こゆ
2026-07-16 19:56:00
5484文字
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Q.E.D

ペンシャチ

ハートのクルー視点で自白剤飲んで(??)シャチに告白するペンギンの(??)ラブコメ。
これはラブコメです!!



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Q.E.D


そういえばあのヤバイ薬さ。
それなりに賑わっているレストランの一角でそんな声を聞いた。ペンギンの声だ。シャチと向かい合って席に座っている。あのふたりほんと良く一緒にいるよなあ。同行者のウニが呟いたのを聞き流しながら、一口大に切ったホロホロ鳥の唐揚げを口に運んだ。
普段であれば見知った顔を見かければ声をかけに行くところだけれど、あのふたりが顔を見合わせて、二人きりですみっこの席にいると言うこと自体がちょっときな臭いし、正直近寄りたくはない。こういう時は大抵、向こうに見つけられてしまって、うっかり面倒ごとに巻き込まれるなんてことも少なくない。しかし、なるべく存在感を消しつつ、しかし会話の内容は気になるため耳だけはそば立てておきたい気持ちがある。なにしろ会話の出だしが昨夜の捕物、つまりは敵船の押収品から出た薬についてだったからだ。

「ヤバイのはヤバイんだけど、危険物でないことはキャプテンと二人で確認した」
「え、それは聞き捨てならな――
「で、キャプテンがおれにくれるっていうから残りをもらった。実物がこれ」
「おれの話聞いて……!? っていうかすげェ色」

ヤバイ薬はすごい色をしているらしい。
キャプテンと実験済みってことは、どっちが飲んだのか? 成分的に問題なければどちらも飲みそうではある。
むしろ、目の前にキャプテンが居たならば、おそらくなんの不安もなしにペンギンはそれを口にするだろうということが容易に想像できた。もちろん、キャプテンがノーを出したら即廃棄だ。

「これを昨日の夜にキャプテンと二人で飲んだ。で、シャチが今見てる通りおれの命に別状はなかった」
「!?………………ああ、もう! 百歩譲って飲んだことはもうしょうがないとして、なんで二人同時なんだよ!」
「どっちかだけ飲んだらフェアじゃねーだろ。そもそも、おれたち毒に耐性があるだろ? まァ命に別状はなかったというより、健康被害すらなかったし」
「ちょ、ちょっと待って、なんで? 本当になんで二人でそんな危ないことを……?」

たしかに。
シャチに見せてるってことはシャチに盛る用ではないとして。シャチに盛るならポーラータング号の中でペンギンなら容易に出来るだろうな。

「きちんとキャプテンには使用目的を伝えた上で成分を調べてもらった。その上で、おれが飲んで確かめるって言ったらキャプテンがじゃあおれも、みたいな流れでて……同意の上だから大丈夫」
「ペンギンは大丈夫の意味を一回辞書で引いて見た方がいいぜ」
「この薬について説明するな」
「だからひとの話を聞け!!」

吠えるシャチを無視して、ついに本題に入るらしい。多分、これまでのことは前座だろう。ペンギンにしては状況説明が結構丁寧だ。理解はできないが。今は、判断材料を一度全て揃えてこちらに提示しているように見えて、実は包囲網を狭めているようにも見える。背景説明までをきっちりと行なったうえで、こちらに判断を委ねているように感じさせる手腕だと思う。
 
 ――退路が絶たれていることに、果たして。
 
おそらくだが、ペンギンには相手に選ばせようという気持ちは本当にある。全てを明らかにせずに本題に入ろうとするのは不誠実でありフェアじゃないという考えも。だからこそ、ペンギンは多少やり方が乱暴でも信頼されているし、最終的に物理で解決することがあっても恨まれない。ついつい頼ってしまう。
 今回も、ちゃんと〝これはヤバイ薬なんです。しかし、健康に問題はないんですよ〟と、まず説明を行いたかったのはそういう理由からだろう。

「本音しか話せなくなる薬だそうだ」
「それって自白剤てこと? それなら外から持ってこなくてもおれらが使ってるやつが――
「そういうのじゃなくて、本当に魔法みたいに素直な気持ちでしゃべれる薬」
「なにそれ。うさんくさい」
「おれもそう思う」
 
