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みずか
2026-07-12 01:06:01
8455文字
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First Day
あの千速さんが敬語を使う浅葱先輩ってことは、先輩・後輩として切磋琢磨したり仲良く過ごす事もあったんじゃないですか…ありし日の日々を見たいの妄想高まって、公式で出る前に書いちゃえ書いちゃえのノリで書きました。K察の着任とかのあれやそれやは、ふわっと雰囲気で…
出会いは突然だった。
暦の上では秋、秋麗の心地よい陽射しを浴びながら、日々業務にいそしむと言いたい所ながら、残念ながらまだ厳しい残暑が残っている。それでも真夏の青空とは違い、見上げる青空はやや色を薄め、なびく雲の模様替えも始まっている、そんな頃。
「浅葱、ちょっといいか」
「はい。何でしょう中隊長」
「来月頭に、ウチに新人が一人来る。面倒見てやてくれ。君の二つ下で、女性隊員だ」
「分かりました。
……
この時期に珍しいですね」
だいたい新人の配属は春が多く、第三交通機動隊も四月に何名か迎え入れている。教育指導役の先輩隊員が付きながら実務を教え、秋の気配を迎える頃には一通りの業務がこなせるようになる。
いわば季節外れの新人、しかも同じ女性白バイ隊員とあり、いったいどのような人物なのか俄然気になることろ。
「交番勤務の頃から本人も希望していた上に才能も申し分なし、規定通りに交番に置いておくよりは、早く交機に配置してやれという推薦もあったらしいぞ」
「それはまた」
「新人の資料、見るか?」
渡されたファイルには、来月転属になる新人隊員の履歴書、警察学校での成績、交番勤務期間の内容が書かれていた。現在は交通機動隊本部にある訓練コースで、みっちり白バイ搭乗訓練中。その技術成績も書かれている。
「萩原千速巡査
……
か」
履歴書の写真は、恐らく警察学校を卒業した時のものだろう。まだ少し幼さを残してはいるが、同性から見ても顔立ちが整っていて溌剌とした印象。
「中隊長は彼女に会ったことはありますか?」
「訓練中の面談でな。育て甲斐はあると思うから、頼んだぞ。来週、顔あわせの時間を取ってある。本人がこっちに来るから、ロッカーの場所と隊服のフィッティングみてやってくれ」
「わかりました」
初めて新人の教育係を拝命し、浅葱は数少ない女性隊員を迎えることにもなり、しっかり役目を務めようと誓った。早速教育係としての心得を新人時代にお世話になった先輩に聞きに行ったほど。
しかしこの時、中隊長は意図的にとある情報を隠していた。
「浅葱すまん
……
。この新人、けっこうなお転婆なんだ
……
頼んだぞ」
新人警察官ならほぼ誰もが通る、交番勤務。この勤務期間中に、警察官としての基本的な業務と対応を覚え、次のキャリアへつなげるのが標準的なキャリアパスといってもいい。
新人隊員は勤務態度は問題なし。地域の交番の場所柄もあったのか、近隣住民との関係も良好。ご年配の方々からは、名前や愛称で呼ばれていたとか。
特に警ら用スクーターの乗りこなしは見事で、担当地域の巡回中や通報があった際は
真っ先に駆けつけ、現場対応に当たっていた。
そして一時不停止や駐車違反の警告時も、相手を逃がさないポジション取りで、きっちりシメ
……
もとい、しっかり注意・警告を行い、事故を未然に防ぐ役目もこなす。
時折やんちゃなバイク乗りが煽ってきても受けて立ち、所轄の警察署に引き継いだ事も片手では足らないほど。あの交番には凄腕のポリスク乗りの警官がいると話題になったらしく、そういったグループで情報が共有されていたと。
厳重注意された面々が、後日交番にやって来て走りに行こうと誘われても「まぁ今度会ったらな」と軽く流し、バイクについて話した後に安全運転を促していた、という報告もあった。
指導役の先輩警官や、上司との面談でも今後の目標として交通機動隊、特に白バイ隊員を希望。警察学校在籍中からの希望は一貫している。
