鯖男
2016-12-21 23:17:56
1315文字
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監禁弓士

監禁生活に慣れきってしまう士郎くん

……なんだこれ」
「手錠だが?」
じゃらり、と太陽が差し込む居間に似つかわしくない金属音。冷たさや硬さから察するに本物だ。『察するに』とか言ってるけどもう見たまま手錠だった。
「ふざけてんのか」
「私がふざけることがあったか?」
思い返してみるが、一切なかった。
唯一ふざけてると思えたのが港のフィッシュ事件だな、あれは本人からすれば真面目にやっているのだ。真面目で本気。
「じゃあなんで」
「私は今まで新しいマスターであるお前に尽くしたことがなかったと思ってな」
だから監禁して主人と下僕のように忠義の限りを尽くしてやろうと思ってな。
気づいてくれ。『監禁』と言った言葉が出る時点で忠義は尽くしていない。
こうして衛宮士郎はサーヴァントであるアーチャーに監禁生活を強いられることとなったのだ。

監禁生活一日目。
衛宮士郎は自室に監禁されている。
と言っても手錠をかけられているだけで、鍵もかかっていない(そもそもふすまだ)し、出ていこうと思えば出ていけるのだ。しかしそれによりアーチャーの機嫌が急降下するのは避けたい。
いつも斜に構えているくせに、へそを曲げると面倒だ。
ごろり、と横になる。そういえばみんなにはなんと言っているのか。風邪を引いた?旅行へ行った?まぁ大事にならなければいいだろう。掃除や洗濯は心配していない。なにせアーチャーがいるのだ。俺がやるよりうまくやるのだろう。監禁が終わったらその技術を盗みたいものだ。
ふんわりと、気軽に、馬鹿みたいに、そんなことを思っていた。
あいつの『監禁』を甘く見ていた。

監禁生活5日目。
腕が痛い。ずっとずっと手錠をかけられているせいで肩が凝る。アーチャーの機嫌を損ねなければすぐにでも終わるだろうと何故思ったのだろうか。相手はこじらせにこじらせた自分である。
鍛錬がしたいというと手錠を外してくれるし、鍛錬を見てくれる。
馬鹿だ阿呆だこのたわけめという言葉を無視すればとても良いことだ。
だが部屋からは出してくれなかった。
トイレはおむつをされそうになり、泣いて喚いて譲歩に譲歩を重ねて尿瓶と携帯トイレを貰った。最初はこれにも難色を示したものの、これ以上の譲歩はないとばかりに無理矢理用を足させられた。
今では普通にできるようになってしまった。
食事とて一人ではさせてもらえない。
食事を盆に載せ、部屋まで持ってくると一口サイズに切った魚を口に運ぶ。俺は餌を与えられる雛のように口を開け、咀嚼する。次は白米。次は味噌汁。
─最後に自分で食事をとったのはいつだったっけ?
記憶が曖昧だった。
監禁生活が5日目なのだから5日前だろう。そうなのだろう。しかしどうもぼんやりしている。俺はずっと前からアーチャーに食べさせてもらっていた気もする。
「うまいか」
「うん。あんたの作るものはおいしいよ」
ぱか、と口を開けばいいタイミングで口に入れられる食物。もう腕なんていらない。
「明日は洋食にしようか」
「パスタとか食べたいな」
「口を汚さないようにしろよ」
「平気だろ。あんたが食べさせてくれるんだから」
次第に俺は食べさせられることが『普通』だと思い始めた。