はははっ、てペンギンの笑い声が聞こえた。シャチは目の前の相棒が、心底うさんくさそうにうさんくさいと発したことがちょっと面白かったのだろうか。つられて笑いが溢れた。シャチも、ちょっと笑ったことにより、ふたりの雰囲気がとても和やかであると言うことが伺える。これなら、こんな遠くから見守らなくても大丈夫じゃないか。そう思って席を立とうとすると、その手をやんわりと上から掴まれた。目の前のウニが静かに首を振り、視線をペンギンとシャチのいる席へ投げた。
ふたりは変わらずに和やかとは形容し難いが、そう悪くもない雰囲気で〝ヤバイ薬〟と思しきモノを挟んで対峙している。いつも通り気安い会話ではある。昔からずっと変わらない距離感なんだろうと、ふと想像する。シャチの言った冗談にペンギンが笑って、その笑ったペンギンを見てシャチも笑う。ふざけあって肩を叩き合ったり。故郷で別れた兄弟分を思い出してちょっぴり懐かしくなる。今は、冗談を言い合える相手が目の前でめんどくさそうに頭を掻いているウニや仲間たちにかわったが、そろそろ手紙を出さしてみようかと久しぶりに思い出したツレのことを考えた。

「で、魔法のような効果の真偽は?」
「実はある」
「ほう」
「キャプテンと試したと言っただろ」
「あの人はそもそもあまり嘘はつかないだろ。本当のことを黙りがちなだけだ。あと、キャプテンの嘘が嘘かどうかの判断がつかねー」
「だから条件をつけて、何を聞かれてもNOと答えるようにって」
……で、嘘がつけなかったと」
「そういうこと」

おっとこれは面白いどころの話じゃない。キャプテンに効くなんてかなりのレベルのヤバイ薬じゃないか。下手に流通すればとんでもない自白薬になりかねない。

「なんて聞いたんだよ」
「アナタは自船のクルーを大切に思っていますか?」
「それは、……………………おれも呼べよ!!」

 (おれも呼べよ!!)
おれの心の声と、シャチとの思いがシンクロした。ペンギンはそういうところがある。抜け駆けしても、なぜかペンギンならしょうがないかとなる。別に奴はNO2とかそういう役職がついているわけではないのに。

「それのどこが危険じゃない案件なんだよ」

シャチの声音ですら少し低くなってしまった。しかし、そんな心配をよそにペンギンはつとめて明るい様子でいるらしい。

「キャプテンで実験したと言っただろ。既に問題ないと判断してるということだ」
……
「安心していい。入手先も特定した。そして、この一瓶の所持も一種の情報提供のうちだ。ごく少量だが、ここまで技術が進化しているっていうのはおれたちにとっても利がある。あと、ここにあるこの薬だけど、誰かに悪用されることはない」
「なぜそう言い切れるんだよペンギン?」
「今からおれが全部飲むから」
「はあ?」

ガタン、と音が聞こえた。おそらくシャチが立ち上がったのだろう。話題が話題だし、展開が急すぎてうっかり振り向きそうになったが、どうにか野次馬根性を抑え込んだ。沈黙が続く。
 
「の、飲んだのか?」
飲んだらしい。
「甘い」
甘いのか。
「味の感想は求めてない!」
そりゃそうだ。
「即効性がある薬で、二滴で十分ほどの効果だった。今おれが飲んだ分で、大体三十分程度で症状は落ち着くだろうな」
「症状って……身体に変化があんの?」
「多少動悸がして顔が火照る程度だったかな。酒を飲むよりよっぽど安全だ」
「なにも安全じゃないって! ほんとなんなのおまえ」
「シャチは時々不自然なくらい過保護になるなァ。敵の目の前でちょっと武器借りるな?っておれの獲物持って飛んだときの方がよほど危険だったと思うんだが」
「おれが知らない危険なことすんなって話」
「へえ? シャチは自分の手が届かないところにおれがいるのが不安なんだ」
………いやな言い方するな。心配するのは当たり前だろ。相棒なんだから、」

苦しすぎる。思わず口元がにやけてしまったくらいには聞いてて苦しすぎる言い訳だ。
ところでペンギンの発言は、彼の言うとおりであれば薬の効果が作用して、あの薬を飲んだ直後から全てが本音ということになる。彼の告げている動悸や顔の火照りというのは間違いないのだろう。

「さて、本題だけど」

おっとまだ続くらしい。そりゃ、変な薬をもらいました、今から飲みますので心配ないですよ。という情報共有だけならば、わざわざシャチの前でするパフォーマンスではない。そもそも、ペンギンが飲むんかいってツッコミがしたくてウズウズしていてすでに吐きそうだ。多分ウニも。ずっと小刻みに震えている。
さて、当のシャチ本人は本題だと言われた直後にへえだかへぁだか、なんか情けない声を出して返事をしている。多分なんかそれどころじゃなく頭がこんがらがっているのだろう。ペンギンが淡々としているのが恐ろしいほどだ。海のギャングは形無しである。みんなのムードメーカー、頼れる古株、海戦ではペンギンくらいしか右に出る者がいないというのに。

「おれがシャチにする質問は全て心の底から知りたい本音だ。聞いてシャチ」
「え、あ、おい」

ペンギンが質問するの?
薬飲んだのペンギンなのに?