面談の中、交機以外の配属として広報はどうか、という質問に対しては、面談に立ち会った別の上官曰く「その場の空気が凍り付く程の威圧感」で却下されたらしい。
自分の希望はご存じですよね?と逆に詰められる有様、なかなかきかん気が強いながら、長所をもっと伸ばせば良い警察官になる、が上官の間で共通認識になった模様。
中隊長は報告書を読みながら、また何故希望外の広報への配属を出したのかと疑問を持つも、勤務中の写真や交番勤務での住民との交流の様子をみれば、そちらの適性も十分あると踏んだのだろう。広報勤務には何より実務適正が重要ながら、それでいて容姿も整っているのであれば
……
の思惑も見えたが、それは本人が見事に粉砕していた。
実際本人と面談した際にその事を聞いてみると、からっと明るく「興味ないんで、初手で轢いときました」と返された。
兎にも角にも、そんなだいぶお転婆な新人の教育係に誰をつけるか、正直第三交機の幹部内でも少々難儀した。
まだ女性白バイ隊員は少なく、新人のライディングスキルと性格を考えると、きちんと納得できる指導ができなければ、容赦なく意見をぶつけてくる。階級年齢など関係なしだ。
浅葱以外にも指導役に適任な女性隊員はいるが、他の新人隊員の面倒を見ている最中。そこに更に新人を預けるのは、なかなか難しい。
そこで白羽の矢が立ったのが、浅葱だった。
ライディングスキルは全く問題なし、今は彼女の方が新人より上。勤務中の態度を見ていても後輩に対する教え方は問題なく、かつ分かりやすく説明している。
これからのキャリアも考えるなら、教育係を務めるのも経験の一つになるかもしれない。
幹部内の意見も一致し、浅葱一華巡査部長に新人の教育係を任せる流れになった。
その頃。
県警本部の訓練コースで、千速は熱心に訓練に取り組んでいた。
やや苦手とする低速バランス、これを苦手意識がなくなるまで身体に叩き込むのが今の目標。
ハンドルを限界まで切ったフルロックの状態で、車体を傾け最小半径で旋回する極小Uターン。車体制御も、速度が出ていない難しさがある。
足をつけずに旋回する必要があるのに、時折ちょんと着いてしまうことがある。もちろん成功することもあり、失敗と成功した時とで、何が違うのか。
「
……
バランスか?」
一度白バイを停め、センタースタンドで固定する。自分の走りを振り返って成功要因を探ってみる。
車体制御バランスが、微妙に違っていたら。僅か一センチの違いでも、白バイの重さを考えれば影響は大きい。
そう仮定を立てたところで、そばで訓練に立ち会っていた教官から声がかかった。
「萩原、いいか?」
「はい。何ですか」
「
……
何でしょうか、だろうが」
「で、何でしょうか」
これの口の利き方は配属先で言い聞かせて貰うしかない、と指導教官は教育担当に丸投げし、本題に入る。
「明後日午前十時、第三交通機動隊の本部に行ってくれ。教育係の先輩と顔合わせと、制服合わせだ」
「はっ!」
いよいよ白バイ隊員として勤務できるとあり、千速は喜びを隠しきれない敬礼で応える。
目指している、青の乗務服に袖を通せる。
もちろん袖を通してからが本番なのは重々承知、しかしスタートラインに立てなければ、そもそも始まらないのだ。
そして運命の日。
千速は時間に間に合うように公用バイクを借り、第三交通機動隊本部へと出向いた。
初めてくぐる門、目に入るのは敷地内に止めてある白バイやパトカー、訓練場で切磋琢磨している先輩隊員達の姿。そして、これから過ごす事になるだろう庁舎の佇まい。
さほど緊張することがない千速も、今この時ばかりは心臓の音が煩く感じるほどで公用車を駐車されると一度深呼吸をする。
深呼吸だけで落ち着けば医者はいらないな、と思う余裕はあり、手荷物を取り出すと玄関へと向かった。
足を進めながらも深呼吸を繰り返し、階段を踏みしめ、ドアをくぐる。
交通機動隊は一般の警察署とは違い、一般市民の出入りは滅多にない。その為、受付というものはなく、事務方職員の部屋が窓口代わりのようなもの。
来たら事務室に声を掛けるように言われていたのもあり、ドアの前で一呼吸おくと意を決してノック。
はーい、と中から声がかかるのを待ち、静かにドアを開けた。
