鯖男
2016-10-16 23:38:03
1410文字
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スチームパンク弓士の世界観

以前言ってた機械竜(自分の体を竜へと改造しようとした)弓と技師士郎の世界観。まったく弓と士郎が出ない

大昔、世界は竜により治められていた。
政治など存在せず、ただ絶対的な力として地上にて君臨する。本能に語りかける恐怖は、言語を有しない猿にも適応し、数百年は争いがなかった。
文明は栄えなかったが、現在から考えれば幸せな時代だっただろう。
歯車が狂い始めたのは、それから数十年後の冬だった。
小さな小石が挟まった程度の狂いだとしても、全てが連結している歯車には致命傷だ。
狂いとは『言葉』だった。
猿は自分たちのコミュニティで使える言葉を生み出したのだ。あとは坂を転がる石のごとく。
言葉を有し、子を育み、生に喜び、選ばれなかったことに妬み、憎み、そして──。
言葉を始めとし、猿は向上心嫉妬心正負の感情を持って『道具』を開発した。
言葉と道具は猿の成長の証というのに。

やがて竜は猿共のいざこざに溜息を漏らし、世界を後にしたと言われる。
溜息。
余談だが、竜の吐く息には特殊な魔力が込められており、最古の竜たる金色竜は大地をも灰に帰す業火を有していた。
そう、業火、である。
猿共のいざこざは竜の青色溜息(実際には深紅だったろうに)により、収まったのだった。
無に帰った、とも言える。

それから数千年。
猿は再び道具を持ち、言葉を有し生きていた。文明も発達し、物々交換から金銭の交換へと進化している。
質素ながら暖かみのある木造一軒家がぽつりぽつりと建ち並び、一日の始まりに猿──文明を持ったのだから『人間』というべきか──は起き上がる。そして日が沈み、夜が顔を覗かせれば寝床につく。以前の猿と比べ、随分と穏やかな暮らしだった。
理由は治める竜の違いだろう。
彼の者は金色ではなく、白銀の鱗を持っていた。
穏やかな湖畔を思わせる翠色の瞳は、ただ静かに人々を見守り続けている。だが人間の力では到底解決できない災害にのみ、彼の者は雄大な翼を広げ、人々を加護するのだ。
竜は人を慈しみ、人は竜を崇める。
それは竜と人間、異なる種の理想だった。

月日は流れ、幾千幾万の夜を越えたある日、ぱたり、と竜は消えてしまった。
前触れはなく、ただ突然に。煙のように消えてしまった。
大人は慌てふためき、子供にはそれらが伝染する。
今まで加護してくれた者の消滅など誰が認めようものか。
しかしふと、一人の老人が口にした。
「もうあのようなケモノ、必要ないのではないか」
確かに人間は、竜の加護がなくても生きていけるほどの文明を手にしていた。
家も木材ではなく、煉瓦やコンクリート造り。地震が来ようとも耐震性が高い組み方をしているので、多少の揺れなら大丈夫だろう。便利な機械を開発し、人々の暮らしは豊かになっている。燃料などもオイルや蒸気による圧力など様々だ。
周囲がしん、とする。
……そう、なのだろうか」と一人が呟く。
……そう、ではないか」と一人が肯定する。
次第に賛同する声が多くなり、溢れた声は竜への畏怖の心に蓋をした。
「俺たちは文明を手に入れた!」
「俺たちの時代だ!」
子供は大きな瞳に狂ったように笑う大人たちをずぅっと見ていた。

人々は竜の加護なき世界を生きた。
自分たちが生み出した文明は更なる発展を遂げ、成長していくだろう。

そして現在。
青い空は今や、伝承の中だけの存在となってしまった。太陽も同様だ。
空を見よ。蒸気により、光も届かない国へとなった。
少年は手を伸ばす。もはや星すら見えない空へと。