hanayasiki
2026-07-11 21:40:11
3973文字
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18歳たち、どうしてはなやしきは別れ話しか書けないんですか!?


ボクはまったくと言っていいほどダイヤに気に入られていない。
それでも連れて帰ってもらえたのは、いないよりはいた方がマシだと判断されたからだろう。

あの時、ダイヤにかけられた魔法が解けた時。
ボクはダイヤに殴られて、本当に死ぬかと思った。

お前はマサルじゃない。偽物だ、って。

御名答。ボクはマサルになりすましたニセモノだだよ。
そういって笑ってみせたら思い切り(生きてるから加減はしてもらえてたのかもね)殴られた。暴力に慣れてるボクでも流石にしんどかった。流石世界チャンピオン。いい拳をしている。

それでも、なんやかんやでボクはダイヤの世界に連れ帰ってもらえた。
言葉が通じなければ家もない。この世界では必要な戸籍というものもなく、しばらくのあいだボクはずっとピンチだった。
おまけにダイヤは言葉を教えてくれるわけでも、この世界の常識を教えてくれるわけでもなかった。完全に放置。ただ、同居だけは許してくれたので、数年かけて自力でなんとかした。
ただ、戸籍だけはどうにもなってない。大きな怪我や病気をしたら詰むし、働けないし、家を借りることもできないから、詰みっぱなしである。
まあ、別に。この世界には河童はいても、モンスターが闊歩してるわけではない。放り出されても早々に死ぬということは多分ないだろう。
それに、放り出されるなら別に死んでも良いしね。

そう思っていたけれど、大喧嘩をして(だいたいダイヤがキレている)死にかけることこそ数度あれど、放り出されることはなく。そして驚くことに今日で十年目のお付き合いとなった。
すごい、普通のカップルだとしてもなかなか偉業じゃないですか? 長続き長続き。まあ、付き合ってはないけれどね。

ダイヤは格闘技の世界で地位を確立していた。最近は広告の仕事もしていて、巷での人気も相当なものになっている。ビジュアルが良いしね。順当だ。

などと、ぼんやり煙草を吸ってこれまでの十年に思いを馳せていると、家主が帰ってきた。
最近はずっと帰りが遅い。デビュー十周年記念のもろもろで忙しいそうだ。だからずっとご機嫌は斜めだったりする。

「おかえり〜」

ボクはダイヤの帰りを毎日犬のようにお出迎えする。居候お仕事は炊事洗濯家事掃除、そして家主のメンタルケアだ。最後は微妙なところ。たまにミスってより不機嫌にしてしまうから。

十年目ということを意識したわけではないけれど、ほっぺにちゅーをする。すると、思い切り渋い顔をされた。ダイヤの眉間に皺が寄る。嫌そうな顔もいけてるね。

「煙草臭い」
「あー、ごめんさっきまで吸ってたの忘れてた」

嫌がるけれど、ダイヤもタバコは吸う。というか、ボクが教えた。でも体が丈夫すぎて害も恩恵もないらしい。難儀だね。
でもタバコを吸ってるダイヤはかっこいいからボクは吸って欲しい。

「風呂はいってこい」
「え、やだな。そんなに臭い?」

まあ服は匂うか、と自分を嗅いでいると、ダイヤは違え、とだけ言ってさっさと部屋に戻ってしまった。
違うのか。え、じゃあ。

「するの? ダイヤ、ねえ、ちょっと」

ーー

「っ……

ダイヤのセックスは乱暴だ。
相手がマサルだったら違うのだろうけど。
どうだろ、そしたら手すら握れていなそうだ。

腰を強く掴まれて、奥まで押し付けられる。
内臓を押し上げるみたいに激しく突かれて、痛いくらい。気持ちいいけれど、涙が滲む。

女の子だったら壊れてそう。
ボクが男でよかったね。 

「っあ……!」

声は可能な限り出さないと決めてる。
ボクの役割はダッチワイフだ。

ダイヤが気持ちを紛らわせない時に抱いてもらう。それだけ。
黄昏国でアプローチ中に、ボクはダイヤに口淫を教えた。もちろんまだ錯乱している時にだ。
ダイヤは性的なことに疎いから、ボクに夢中にさせるにはそれしかないと思っていた。
結果的にボクの思惑はあたり、ダイヤはボクを性欲発散の相手として選び、持ち帰った。
欲の発散、というのは正しくないかも。マサルのいない現実から逃れるための手段として、が適切だろう。

だから、ダイヤがしたい時には必ず身体を開け渡していた。マサルの名を呼ばれても、そのまま泣かれても、黙って受け入れた。それしか、ボクに価値はないから。

(わ、珍し

舌が絡んでくる。
ぬるぬると舌を舐め上げられて、お腹の下の方がぞくぞくした。
こんなにキスをしてくれるなら、しばらく禁煙してたのに。

「苦い」
「っ、ごめん。キスされると思ってなかったから……

そういえば今日はする前に咥えさせられなかったなと思う。潔癖なダイヤは咥えさせた後にキスをしない。最初からキスをする気だったのかな。

そんなわけないか。ただの気まぐれだろう。

顔が見えない体勢で抱かれることの方が多いけれど、今日はちゃんと顔が見える体勢だった。

嬉しい。ボクはダイヤの顔が好きだから。
18歳の頃より、ちゃんと大人の顔になった。
すごくすごくかっこいい。精悍だ。こんなかっこいい人に抱いてもらえるなんて夢みたいだ。幸せ。