「失礼します。萩原千速巡査、着任前のご挨拶に参りました」
「お疲れ様です。今、お呼びしますね。浅葱巡査部長、新人さん到着しました」
ドア近くにいた職員が対応してくれ、千速の挨拶を受けると部屋の奥に居るらしい『浅葱巡査部長』に声をかける。入り口からは棚の影で見えないが打ち合わせスペースがあるらしく、立ち上がった浅葱巡査部長の後ろ姿が見える。
背丈は自分より少し低いくらい、短く切りそろえられた髪。
何よりも目を惹かれたのは、青と白の隊服に包まれた、真っ直ぐな背筋。
全く隙がない。
振り向きざまに視線があえば、やはり後ろ姿と同様の隙のなさ。
千速はこれがあるべき白バイ隊員の姿かと、心の奥深いところで分かってしまった。分からされてしまった。
こちらに向かってくる歩き姿も背筋が伸びて、体幹のブレもない、美しい姿勢。こんな日常的な身のこなし方が出来るようになるには、どんな訓練や実務から身につくのか。
「ロッカー案内するから。着いてきて」
「はいっ」
言われるがまま、千速は浅葱の後をついていく。
その事に気を取られ、事務室を出るときには大きな音を立ててドアを閉めてしまった。そこを浅葱は見逃さなかった。
「ドアは静かに。事務方だって忙しいなか、業務外の窓口業務をしてくれている。それから、退室する時には挨拶」
「あ、はい」
礼儀作法の指導を早速うけ、千速は再度ドアを開けると一礼し、失礼しました、お騒がせしました、と頭を下げ、今度はそーっとドアを閉めた。
室内でこの二人を見ていた事務方、そして浅葱と一緒に新人を待っていた中隊長は、これなら大丈夫そうだと安堵の笑みをこぼした。
新人が緊張して顔を見せたのはもちろんのこと、教育係役の新人・浅葱も、こちらも緊張していた。
新人教育は、初手が大事。
そう自身の教育係を務めた先輩からのアドバイスもあり、礼儀作法の範囲ながら長く務めて欲しいから、そういった細かいことも大事になってくる。事務方には何かとお世話になるのだから、良好な関係を築くに越したことはない。
新人のちょっとした振る舞いを早速指導したあたり、彼女を指名した人選は間違いではなかったな、と中隊長は思わず腕組みしながら頷いていた。
それはさておき。
浅葱の後ろをついて歩く、制服姿の見慣れない顔。交通機動隊で一般的な警察官の制服を着ている者は、逆に目立つ。なにせ、交通機動隊の制服といえば乗務服の青い隊服。
制服を着用しているのは事務や管理職くらいで、意外と少ない。
しかもそれが、隊服着用の浅葱の後ろをついて歩いているとあれば、来月着任の新人かと直ぐ推測はつく。
「浅葱、後ろは来月の新人?」
「そうです。案内の途中なので」
ひとつ上の先輩に声をかけられ、浅葱は短く答えて更衣室へと入ってしまう。新人に色々と聞きたそうだったが、女性用更衣室まで流石に入ってこれないだろう。
昼には来月着任の新人がすごい美人だったと噂が広がっていそうで、そんなヒマあるならさっさと切符の一枚二枚切ってこい、と言いかえしたくなる。その方面での対応は、この後輩は慣れているらしいので心配はいらなそうだが
……
やはり先輩として気に掛けておこう。
「ロッカーはここを使って。シャワー室は更衣室の奥にある。タオル類は、皆だいたいロッカーに置いている。突然泊まり込みもあるし、着替えもあると便利だな。その辺は交番勤務と変わらないと思っていい」
「はい」
「隊服を合わせようか。制服のサイズと同じくらいのをいくつか用意したから、とりあえずシャツとズボン履きかえたら声かけて」
それだけ伝えると、浅葱は一度ロッカーの向こう、見えないところに移動した。
そんな先輩の心遣いに気づかず、千速は受け取った憧れの隊服を前に、本当にこれから配属になるんだ、の実感を噛みしめていた。
先にワイシャツから着替え、ネクタイはとりあえず適当に締める。どのみち襟元はスカーフで隠れるしきっちりしなくてもいいだろうの判断した。
「ズボンはハイウエストなんだな
……
ちょっと
……
短い?」
サスペンダーは後から肩にひっかける事にするも、くるぶしが出ていて短いような気がしないでもない。