ペンギンが何をしたのかはわからないがシャチがなんか焦っているのは確かだ。

「おれはシャチが好きだけど、シャチはおれのこと好き?」

それを聞いて確信した。
 
なあんだ。きっとキャプテンが渡したという自白剤はフェイクだ。おそらくヤバイ薬の成分をふたりで分析して、その場のノリでお互いに飲んだのは本当だろうが、ジョークグッズとして遊んだだけだろう。効果はゼロ。あるとしたらプラシーボ効果だけで、あの薬はただの甘いシロップなのだろう。飲む前にペンギンが告げていた丁寧な説明たちはすべて、いや、ほとんどが嘘だ。本当を織り交ぜた嘘は見破られにくいというのは定石だが、ペンギンが使うとこうもすんなりと信じられてしまう。日頃の行いというやつでもあるかもしれないが、恐ろしいことこの上ない。うっかり全部信じるところだった。あーあ、危なかった。

で、うっかり全部信じてる男が、ペンギンの真正面にいるはずなのだ。明らかに狼狽して声が上擦っている、シャチだ。

「な、何言ってるんだペンギン! へ、変なもんでも飲んだのか」
「飲んだだろ。今、目の前で」
「ぁ、……そうだった」
「おれのこと好き?」
「は!? ゃ、お、おい」
「昔はこう聞いたら、素直に返事をしてくれたな。『おれも、ペンのことすき』って」
「チビの頃だろ! そんな、の、覚えてない……
「嘘はダメだよシャチ。おれはいま、偽りなく本音でシャチと向き合ってんだから。なァ、教えて欲しい」

う、嘘つけ! と思ったが口には出さない。ウニがすっかり遠い目をしている。もしかしたらここの食事代はあとであのホラ吹きのペンギン帽子の胡散臭い男に請求したら気前よく奢ってもらえる気がするので、領収書でも貰っておこうかと静かに席を立つ。もう、ウニも止めることはしなかった。

「シャチ、おれのことが好きか?」
「こ、答えさせてどうするんだそんなこと」
「シャチの気持ちが知りたいだけだ。シャチが何かに遠慮したり、勝手に身を引いたり、おれの気持ちを自己解釈しようとしてもムダだ。おれは嘘偽りなくシャチが好きだし、勘違いもしていないってこと」

Q.E.D。疑うかけらもなく、ペンギンはシャチに愛の告白をしたってわけ。証明終了。
うーん嘘じゃないってことをこんなに大事にしなくちゃいけないなんて、シャチの自己肯定感どうなってんの。
信じることは幸せになれるってこと。
でも、自信がなかったら?
全て真実だと見せつければいい。
きみを愛しているよ。きみは?と聞かれたら迷わず愛していると返事ができる状況ってこと。つまり、シャチもその通りにしたらいいのだ。かつて、何のしがらみもない幼少期にシャチもペンギンに愛の言葉を返していたらしいんだから。知らないけど。

「シャチもおれが好き?」
「いや、て、手を離し」
「それともおれのことが嫌い? おれはシャチが好」
「う、うるさい!!…………わかったって!もう言うな!」
「ダメだ。あと二十分しかない。わざわざこうして服薬してまで、おれの言葉をシャチが茶化したり、嘘だと決めつけたり、おれの幸せを勝手に振りかざす余地をなくしたんだ。ちゃんと答えろよ」
「だっ……! そ、そんなの、」
「言えるだろ? シャチ」
「う、」
「一言答えるだけだって、シャチ。おれのこと好き?」
「うううう!!」

ここで割って入ればきっと謎の責苦に遭うシャチにいたく感謝をされることだろう。しかし、会計でもらった領収書の額を見て、ここは静かに何も見なかったことにして立ち去るのが懸命だろうと判断した。
なんなら周りの客にもそれとなく〝ただの痴話喧嘩なんでお気になさらずに〟感を出してきた。ぜったいペンギンに奢らせる、と強く誓って。
ありがとうございましたーという店員の声を聞きながらウニと一緒に店外に出る。ちょっぴり薄暗い店内から、日差したっぷりの明るい屋外に出て、視界が少し眩しい。うーん、と伸びをしていると、同じようにぐるんと長い腕をストレッチしながらウニが珍しく穏やかに目を細めた。

「クソほどくだらねー茶番だったな」

 まったくその通りだと思った。