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鯖男
2014-11-11 23:57:01
4785文字
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中年槍×男子高校生士郎途中までだってばよ
パソコンの奥深くに眠ってた。貧乏性なのでうp。まだ小説になってないもの。
一日目
夕方のトヨエツはとても混んでいる。というのも毎日五時にタイムセールがあるからだ。
なので三十分前には百戦錬磨の猛者(と書いて主婦)たちが今か今かと待っているのだ。
ちなみにタイムセール品はその時にならないと分からないようにできている。
その為、夕飯の買い物に来たのにタイムセールは日用雑貨で空振り、というのも珍しくはない。
そうして俺──衛宮士郎はその主婦層に交じって食料品売り場の辺りをうろうろしている。
「昨日は焼きそばと手抜いたから今日はどうしようかな
……
あっさりと焼き魚? そしたら付け合せは重い方がいいか。肉じゃが? 材料は家にあるし、今日は魚だけ買えばいいかな」
パズルのピースを合わせるように夕飯の献立を決めていく。どうやら足りないピースは一つだけらしい。
神に願う気持ちで天井に付けられた店内アナウンス用スピーカーを凝視する。
『いらっしゃいませいらっしゃいませ! ただいまより本日のタイムセールを開催します!』
周囲の空気が変わった。例えるならば獲物に狙いを定めた肉食獣。剥き出しになる牙は周囲の威嚇に役立っている。
俺も負けじと気合を入れるが、主婦の闘志の前にはボヤ同然だった。
せめて若さを利用し、肉野菜魚、どのタイムセールだろうとすぐさま駆け出せるように体重移動をしておく。
『まず第一は──!』
簡単に言えば空振りだった。
第一も第二も調味料や日用品。いや、それでも買いに走ったが、一瞬でも「空振りだ」と思ってしまったからか、一つも買えなかった。
買い物かごは依然軽いまま。
中途半端な気持ちで来てはいけなかったのだ。『絶対に買う』という固い意志のもとに任務は遂行される──!
『トヨエツにお寄りくださり誠にありがとうございます! 本日最終タイムセールは──』
重心を前に置く。三百六十度どこにでも弾丸のように走り出せるように。
『──生魚! 様々取り揃えております! 価格はなんと──!』
カルタの早取りのようだ。「なま」の声が聞こえた瞬間に鮮魚コーナーへ走る!
人の隙間を縫い、ショートカットをしながら目的地まで走り切った!
だとしても目の前に聳えるは人人人。もはや密集しすぎて肉の壁と化している。だがここを抜けない限り、本日の主菜は手に入らない。
俺は意を決し、タックルするように肉壁へ突っ込んだ。隙間はなく、ただただ力任せに体を押し込んでいる。
こんなことなら買い物籠は置いてくるべきだった。買うものが少ない以上、篭は身軽に動くには枷となっている。
「ぐ、ぬぬ
……
」
吊りそうなほど手を伸ばし、手探りでパックを探す。すると指先にプラパックの先が触れる。
「こ
……
れだぁああああああああ!!!」
確認できないのが痛いが、手に触れたプラパックを握りしめ、すぐさま人ごみから脱出する。
そして入れ物が変形するほど強く握りしめられた魚をみて愕然とした。
「四枚、だと
……
?」
なま物なのですぐに売ってしまいたいのか、小さなパックにぎゅうぎゅうに詰められた鮭の切り身。それは一枚でよかった。
二枚でもいい。冷凍すればいいのだから。しかし四枚。できるだけ冷凍せずに使い切りたいのだが、さすがに多い。
だからといってこれを戻して割引されていない魚を買うのも
……
。そこで迷ってしまう小市民である。
「
…………
戻すか」
もしかしたら四人家族のお母さんが買ってくれるかもしれない。独り身の俺が買って駄目にするよりよっぽどいいだろう。
赤く大きな割引シールが「僕を置いていくの?」と訴えているように見えたが、首を振るい、再度肉壁の砦舞い戻る。
しかし鮮魚コーナーは刈り尽くされたのか、買い物客は散っていた。勿論商品は疎らにしか残っていない。
「いい人に買われろよ」
冷ケースの中に切り身を戻そうとした瞬間、横から腕を掴まれた。
「ちょい待ちな。それ買うんじゃないのか」
ふと見上げれば身長は百八十以上あるだろうか。くすんだ青髪を一つにくくった中年男性がいた。
「いや、買おうと思ったんですけど、確認せずにかごに入れてしまって
……
。さすがに四枚じゃ消費しきれないんですよ」
「ははぁ、なるほど。じゃあ俺と割り勘しねぇか?」
「は?」
思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「俺も魚買いに来たんだけどよ、見ての通り主婦の力に圧倒されてな。このままじゃ晩飯抜きになるところだったんだ」
話を聞けば男も独り身らしい。なら二枚ずつ分ければ更に安く手に入り、魚を無駄にせずに済む。
「決まりだな。すんませーん、魚入れるパックとかありますー?」
男の行動は早かった。すぐさま近くを歩いていた店員を捕まえ、プラパックを手に入れる。そしてそのままレジに並び、会計を済ませたらちゃっちゃと魚を分けてしまった。
「じゃあな坊主。助かった」
「ちょっと待ってください!
