鯖男
2017-02-04 16:06:02
1308文字
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キャスリミ拘束

手錠轡首疑似令呪キャスリミ

令呪とは三回だけ許された強制命令権である。
定義が広いものだと強制力は弱まってしまうが、限りなく限定されたものならば、その強制力は絶大である。
だが英雄というのは方向性は違えど、頑固者が成るモノだ。一回では言うことを聞かず、二回でも歯向かう者はいるだろう。
とかく英雄とは扱いづらい。

……英雄は扱いづらい、ねえ」
キャスターのクーフーリンはひとりごちながら分厚い本を閉じた。そしてサイドテーブルへと放り投げる。
カルデアの図書スペースから借りてきた適当な本に、まさか聖杯戦争について書かれているとは夢にも思わないだろうに。
英霊は例外なく、聖杯戦争が終わると自身の『座』に戻される。その際の記憶感情は全て『座』へ保管され、一冊の本となって収納されるのだ。こんなところで他者から見た聖杯戦争についての記述を読めるとは思わなかった。
「まあ俺も含め、自我が強ぇやつは多いよな。ゼロオーバーもそう思うだろ」
ベッドに寝転んでいる青年に話しかけるが、返事はない。
ゼロオーバー。正式名称【リミデッド・ゼロオーバー】とある聖杯戦争に参加していたマスターの一部分を抽出して形成された概念礼装である。概念礼装だから喋れないのか。否、ゼロオーバーと呼ばれた礼装は高位に位置し、魔力を注ぎ込めばその分だけ言語を操る。人理焼却された初期にカルデアに姿を表しているので、注がれた魔力も多量であり、今や新しく来たサーヴァントの案内なども引き受けているほどだ。
ならばなぜ返事をしないのか。クーフーリンと折り合いが悪いのか。否、クーフーリンは他者との距離感を掴めるので、比較的付き合いやすい英霊である。ゼロオーバーも似たような性質をもっているので、以下同文。
ならなぜ返事をしないのか。
「ゼロオーバー──坊主」
クーフーリンが熱に浮かされたように名を呼び、愛称を呼ぶ。「坊主」と毒を孕んだ愛称を耳元で、教え込むように呼び続ける。その度にゼロオーバーの身体を硬直し、浅く呼吸を続ける。言葉を発さない──発せない。
ゼロオーバーの身体には複数の拘束具があった。
まず手錠。夜を溶かしたように角度によって群青にも漆黒にも見えるものだ。
そして轡。馬がするような轡は口を閉じれなくし、涎がシーツへ溢れていく。
最後に首輪。赤い鞣した革で作られたもので、淡い光で編まれた鎖によって繋がれている。その鎖の先端はクーフーリンが掴んでいた。
「手錠、轡、首輪──まるで令呪みたいだろ」
サーヴァントという狂犬を繋ぐ令呪。
クーフーリンはルーンで令呪もどきを作るのではなく、誰でも扱える拘束具を令呪とした。なぜか。ゼロオーバーはわからなかった。というより理解ができなかった。自分はそこまでして繋ぎ止めておく礼装ではないだろうに。高位なので召喚は難しいだろうが、サーヴァントより簡単なはずだ。
問いたくとも轡のせいで、獣の呻き声のようなものしか出てこない。
「うう、」
「大丈夫だ。戦闘に呼ばれたらすぐに外してやる。なんの心配もいらねえよ」
ゼロオーバーを撫でる手は温かみに溢れており、一瞬ではあるが「大切にされている」と勘違いを起こしそうになる。