6tk616
2026-07-12 19:00:08
887文字
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貧しい麦

教授の記録 ※レイチュリ要素なし

……ある種族は永い年月、痩せた土地でわずかながらの麦を耕して命を繋いでいた。
いつからこの気候の厳しい星に移り住んだのか?なぜこの星を選んだのか?それは当人たちも憶えてはいない。
民たちは日々を生きることで精一杯であった。
蓄えができるのはごく一部の貴族のみだった。
そこにカンパニーが根を下ろした。
カンパニーは無償でありとあらゆる食物を与えた。
蜜滴る果実、油を生み出す種、そして黄金の麦。
それはこの星の住民にとって、一生を以てしても口にできないものだった。
なかでも貴族たちはカンパニーの用意した黄金の麦を欲した。
黄金の麦は彼らにとって至上の贅沢品であるそれは彼らにパンと酒をもたらした。
黄金の麦は彼らの厳しい土地では実りをもたらさない。
彼らはカンパニーに黄金の麦を買い求め続けた。
飽食の見返りとしてカンパニーは貧しい麦の所有権を全て買い取った。
貴族は喜んで差し出した。
民は束の間の宴を楽しんだ。
──なぜ束の間なのか?
それは間も無くして、その星に風土病が流行り始めたのである。
風土病はゆっくりと民を蝕んだ。
直ちに死に至るわけではないが、確実に老化を早め、知能や記憶を穏やかに奪っていった。
それでも黄金の麦を欲する人々をカンパニーは見捨てなかった。
風土病の「特効薬」を開発したのである。
特効薬はたちどころに風土病を撃退した。
その事例はカンパニーの数少ない慈善事業として讃えられている。
そして現在、その貧しい麦は品種改良され、今となってはカンパニーの看板商品となっている。
痩せた土地で育つ栄養豊富な万能作物としてだ。
彼らは不幸か?仮に不幸だとすればこの物語の悪人は誰か?
答えは明白だ。麦を手放すことを選択した星の住人自身だ。
カンパニーは星の住人の選択を尊重する。
カンパニーは企業として顧客の需要を満たしたに過ぎない。
彼らが望んで自立を放棄し、今があるのだ。
だがそれも彼らの選択なのだ。
この物語に教訓を求めるとすれば、介入せずにおくのが当人らにとって幸福なこともあるということだ。
援助は必ずしも人に幸福をもたらさない。