鯖男
2017-06-26 23:28:17
1354文字
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アサシン村正士郎くんがほしい


わたしの親は炎である。
理性をかなぐり捨てた獣のようにうねり猛る炎は、わたしを包み込み圧殺するだろう。だがわたしは死ぬことはない。もえろもえろ、と呪詛を思わせる爆ぜる音を子守唄に、わたしは微睡みに落ちるのだ。
すると呪詛に混じり、随分と無骨な音がした。
がちん、がちん、と金属同士がぶつかり合う音だ。
――ああ、これはわたしに話しかけているのだな。
わたしは漠然とそう思った。ならば礼儀に則り、返事を返さねばならまいて。
大粒の汗を流しながらご苦労様。わたしに何かようかい?……あー、君の名前は?
そう返せば彼は申し遅れた、と返した。金属がぶつかり合う音は止まない。
私の名前は――
ああ、とても良い名だ。羨ましいな。なにせわたしにはまだ『名前』がない。
なんとも間の抜けた話だが、わたしを呼称する名はまだないのだ。
すると――は口元を綻ばぜ、快活に笑ったのだ。
「名なら私がつけよう! 貴殿の名は――
彼がつけてくれた名は未来永劫忘れないだろう。
願わくば礼の一つも言いたかったが、それは叶わなかった。
なにせわたしは刀なのだから。


少年の手に握られた七色の石は、仄かな人工灯に照らされ、淡く輝いている。それが三つ。強く握りしめれば手の中で擦れ合い、存在を主張する。少年が持っている石はこれで最後であり、後ろで控える後輩の祈る姿が石を手放すのを躊躇わせる。
「さあどうぞ」
美女が促せば、決心したのか振り向かずに魔法陣へと石を投げつける。半ばやけっぱちに。微かな望みをかけて。
石はプラスチックのように無機質で軽い音を立てながら数度転がり、停止した。すると石は魔法陣へ飲み込まれていく。
魔力という名の燃料が行き届き、魔法陣は植物が水を吸い上げるがごとく、外側から順に光り輝いていく。
青く清められた光は輪となり、魔力を循環させていく。
一本、二本、と光輪は増えていき、やがて三本になるやいなや、光が変化した。
それは極楽浄土の色である。七色、否、それ以上の色彩を帯びた光が魔力を循環させる。
加速度的に増えていく魔力は視認できるほど濃密なものとなり、縮小・拡大を繰り返す。それはこの世に存在するための形を魔力(エーテル)のみで造り出そうという、サーヴァントの試みである。
「マシュ、サーヴァントが来てくれた!」
「やりましたね、先輩!」
喜び合う二人を尻目に光は実態を成した。足元から順に光は霧散し、音もなく地面へ降り立つ。
「サーヴァント、アサシン。召喚に応じ参上した。うまく使ってくれ」
着地の際に肩にかけられた純白の着物がふわりと舞う。着崩すこともなくきちんと着ている着物が夜を溶かし込んだような黒なため、コントラストが美しい。
アサシンは顔を上げ、少年を見やる。――いや、本当に見ているかは少年からはわからない。
なぜならアサシンは目元を隠す面をしていたからだ。
白狐を模ったもので、視界はとても狭いだろう。
「もしよかったらお面取ってもらっていいかな? 嫌なら別にいいんだけど」
「了解した」
少年はダメ元で頼むと、抑揚のない声で了承される。
面が外されると顕になるのは炎を連想させる真っ赤な髪と、なぜだかデジャヴがある琥珀色の双眸だった。
「真名は千子村正。刀匠ではなく刀の方だ」