鯖男
2013-11-11 00:41:06
1458文字
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宝石士郎


以前ツイッターで流したのをちょいと長くしたもの。
下記設定だけわかれば大丈夫。
士郎→体液が宝石
弓と槍→傭兵(夢は国家転覆)



諸悪の根源は私の溜息なのだろう。
私とランサーが所持している装備品や刃物、銃器、銃弾に至るまでありとあらゆるものがガタがきていた。詳
しく言えば、刃は欠け、シリンダーには罅が入り、銃弾も二人の両手で数えられるほど。昔から電化製品が壊
れるときは同時と言われているが、正にそれだ。だが買い換えようにも先立つものがない。
「だぁーからー、ボディガード代に色つけてもらえばいいだろー。それだけの働きはしてんだからよー」
「たわけ。そんなことにしたら元から少ない依頼が更に減る。路頭に迷いたいのか」
最初から提示されている金額より上げたらその場は乗り切れたとしても、その後の信用問題に打撃を受ける。私たちだけならまだしも、幼い子を連れて家無し文無しは避けたい。
「じゃあどーすんだよ。いくら俺が強くても素手で戦争仕掛ける気は起きねーぞ」
「む……
何もかもが足りなかった。
八方ふさがりの袋小路。その上、煙で燻されているオマケつき。
問題の大きさに私はただ溜息を漏らした。
──部屋の外で士郎がいたことも知らずに。


その話から数日後、私が依頼探しから帰ってきたときだった。
部屋には誰もいない。恐らくランサーも依頼探しに行ったのだろう。奴も士郎を可愛がっているので路頭に迷う最悪を避けたいはずだ。
すると奥のドアが開き、士郎が顔だけ出してきた。
「おかえりアーチャー」
「ああ、ただいま。何もなかったか?」
「なかったよ」
その一言に安堵する。
過保護かもしれないが、治安の悪い土地で子供一人留守番させて平然としていられるほど豪胆ではない。
「あ、そうだ。アーチャー、手出せよ」
「?」
少しだけ表情を緩ませながらポケットを探る士郎。はて、綺麗な葉っぱでも見つけたか。はたまた路上に落ちていた古臭い鍵でも見つけたか。このぐらいの子供なら、鍵を見つけたら冒険が始まりそうでわくわくするだろう。
だが手のひらに転がされたものはそんな可愛いものではなかった。
ビー玉大の赤い石──紅玉だ。
光に当たると中で炎が燃えているように炯々と輝いている。
炎のようなのに、私の手のひらはぶるぶると震えていた。
……士郎、お前」
「? お金ないんだろ? 宝石売ったらお金できるだろ?」
ああそうだな。宝石を売ったら金が手に入る。簡単な方程式だ。
「これは……
「どうした?」の一言が喉に引っかかって出てこない。
「ああ、腕切ったんだ」
そう言って長袖を捲り、生白い腕を晒した。何度も似たような状況を見てきて、同じように対処したのだろう。細い腕には無数に切り刻まれた痕があり、その上に新しい切り傷が刻まれていた。そしてその傷から紅玉と同じくらい真っ赤な血が腕を伝い、零れ落ちる。すると落下するまでに球体になった血液は固体となり、乾いた音を立てながら床に落ちた。かなり深くまで傷つけられているだろうから暫く止まらないだろう。次から次へ紅玉は生み出される。
「て、手当てを……
「平気だって。暫くしたら止まるし、床汚れないし。それに薬だって安くないしな」
私が悪かった。
全て私が悪かったから、そんな何でもない顔をしないでくれ。
傷を負ったら痛がってくれ。
私たちは──私は宝石が欲しいためにお前と一緒にいるのではない。
どうすれば分かってもらえるのか。
宝石の落ちる音だけが部屋を満たしていた。