……
えっと助かりました。ありがとうございます」
結果的には俺も得したので男に会釈をする。
「礼にはおよばねぇよ。俺も得したしな。にしてもお前、高校生だろ? 夕飯とか作ってんのか」
「いやぁ
……
うち、親いないんで」
そう。俺の家には俺しか住んでいない。これがアパートみたいに六畳一間だったらそうは思わなかったろうけど、生憎、俺の家は平屋の武家屋敷だ。
俺の養父がボロボロだった武家屋敷を買い上げ、リフォームしたのだ。なので部屋数は多い。
毎日使う部屋は自室と居間の二部屋しかないので、まったくもって無駄なのだ。
それでも埃が溜まらないようにローテーションで掃除をしている。
「あー、そうか」
バツの悪そうな顔で頭をかく男に「気にしないでください」というと、乱暴に頭をかき回された。
「まぁなんだ。お前よくここ来るのか?」
「買い出しは大体トヨエツです。タイムセールもよく来ます」
「じゃあまたなんかあったら割り勘しよーや」
これがこの男との出会いだった。
二日目
それからというもの、一週間に一回の頻度で男と割り勘をするようになっていた。
先週はもやし大袋を。先々週はキャベツ一玉を。
そして今週は──
「
……
ない」
ぶら下げた買い物籠の中には何も入っていなかった。
日用品がセールだったから? 違う。
主菜で使える食材がセールじゃなかったから? 違う。
そもそも競争率が高いタイムセールで今まで買えていたことが不思議だったのだ。
そして今日。恐れていた事態が起こってしまっただけだ。
「坊主
……
の方も成果なしか」
「ということはそっちも
……
」
そういうと男は両手を上げ、お手上げのポーズをした。
買い物前に確認したが、家には主菜を張れるような食材は存在しない。なら値引きされていないものを買えばいい話なのだが、できるだけ節約をしたい。
というのも、養父が遺してくれた財産には手を付けたくないのだ。なのでバイトした金をやりくりしている。
育ちざかりというのもあり、一食抜くなんて考えられない。
しかしいくら考えたところで値引き品は残らず駆逐されているのだ。考える余地はない。
「仕方ない。今日は定価で買うか
……
」
「定価で買うなら今日は俺に付き合えよ」
「?」
男はにっこりと笑いながら俺を引きずりながらトヨエツを後にした。
男に連れられるまま着いた先は屋台のラーメン屋だった。
「今日は俺がおごってやる」
「は?