乗務服と通常制服の違いかもしれず、とにかくまずは着るのが先だ。
「着られました」
「どれ。丈は少し出してもらうか。ウエストは丁度いいみたいだから、これでサイズ上げるとだぶつくだろ。シャツは
……
胸回りは良さそう?肩は少しゆとりある方がいいから。あと、ネクタイもしっかり締める。スカーフで隠れるけど、手は抜かない」
緩んでいたネクタイをきゅっとしめてやり、サスペンダーも肩に掛けさせると全体のバランスを確認。概ねよさそうで、浅葱はよし、と頷いた。
「スカーフもしてみる?」
「もちろんです!」
白バイ隊といったらこの襟元のスカーフで、千速は教えられる通りにスカーフを結んでみる。が、これが意外と結ぶのが難しい。
「── この子、意外と不器用? ネクタイも結ぶのちょっと下手だったし ──」
さんざん着用しているのに、未だネクタイの結び方はちょっと下手かと読んで、今日のところは浅葱が手直しして綺麗に結んでしまう。これも新人白バイ隊員の通過儀礼のひとつ、毎日結んでいれば綺麗に結べるようになる。
プロテクターを身に付け、最後は上着を着てベルトを装着すれば服装上は白バイ隊員の出来上がり。
改めて、千速は自分の姿を見下ろし、向かいにいる浅葱と自分を見比べてみる。
どうにも制服に着られている感が否めない。身体にフィットしていない点を差し引いても、まだまだだ。
「そんな顔をするな。すぐ馴染むさ。靴はこれ。足回り合うか確認」
「はい」
最後にバイク用のブーツに履き替えたら、制服の着用は完了。ブーツのフィット感は問題なく、足の甲周りが圧迫される感じもない。絶妙なコントロールが求められるだけに、装備は足元からといっても過言ではないから、靴が合うのは大事な事。
そのままの服装のまま、浅葱は千速を車庫に連れて行った。
隊服を身につけたところで、重要なのは実際白バイに乗った時の着用具合だ。ハンドルを切った時に違和感はないか、が主な確認事項。
千速が乗る白バイはまだ届いていない為、今日の所は予備車両を拝借。エンジンは掛けず、スタンドを立てた状態での搭乗姿勢をチェックしていく。
「腕まわりは?」
「問題ナシです」
「
……
そこは、問題ありません、だな」
「問題ありません」
しっかり言い直した新人に、浅葱はよし、と少し笑みをこぼす。
「腰回りは?」
「少し、緩いです。ベルトで締めてあっても、少々もたつくような
……
」
「かといって、これでサイズを下げると、今度は胸回りがきついだろう?
……
こんな感じで、気持ち詰めてたらどう?」
調整用に浅葱が安全ピンで少し詰めると、今度はいい塩梅らしい。
ヘルメットのサイズも問題なく、これでフィッティングは完了。微調整は総務課を通して直しに出せば、着任には十分間に合うだろう。
目を輝かせて白バイに乗る姿に、浅葱は彼女とはいい付き合いが出来そうだ、とそんな予感を覚えていた。
一ヶ月後。
千速は辞令を受け、意気揚々と第三交通機動隊へ初出勤。定時より早めに到着し、しっかり事務室への挨拶も忘れない。
「これから宜しくお願いします」
「こちらこそ。書類関係で分からないことは、遠慮無くきいてください。間違った適当な申請は、お互い訂正も大変ですから」
「はい」
軽い事務方ジョークを聞いていると、ひょこっと浅葱が顔を出した。
「来たか、萩原。着替えたら、隊長に挨拶に行くから」
「はいっ。
……
では、失礼します」
退室の挨拶も忘れずに、ドアは静かに閉めた。
浅葱に続いて更衣室に入ると他の隊員の姿もあり、目が合えば千速は会釈して通り過ぎる。
指定されたロッカーの中には、真新しい隊服が二組ハンガーに掛かっている。そのうちの一着を手にし、袖を通す。
隊服は、あつらえたかのように身体にフィットして、不格好なところはない。ただ真新しい制服だからか、いかにも新人です、という雰囲気はある。
「よく似合っているじゃないか。これからよろしく頼む」
千速は差し出された手をためらうことなく握りかえした。バイク乗り特有の手の感触、相当の乗り手だと間隔で伝わってくる。
「ご指導よろしくお願いします。浅葱先輩」
「厳しいことも言うと思うがな」
「そこは軽めにお願いします」
