※ここのリミゼロは魔術師が作った人工概念礼装であり、感情が希薄。ホルマリン状態のところをカルデアメンバーに発見。魔術師の工房は介護、連れて帰られた。
何の感情も乗っていない蜜色の瞳は俺だけを見つめていた。ホルマリンから出したときも、消毒液臭ぇ研究所から連れ出した後も。
「きゃすたー」
もはや青年と言うべき体つきに反し、舌足らずな物言い。それもそうだろう。何せこいつは年月重ねたヒトではなくモノなのだから。
人工概念武装。
どこぞの魔術師が着目したお題を一族総出で代を重ね、完成させたマジックアイテム。だがどうしてこうなったのか、『それ』は人の形をしていたのだ。
いつかの聖杯戦争の記録にあった自律型聖杯のようなものだろうか。それの亜種か劣化品か。
俺の側から離れない人工概念武装。銘『リミテッド/ゼロオーバー』はとある聖杯戦争の参加者の坊主に瓜二つだった。
「クラス名じゃかぶる奴多いんだから名前で呼べよ」
「な、まえ?」
ガキがやるみたいに小首を傾げる。誕生日数から換算するに、ガキみたいではなく正真正銘のガキか。
「クーフーリン。まあ槍のクーフーリン達とごっちゃになりそうだけどまあそれでいい」
「くー……ふー、りん。クー?」
「犬みてぇだな。お前が呼びやすいならいいな、もう」
魔術師の俺は槍兵の俺よりも達観しているようで、子供のあれそれに目をつり上げるほど大人げないわけではない。他のクーフーリンと差別化もできるだろうし、ここいらが落としどころか。
「おう。ほれ、呼んでみろ」
「……くぅ」
ふわふわした声はとても甘ったるい。記録の中の少年からは発されなさそうなものだ。
しかしこれも存外悪くない。
リミテッドの定置は部屋の隅である。そこで胡座をかき、刀を抱きかかえているのだ。部屋前で物音がすればすぐさま立て膝となり、いつでも刀を抜けるモーションへと入る。まあここカルデアで不審者などいないのだが、その警戒心は好感が持てた。警戒心のなさまであの坊主に似てたらすぐ死にそうだ。
余談だかこの警戒心は対サーヴァントのようで、マスターや医師のおっさん、盾の嬢ちゃんには反応しなかった。盾の嬢ちゃんはリミテッドの中では人間判定なのか。
そして今日も部屋の隅で待機している。
こんこん、と無機質な扉がノックされる。リミテッドが反応ないところから三人の誰かだろう。「いいぞー」と返事をすると、音もなく扉がスライドした。
「今いいかな」
「おう」
盾の嬢ちゃんと同い歳くらいの人間。これが現在の俺のマスターだ。カルデアの新技術かなんだか知らねえけど、複数人のサーヴァントを使役するぶっ飛んだ奴。自身が未熟であることを理解し、その中で何ができるか模索できるまぁまぁ見所のある奴だな。
「なんかリミテッド、クーフーリンに懐いてるからお世話係ね」
マスターから告げられた言葉に俺は目を丸くする。人工的に造られた概念武装が『懐く』だって?