……
急に何言ってんだ。駄目だろそんな」
なにより奢ってもらう動機がない。たかだか割り勘する仲でそこまでしてもらう意味がない。
すると顔に出ていたのか途端に不機嫌そうになる男。
「俺がおごってやるっつーてんだから大人しく奢られろ!」
「え、ちょ、うわっ!」
「おっちゃーん、みそラーメン大盛り二つな」
そういうと屋台の店主は「あいよ」と言ってから纏められていた麺を湯に入れた。
油にみそ、ラーメンに詳しくない俺には分からないが、手間がかかっているだろう。流れるような作業はさながら魔法のようだった。
「すげーだろ。俺の行きつけの店」
「ああ、すごい
……
じゃなくて! 自分の分は自分で払う!」
「ははは、俺は同じこと何度も言うほど優しくねーぞ。つーかよ、ガキが遠慮してんじゃねーよ」
「ガキっていうな!」
「ムキになるからガキなんだよ。っと、きたきた」
突き出すように出されたのは白髪ねぎがこれでもかというくらいに入ったみそラーメンだった。鼻をくすぐる香りに腹の虫が鳴いた。
そう言えはもう夕飯の時間だったな。
「っくく
……
ほれ、伸びるぞ」
「あ、ああ。いただきます」
「イタダキマス」
手を合わせ、さっそく食べ始める。金額の件は食べ終わってからでも十分間に合うし。
一言で言えばうまい。みそラーメンと言えば程々にこってり系だと思っていたが、ここのはあっさりしていた。
といっても味気ないわけではない。白髪ねぎが口の中をさっぱりさせてくれるのだ。つまりコンビネーション。
みそのこってりとねぎのさっぱり。これは食の永久機関じゃないかー!
気が付けば随分あった麺は綺麗になくなっていた。
「うまかったろ」
「ん
……
すげーうまかった」
余韻に浸りながらため息を漏らす。
「そりゃあよかった。なんつったって俺の行きつけの店だから」
「よく来るのか?」
「まー、週五くらい?」
……
単純計算で殆どラーメンってことになるよな?
「自炊は」
「しねーなー。坊主と初めて会ったときはほんとたまたまだし。三か月ぶりの快挙っつーか」
からからと楽しそうに笑う男。しかしこっちは笑ってられない。
「おま、あり得ないだろその食生活! 自炊しろ!」
「いやー、仕事終わってからはキツイって」
「きつくない! どーせ昼飯も外食なんだろ!」
「よくわかったな」
「駄目だ!そんなん
……
駄目だ」
脳裏に浮かぶは養父の姿。そう、養父も健康管理に疎かった。引き取られる前は外食しかしていなかったようで、俺は図書館通いをしながら料理を覚えた。
野菜の煮物を出す度に人参やら蓮根やらを弾く養父。それを怒る俺。
普通なら逆の立場だろうが、俺たちにはちょうど良かった。
そんな彼と男が重なって見え、放っておけなくなった。
「じゃあ俺が作る」
「は」
「これから俺はあんたに弁当作る! 今日のお礼だ!」
「でも」
明らかに比例していない申し出に男は異を唱えようとした。しかしそんなものはねじ伏せる!
「中年が遠慮してんじゃねーよ!」
夜なのも忘れ、大声で叫ぶ俺。遠くの方で犬の遠吠えが聞こえた気がした。
「
……
えっと、じゃ、じゃあヨロシクオネガイシマス?」
「任せろ!」
威勢よく啖呵を切ったはいいが、家に戻り落ち着くと自分のしでかしたことに赤面するのはまた別の話。
三日目
それから俺は毎日弁当を作ってはトヨエツに行く際に持っていった。
男と会うのはトヨエツのみなので、そこで渡すのだ。
養父への食事作りが功を奏したのか、バランスのいい弁当が作れていると思う。
「坊主ー、明日は肉大目がいいなー」
「中年はすぐ肉付くから野菜食べろ」
軽口を叩きながら中身の入った弁当を渡すと、空の弁当箱が返される。
重さからするとちゃんと食べてくれているようだ。
「そーいや、明日坊主暇か?」
頭の中で明日の予定を顧みる。バイトも学校もなかったはずだ。
「ああ、暇だよ」
「そうか。じゃあ家こねぇか?」
「なんでさ」
そりゃあ弁当作ってきてるし、結構仲は良くなったと思っている。しかし仮にも出会って間もない子供を家に招待するのは常識的にどうなんだろうか?
「弁当って冷てえじゃん? たまには温かい料理が喰いたいわけよ」
なるほど。だから俺に明日休みか聞いたのか。
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