「ダイヤ、好きっ。愛してる」

揺さぶられながら、譫言のように繰り返す。
ダイヤからなにかを言ってくることはない。
別によい。そういうのは別にいらない。
体がもらえれば十分だ。

ボクはダイヤの顔を撫でた。特に反応はない。
視線がぶつかる。金色の瞳が滲む視界の中でもよく見えた。
きっとこの目に、ボクの姿は映ってないんだろうな。寂しい。でもいいか。そのくらいで、いいや。

ーーー

ベッドの中で裸のままごろごろしてる。
こういう時間が一番好き。
ボクがタバコを吸いだすと、ダイヤもタバコを咥えた。
火を分けてあげるために、顔を近づける。ドキドキした。この顔に、ボクは本当に弱い。
何度セックスしたって、なれない。いつだって、一目惚れした時みたいにときめいてしまう。

「引っ越す」
「え、おめでとう」

ダイヤが煙と共に吐き出した言葉に、ボクはちょっとびっくりした。
今の部屋はダイヤがちょっと稼げるようになってから移り住んだ部屋だった。二人で住むには足りていると思っていたから。
でも、そうか。今のダイヤが住むには物足りないか。デビュー十周年。売れに売れてる頂上大也選手だもの。

「そっかー……がんばったねえ」

ダイヤの頭を撫でる。
指先でゆるゆると優しく。
ダイヤは僅かに目を細めた。
獣っぽいなあと思う。
まつ毛長いね。

ダイヤはボクを気に入ってはいないけれど、
撫でたり甘やかしたりする行為そのものは気に入っていくれているみたい。
プライドが高いから認めないけれど。
膝枕とか大好きなんだよね。
可愛い。本当に。

いや、でもそうか。
引っ越しか。
そっか。

潮時か。

「28歳か〜……。いやー、厳しい〜」
「なにがだよ」
「ウリするには爺だなって」
「は?」
「それぐらいしか稼ぎ方知らないし」

一人で生きていけないし、と。
ダイヤの手からタバコが落ちる。
ボクは慌てて拾い上げた。
灰皿に押し付ける。

「ちょっとタバコ。危ないって」
「お前、俺が好きじゃないのか」
「愛してますよ。世界を超えるほどに」
「ならついてくりゃいいだろ」
「ついてかないよ」

ゲイの世界でも若い方が有利だ。
しかもボクは完全にネコだから、需要は限られてくる。困った。

(別れるんじゃなかったなー)

ダイヤとは付き合っていないから、ボクにはセフレも恋人もいた。セフレはとっかえひっかえだったけれど、恋人とはそれなりに長く続いていた。
穏やかで優しく、ボクにはもったいない人だった。

でも、ダイヤがずっと家にいろと言い出したので、振った。
セフレに関してはボクが殴るような人ばかり選ぶので早々に禁じられた。アザが見ていて不快だ、とのことだった。
恋人の方は、ダイヤがマサル関連で嫌なことがあった時や、仕事で忙しくて疲れた時に、ボクが恋人の家に入り浸っていたのが気に触ったらしい。
恋人はボクが別れを切り出しても殴りもせずに、素直に別れてくれた。愛されてないなあと思った。

そんなわけで、ボクはフリーだった。
この年齢で新しい恋人を見つけることができるだろうか。
もっと早く行動すべきだった。ダイヤが好きで、ダイヤのそばにいたくて、決意ができずにここまできてしまった。
でもずっと前から限界だったのだと思う。見て見ぬ振りもここまでだ。

「なんで」
「だって、ダイヤの邪魔になっちゃう」

ずっと一緒にはいられない。
ボクの存在はダイヤにはマイナスでしかない。
ゲイの同居人なんて、頂上大也にいちゃいけない。

「ちゃんと女の子と恋愛して結婚しなよ、ダイヤ」

ボクらの関係はいわゆるセフレ。
体だけの関係だ。それもまた、よくない。イメージ的に最悪だろ。

「マサル以外はみんな同じなんだろ? じゃ、適当に女の子捕まえなよ。相性よかったら、そのまま結婚しちゃえばよいし」

歳をとればそれではいけない。
ちゃんとダイヤは家庭を持つべきだ。
なにより、ボクの価値はどんどん落ちていく。
ダイヤにとっても価値がないらものになっていく。もう遅いくらい。
まあいいか。ダイヤがいないなら、生きていく意味なんてないし。
でも、もし生き延びられたら、ダイヤが活躍するところをみたいな。応援してたい、ずっと。遠くから。

「俺のことが嫌いになったのか?」

ダイヤが平坦な声で言った。
タバコを吸う。煙を吐き出す。おいしくはない。まずいとさえ思う。
でも、自分の気持ちが誤魔化せる。だから、好き。

「ボクのこと嫌いなんでしょ?」