鯖男
2015-12-06 00:13:27
3289文字
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ゾンビ槍士

ツイッターでだらだら流したものを繋げてみました。

じーさんおはよう。
──じーさん?
まだ寝てるのか。
今日はじーさんの好きなもの作ったんだぞ。
ラップしとくから後で食べろよ。
俺は庭の水やりするから。

バケツをひっくり返したようとはまさにこのことだ。俺は傘の代わりにもならない平べったいかばんを背負い、獣道を走った。
木の枝が容赦なく道を塞ぐも気にしてられない。
「ええいくそ!邪魔だ!」
この時ばかりは長髪が邪魔とさえ思う。街に戻ったら短髪にしてやろうか。
獣道を抜け、整備された道へ出る。真っ直ぐに石畳が敷き詰められており、俺は自身の運の良さに飛び上がった。
近くに民家がある。いや、こんな石畳を敷いているんだ。もしかしたら貴族かもしれない。果たして貴族が濡れネズミを家にあげてくれるのか。
悩むのは性に合わない。俺は延々と続く石畳を辿っていくことにした。
やがて石畳の終わりを目の当たりにする。そこには城があった。城といっても随分と寂れ、廃れ、忘れ去られた廃墟だった。大雨と相まって陰鬱な雰囲気しか感じられない。
「人は……住んでなさそうだな。……よし!」
人が住んでいないのなら許可を取る必要もない。俺はすぐさま廃墟へ飛び込んだ。
不思議なことに城の中は外観と違い、綺麗に掃除されていた。ホール中央の二階へと続く階段には衝撃を和らげる赤絨毯が敷かれている。手すりに指を這わせれば埃などなかった。
「誰か住んでる、のか?」
俺は首を傾げる。べっくし!いかんいかん。今はとにかく服を乾かそう!
シャツを脱ぎ、雑巾絞りする。すると綺麗な床に大量の水が溢れる。……もし持ち主がいたら謝ろう。こちらも緊急事態なのである。絞ったシャツは階段の手すりに引っ掛ける。さて、これからどうしようか。雨が止むまで雨宿りでもさせてもらうか。
「──誰?」
「!?」
不意に声をかけられた。
声は階段上から聞こえた。しかし豪勢なシャンデリアがあるくせに明かりはついていないために姿は見えない。声からするに男だろうが……
「あー、えっと、俺は雨宿りにちょいと邪魔しただけだ! 廃墟だと思ってたんで……。悪いんだが雨が止むまでいさせてくれないか!?」
心からの願いだ。それで「だめだでていけ」なんて言われた日にゃ肺炎で死んでしまうかも。「そりゃ大変だ。いいよ。いるといい」
……え、いいのか?」
「外は寒かったろ?シャワーでも浴びたらどうだ?食事も用意しよう」
思いがけない言葉に拍子抜けしてしまった。
「ありがとう! 恩にきる!」
「気にしないでくれ。風呂場は一階の廊下の突き当りだ。出たら二階の大広間に来てくれ」
俺は言われたとおり、一階の廊下の突き当りまで行き、我が家のように服を脱ぎ捨てる。芯まで冷え切った体に温水はまるで夢見心地だ。
しかし浴室から出るときには少々気落ちする。再びあの濡れた服に袖を通さなければならないのだから。しかしそれは杞憂に終わった。なぜならきちんと新しい服が用意されていたからだ。ご丁寧に下着まで。あまりの至れり尽くせりにもしや化かされているのではないかと勘ぐったほどだった。
だがこのまま全裸でいるのも体が冷えてしまう。俺は用意された衣服に袖を通すことにした。用意されたものはごく普通の白シャツと黒ズボンだった。サイズは少々小さめだが着れなくはない。
「次は二階の大広間だっけか」
これも用意されたスリッパを履いて二階へ行く。
二階には足元のみ明かりがついており、全体的に薄暗かった。こんなんて大広間なんて見つかるのかね?と思った矢先に見つけた。なるほど。ここまでわかりやすければ説明もないはずである。大広間は他の部屋と違い、重厚な扉が備え付けられていたのだ。
は錆びついておらず、鈍い音も立てずに開いた。部屋の中央にはどこぞの王族が使っていそうな長テーブルが設置されている。テーブルの下手には今しがたできたであろう湯気の立った食事が用意されていた。温かいコンソメスープにサラダと薄手のステーキ、そしてクロワッサン。
くら用意されたものとはいえ不注意に口はつけないようにしていたが、ぐぅ、と腹の虫が主張し始めた。恐る恐るスープに口をつけ目を丸くする。
「あ、うめぇ」
腹が減っていたこともあるが、味付けが素朴ながらもしっかりしており平たく言えば好みだったのだ。
「食べ終わったら部屋を用意しておくから今日は泊まっていくといい」
「いや、悪いだろ」
「気にするな」
そして無音。
俺は最後のパンを口に放り込む。
……疑問があった。家主はなぜ姿を表さないのか。至れり尽くせりなのだがそれだけが引っかかっていた。
用意された部屋は多少のカビ臭さはあったものの、体が疲れ切っていたためにすぐに寝てしまった。

