたどり着いていないんだよな? なら減ってないのも当然じゃないか」
錬の言葉にラフタリアは同意する。でも馬車が発見された場所のせいで、その当たり前は当たり前じゃなくなるんだよな。
……! いや、行商ルートの途中に馬車があったんですよね。盗賊なり魔物なり、荷台の荷物、盗っていかなかったんですか」
「食い物が荒らされてないのは違和感あるよな」
発見時に腐ってたのは経年劣化からだ。いなくなった瞬間なら荷物を漁る奴だっていただろう。だかそんなことはなく、荷物は減ってはいなかったらしい。
「犯人が魔物だったら、男性たちを食べてお腹いっぱいになったから食べ物を盗っていかなかったのかも……
「樹!」
おっそろしいこと言うなお前!
話を聞いていた村の男も死にそうな顔してるじゃねえか! ……でも可能性としてはゼロじゃないんだよな。
「つまり本当に馬車だけ残して男性二人がいなくなってしまったんですね」
「馬車を引いていたのは?」
「フィロリアルです」
「この感じだと逃走したか?」
フィーロのアホ毛がぴくんと震えた。
「んー? フィトリアがそのフィロリアルなら保護してるだって」
「そのフィロリアルは何か見ていたのか?」
……んーん。休憩取るために森の入り口に馬車を止めようとしたら、馬車がいきなりひっくり返って自分たちもひっくり返ってびっくりしたって。で、起きたらごしゅじんさまはいないし、探しに行こうと紐をちぎったとか」
「森、ねえ……
俺は地図を広げ、行方不明者が出た村を順に指さしていく。南部、北東、北西……場所はバラバラ。行方不明者が出た順番に線を結んでも、意味のある図形が出来上がるわけでもなし。村の頭文字が何かの意味になるか、と考えた時点でミステリー小説じゃないとため息をつく。なら現時点で有力な共通点は一つしかなかった。
「行方不明者の村の近く、林か森か、木が生い茂ってるところあるよな」
「まあ……言われてみれば確かに」
「でもそれって不思議か?」
メルロマルクは気候が安定しており、植物が成長しやすい環境下にある。なので荒野が点在しているシルトヴェルト方面と比べれば緑が多い。
そもそも最初に村を作る際、近場に木が生えてるところにする。薪や木々に実る植物を食べる動物を狩るためだ。村の傍に林や森があるのは不自然ではない。
「犯人はその林か森に潜んでる可能性はある」
「森の中は捜索しましたか?」
ラフタリアが聞くと、男は頷いた。そりゃそうだ。森の傍で馬車が転倒してるんだから最初に森を捜すよな。
「あそこの森はそこまで深くもないので村の男十人ほどで声を掛け合いながら捜索しました。バルーンやウサピルなどはいても、成人男性二人を攫えるような魔物や人間の痕跡はありませんでした」
「村の人間に魔法が使える奴はいるか?」
男は首を横に振る。
「なら幻惑魔法や隠遁魔法で隠れたのでしょうか」
「うーん……
辺りを見回す。この人数なら多少時間は掛かれど、一日で捜索は可能だろう。いざというときの回復役は少ないが、この人数の勇者に立ち向かってくる命知らずは生き残りの転生者くらいか。
「ちょっと森を散策するか」
「フィーロ、サンクチュアリ張れないか? 元康とのフィロリアルレース終わりに張ったの」
「んー?」
首傾げやがった。やっぱりあれ、無意識でやってたのか。こうなるとガエリオン連れてきた方が良かったかも知れないな。あいつならフィロリアルの通訳ぐらい出来ると思うし。
「なんかごしゅじんさまが失礼なこと考えてるー」
「よく分かったな」
いない者に文句を言っても仕方なし。俺たちは互いの声が聞こえる範囲まで離れ、同時に森へ入っていった。頼みの綱は幻惑魔法に耐性のあるラフタリアか野生の勘が冴え渡るフィーロか。