「だから魔術師のクーフーリンの概念武装はしばらくの間はリミテッドで固定、と」
「おいおい、ちょっと待て。つーか戦力的にいいのかよ。俺、バスター一つしか持ってねえぞ」
それならばバスターが二つある弓兵クラスや、最優と名高い剣士クラスに付けた方がいいのではないか。
「宝具がバスターだし、少しでも攻撃力があがるならいいじゃない。ねえ、リミテッド」
俺の後ろに控えていたリミテッドは相変わらずぼんやりとした瞳のまま、小首を傾げた。
人工概念武装だからか、こいつだからか、随分と感情が希薄に見える。
「リミテッドからの反対もなかったから決定!」
「おいこら勝手に……」
「頼むよ。うまい距離間で世話焼いてくれそうなの、クーフーリンしかいないんだ」
テンション高めに面倒の押しつけから一転、眉を下げながら申し訳なさそうに頭を下げるマスター。そういった理由を聞き、ははあと声が漏れる。
現在うちのメンバーは随分と偏っており、ぶっ飛んだキャスターやらなぜかどこぞの金ぴかを彷彿とさせる比較的まともなキャスター、常に締め切りに追われているライター、いや、キャスター。……うちのマスターはキャスターに何かしらの縁でもあるのだろうか。
あとはまともな会話が期待できないバーサーカーに、ローマなランサー。
こういう世話焼きが比較的得意そうなアーチャーたちは大体前線にかり出されている。
つまり消去法で俺になったのか。
「そういうわけじゃないけど……」
「わーったわーった。世話っつってもどっか行かないように見てればいいんだろ?」
「それはクーフーリンに任せるよ。あ、ごめんもう行かないと! マシュ待たせてるんだ!」
言うやいなや、マスターは慌ただしく部屋を飛び出した。せわしないマスターだな。
「っと……リミテッド」
名前を呼ぶと、リミテッドはゆらりと視線を上げた。淀みのない瞳は静かな湖畔を思わせるが、こいつは淀みがなさすぎて触れるのが恐ろしくなる。神への信奉とか高等なものじゃなく、身近な表現としては何も知らない子供に悪いこと教える、みたいな。
俺はリミテッドの前にしゃがみ込み、目線をあわせる。
「お前は俺に装備されていいのか」
「俺は……誰に装備されてもいい。俺の効力は攻撃の補助だから」
「そうか」
話を切り上げ、すっくと立ち上がる。
こいつには意志がない。
ヒトの形を象っていたとしても、思考は刷り込まれたもののみだ。
とは言ったものの、ただの道具として扱うには些か抵抗があった。なにせ見覚えのある顔だ。
「とりあえず暇だしな。その辺ぶらついてくるわ」
リミテッドにそう告げ、部屋を後にした。
音もなく開く扉もそうだが、やはり近代。見るものすべてが新鮮で、恥ずかしながら大人しくなっていた好奇心の芽が疼き始めてしまった。
ひたひたと裸足で通路を闊歩する。ひたひた、ひたひた。
「………」
ひたひた、ひたひた。
二重の足音。
「……何してんだ」
後ろにはリミテッドが立っていた。抱きかかえていた刀は腰にぶら下げ、白い着物はきちんと袖を通している。さすがに概念武装と言えど、半裸で出歩く常識知らずではなくてよかった。
「クーの後、追って、来た」
「別に目的地なんて決まっちゃいねえし、部屋にいていいんだぞ」
「俺は、クーの概念武装、だから」
概念武装ってのは装備者から離れられないもんなのか。いやいや、だって『魔導書』装備してたアンデルセンなんか、うず高く積まれた本の中に魔導書混ぜてたぞ。だから種火集めのとき、ただのハードカバーの本持ってきて死にかかってたし。離れられないってことはないだろう。
「装備してても離れられるだろ。お前は自律行動できるんだから」
「ぁ、」
振り返り歩き出す。
そのまま歩き去ってしまえばよかったのだ。俺はこいつの保護者ではない。面倒見るっつっても常に一緒にいなければならないほどの幼児でもあるまいに。
しかしローブを思い切り引っ張られた。「んぐぅえ!」蛙の潰れた悲鳴がでた。
「て、てめ、なにしやが――」
杖を降りかぶりながら振り返った俺の目の前には意志がない人形などいなかった。
いたのはただの子どもだ。
あまりたなびかない短いローブを皺が寄るくらい強く握りしめ、情けなく眉を下げた子ども。瞳は揺れ、不安げに曇る。まるで迷子のガキだ。
「お、おれ、クーの概念武装だから……一緒にいる」
「だから」
「――――すてないで」
そこからの俺の行動は早かった。まるでランサー時のように最速を誇っていたといっても過言ではない。
筋力Eなんて嘘だった。とはいわないものの、魔術で重量操作し、子どもを担いで自室へ戻る。すれ違いに様々なサーヴァントがいたが知ったことか。
蹴破りたい衝動を抑え、スライドする扉をにらみ付ける。そしてシミ一つない真っ白なシーツの上に坊主をたたき落とした。
「びゃ、」
「お、まえよぉ~~~~~~」
いろいろ言いたいことはあったが、頭の中ぐちゃぐちゃでどうにも言葉がまとまらない。とりあえずやることは決まっている。
「捨てねえよ! お前は俺のだからな!」
ほとんど誘拐状態でつれてきた人工概念武装。人間社会には疎く、戦闘以外は赤子同然だ。意志もなく、意思もないのも当然。まだ赤子なのだから。
「すて、ない?」
「捨てねえよ! 捨てるかよ!!」
保護欲ではない。
俺はそこまでできた人間ではなかった。手助け程度はするが、子育ては俺には向いてない。
なら顔見知りによく似ているからか。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.