……金属の擦り合うような音に目が覚めた。扉を開け、廊下を見やる。辛うじて照らしていた足元の光もすでに消えていた。だが金属の擦り合う音はまだ遠くで聞こえている。
「なんだ……?」
俺は部屋に備え付けられた蝋燭台を持ち、廊下を歩いた。先が見えないせいか、どこまで続いているかよくわからない。
「っく……うぅ……
金属音に混じり、うめき声が聞こえた。子供の声だった。音がだんだん近くなり、廊下の隅に蹲るものを発見する。
「おい、大丈夫か」
「っ! 来ちゃ、ダメっ!」
停止の声と明かりが照らすのはほぼ同時だ。なので俺は今まで姿の見えなかった家主の姿を目の当たりにすることとなった。
「──え」
「ああ……
家主は十代後半くらいの子供だった。赤みがかった髪とキラキラと飴色に輝く瞳が特徴的な少年だ。
だが普通とは違うところがあった。決定的な違いだ。
子供には腕がなかった。
正確にはないのではなく『機能していない』のだ。
肘から下がもぎ取られており、それを何か金属で繋ぎ合わせている。明かりを照らし、息を呑んだ。
剣だ。剣の刃をもげた腕の断面と肘の断面に差し込んで繋ぎにしていたのか。こんなものは治療じゃない。異常だ。
「お前……
「だからバレないようにしてたのに
合点がいった。このような体だからバレないよう、姿を表さなかったのか。
言葉を失う俺を見上げながら子供は言った。
「はじめまして。俺は衛宮士郎。この城の管理をしてる」
なんでもないように。普通に挨拶をしてきた。


昔話をしましょう。
あるところに白と黒の夫婦がいました。その夫婦は仲睦まじく、いつも互いのことを思っていました。
何年か経つと二人の間に子供ができました。女の子です。夫婦は家族となりました。
女の子はすくすくと元気に育ちました。
このまま幸せが続くものだ、と男は思っていました。
そんな根拠もないのに。

ある日、女と女の子は亡くなりました。流行病でした。
「いたいよぉ おかあさまぁ」
「大丈夫よ きっと元気になるわ」
家族で寝るために買ったキングサイズのベッドはとても冷たいものでした。それもそのはず。隙間を埋めてくれた家族はもういないのです。
男は泣いて泣いて太陽が十回上るまで泣き明かしました。
そして思ったのです。
しんでしまうならしなないにんげんをつくればいい。
男は早速始めます。幾年も幾年もかけて、何度も失敗しました。それでも諦めません。そしてようやく出来ました。男の子です。
「ああ……キミは46番目の僕の子だ」
男は少年の手を握りました。とても冷たく固い蝋人形のようでした。少年は死体だったのです。
男は死体に手を加え、動かそうとしていたのでした。
「46番目だから……キミの名前はしろー……士郎だ。士郎、士郎」
すると死体の指がぴくりと動きました。
ふるふると睫毛を揺らしながら開かれる瞳は虚ろではありましたが、あたりを見回しています。つまり生きていました。
「ああ! やっと! やっとだ! 士郎! 僕の息子!」
「い、ぉお……?」
「久しぶりにしゃべったからまだ難しいかな。大丈夫。時間ならいくらでもある」
しろう、しろうと男は死体の少年を抱きしめていました。ずっとずっと抱きしめていました。