返されて、浅葱はつい笑い声をあげてしまった。
着替えが終わったらしい他の隊員達も新人の女性白バイ隊員が気になっているらしく、ロッカーの向こうから顔を覗かせている。
「浅葱ちゃん、新人ちゃん紹介して。朝礼の後だと、ゆっくり話せないし」
「一華もとうとう指導役かぁ。時が経つのは早いわ」
業務前の更衣室とあれば先輩後輩はさほど関係ないのが第三交通機動隊らしく、和やかな雰囲気。
浅葱に紹介され、千速は改めて自己紹介をする。
「萩原千速です。バイクは、バルカンS乗ってます」
「あれいいよね! 駐車場にあった赤いのって、もしかしてちー坊の? ちょっと今度詳しく話聞かせてね。じゃ、頑張ってこ」
ぱしっと千速の肩を叩き、先輩隊員達は足取りも軽く更衣室を出て行く。
「ちー坊って
……
もしかしなくても、私のことですか」
「ああ。今のが高本警部補。あの通り気さくだが、いざ違反の取り締まりや追跡となったら、電光石火の高本の異名を持っている。とにかくやることなすこと、速い」
「
……
かっこいい」
「もう一人、私を一華と名前で呼んでいたのが、石橋警部補。私の新人時代の教育担当だ。彼女もお淑やかそうな雰囲気を醸し出してるが
……
」
「いるが?」
「有無を言わさぬ、説得力の持ち主だ。いや、理詰めで来ると言う方が正しい。そう言われてしまったら、確かにそうですねと思ってしまうんだ」
「強い
……
」
「どれだけの経験を積んだら、あんな風になれるのか、学ぶ事は多い。二人とも気さくだから、更衣室で会ったら話してみるのもいいだろう。では、隊長達に挨拶にいくぞ」
「はいっ」
朝礼前に第三交通機動隊を総括する隊長、その腹心の部下ともいえる中隊長らに着任の挨拶をし、激励の言葉を受け取った。
そして朝礼で、中隊長からその場にいる隊員達に新人隊員を紹介した。
「今日から着任した、萩原千速巡査だ。浅葱巡査部長が教育担当に就く。よろしく頼んだぞ」
真新しい青い制服、そして千速の容姿端麗さに若い隊員達がざわっと色めきたつも、千速がいつかの面談で上官を黙らせたという『その場の空気が凍り付く程の威圧感』の眼差しで、ぴしゃりと跳ね返した。
一部始終を見ていた女性白バイ隊員は内心、この後輩やるじゃん、と拍手喝采。
そして幹部隊員達は、離れているのを良いことに内緒話をしていた。
「例の、お転婆か。高本と石橋もなかなかだったが、あれの上を行くんじゃないのか?」
「行くでしょうねぇ。ウチの交機、お転婆くらいが丁度いいんですよ、きっと」
「浅葱の手腕に期待だな。あれは、トレーナーの素質あるぞ」
そんな話がされていたと本人達は露ほども知らず、早速業務に取りかかる。
朝礼の後、小隊内での軽いミーティングをこなし、浅葱は千速を車庫に連れて行く。白バイ隊員となったのだから、訓練用や予備車両ではない、専用の白バイが用意されている。
真新しい白バイは当然ながら傷もなく、今日の配備の為にしっかり調整もされ、今すぐ巡回に出られる。
「これが、萩原の相棒だ。訓練所でも散々言われていると思うが、搭乗前には機体に不具合がないか、業務後も整備は自分の手と目でしっかりすること。分かっているな?」
「もちろんです」
「よし。先に慣らし運転をして、午後は管轄を少し回ろう」
千速が白バイに乗ると同様に、浅葱も自身の相棒のエンジンをかけ、慣らし運転がてらの訓練に付き合う。
書類上での技術評価もさることながら、やはり実際のところを見るのが一番。
浅葱の先導で始めると、千速はその背中を見て自分のライディングはまだまだだと、未熟さを痛感した。それほど浅葱のライディングは無駄がなく、スラロームもさも簡単にコーンの間を通り抜けていく。
「── 浅葱先輩は、すごい ──」
あんな風に、白バイと一体になった走りがしたい。
明確な目標が目の前にいる巡り合わせに感謝して、千速はトン、とシフトペダルを蹴り上げ、アクセルをぐっといれる。
その想いに答えるかのように、白バイのエンジンが秋空にぶぉんと響き渡ったのだった。
【了】
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