鯖男
2016-03-01 13:07:28
1728文字
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闇ディーラー槍×DK士郎


「賭けをしようぜ」
男は余裕の笑みで嘯いた。

男はカジノのディーラーだ。
カジノと言ってもラスベガスやマカオなど、富豪の集う場ではない。日本で行われているのだから『賭博場』と言ったほうがしっくりくるだろう。
男は日本の違法賭博、いわゆる『裏カジノ』のディーラーだった。

現実味のない赤い瞳と、闇の世界に不釣り合いな快晴を思わせる青い髪は、自前のものだと言う。
ビロードのように滑らかな手つきでカードをシャッフルし、対戦相手と自分にカードを配っていく。
「アップ」対戦相手はチップを積む。
「オープン」ディーラーの口角が一瞬吊り上がる。
相手の手札はフルハウス。決して悪い手ではない。むしろ勝率の方が高いから勝負したのだろう。
だが相手が悪かった。
ディーラーの手はジョーカーを加えたロイヤルストレートフラッシュ。
敗者の首にジョーカーの鎌がかかる。
「お客様、──あんたの負けだ」

突然だが男の運は悪い。すこぶる悪い。
悪くて悪くて、違法賭博のイカサマディーラーになってしまうほど運が悪い。

「賭けをしようぜ」
目の前の男はそう言った。
「ぇ、な、んで?」
辛うじて吐き出された言葉はひどく辿々しい。それもそうだろう。俺とこの男とは知り合いではない。それどころか、道ですれ違ってもいない。スクランブル交差点を渡っている最中、一直線に俺めがけて歩いてきて、腕を掴んで路地裏に連れてこられたのだ。もしかしたら、と思って記憶を片っ端からひっくり返すも成果は得られず。そもそもこんな日本人離れした外見の知り合いなんていない。
「いいじゃねぇか。男だろ? 賭けぐらい、二つ返事で引き受けろよ」
「そんな無茶苦茶な!」
だが男の目は本気だった。薄暗い路地裏で男の目だけが赫々としている。
「な、なんで俺なんか……金なんて持ってないぞ」
俺の身なりはそこいらにいる高校生と同じ制服だ。──あ、学校バレてる。色々なことが一気に起きすぎてようやくその事実に気がついた。学校を押さえられたのなら逃げるすべはない。
「金には不自由してねぇよ。ただ──」
「ただ?」
……まぁいいだろ。賭けはするのか、しねえのか」
「しない。そんなものを受ける義務はない」
当たり前だ。学校を知られたのは痛手だが、だからといって賭けをする理由にはならない。毅然とした態度で男を見上げる。悔しいことに男のタッパは俺よりも随分と高い。
「っく! じゃあ俺はお前につきまとう。校門前で毎日待ってやる」
「なんでさ!」
「俺と賭けしてくれたらやらないでやるよ」
ニヤついた男は手慰めか、俺の髪を撫で梳かしていく。大人の男に頭を撫でられるなんていつぶりだろうか。無意識に心が凪うつ。だが男の言葉を反復し、現実へ引き戻された。
無茶苦茶な取引だ。むしろ取引になどなっていない。脅迫である。
しかし──
……わかった。やる」
「よぉーし」
男は人好きのする笑顔を浮かべ、一枚のコインを出した。近くのゲームセンターで使われるものだ。
「一発勝負だ。……調べるかい?」
……わかった。頼む」
男から手渡されたコインを触って確かめる。そして何も細工されていないことがわかった。
「大丈夫だ」
「よし、じゃあコインの表裏で決めるぞ。賭けはそうだな……負けた方は勝った方に一週間服従っていうのはどうだ?」
「ふく……!?」
服従。言葉が重い。奮起していた気持ちはみるみるうちに萎えていく。
「勿論犯罪行為はしないさせないやらせないの精神でな。高校生だって王様ゲームくらいしたことあんだろ。それの延長だ」
「っうぅ……わかった」
「それじゃあ坊主、表と裏、どっちだ」
……………………うら」
「俺は表だな。そらっ!」
甲高い音を当てながらコインは空を回転していく。くるくるくるくると何回回転したのか、男の手の甲にもう片方の手で押さえつける。そしてゆっくりと開いた。
…………ぁ、」
……さて、まず自己紹介からいこうか。俺はランサー。ランサーの名で通ってる。坊主は?」
…………士郎。衛宮、士郎」
俺は振り絞るように自己紹介をした。だってそれが賭けだから。
コインは表面のピエロの絵になっていた。