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【狛日】面食いの証明

「なんで俺は狛枝が好きなんだ?」って真面目に考える日向が可愛い
未機パロ

冷え切った未来機関のベランダで、俺は手すりに両手を預けていた。
コンクリート越しに染み込んでくる冷気だけが、連日の尋問と理不尽な残業で使い物にならなくなった脳みそを、かろうじて現実に繋ぎ止めている。

「おや、日向クン。こんな夜更けにどうしたんだい?」
隣に立った狛枝が、夜風に溶けるような声で笑った。
……ああ、また上層部の退屈な査問に付き合わされていたのかな。ボクのためなんかに、キミの貴重な脳細胞が消費されるなんて、本当に申し訳なくて胸が痛むよ」

……相変わらず、いちいち言葉がうるせぇ男だな)

……別に、お前のせいじゃない。ただ頭を冷やしたかっただけだ」

ぼんやりと遠い夜の街光を眺めながら応じたものの、俺の思考の歯車は未だにひどく鈍く、軋んだ音を立てている。
なぜ俺は、よりによってこの面倒極まりない男と「恋人」なんて関係に収まっているんだろう。
そんな、ここ数日ずっと解の出ない泥沼の自問自答を、澱んだ脳内でまた始めようとした――その時だった。

冷たい手すりを握る指先が、奇妙なデジャヴを捉える。
……あ。

(そうだ。あいつに、あのとんでもないことを言われたのも――まさに、ここだったな)

頭にモザイクがかかったように鈍くなっていた記憶の境界線が、今いるベランダの光景とピタッと重なり、時間差で鮮烈にフラッシュバックした。

『ボクね、日向クンのことが好きなんだ』

数日前の夜。
やはり今日と同じように業務の波を浴びて、残業で脳が限界を迎えていた俺は、このベランダで狛枝に真っ正面からそう告げられた。

『好きだから、大事にしたい。傷つけたくない。キミが嫌がることなんて、絶対にしたくない。……本当は、そう言うべきなんだろうね』
狛枝は困ったように笑っていた。
けれど、その淡い瞳だけは少しも笑っていなかった。

『でも、ごめんね。ボクはたぶん、もっとひどいことを考えてる』
その言葉の意味を、理解するより先に、喉の奥がひゅっと狭くなった。
『日向クンを抱きたい。キミがボクをどう思っているのか分からなくても、キミがまだ迷っているとしても、それでも……ボクは、キミに触れたいんだ』

本来の俺であれば、男同士だとか、未来機関におけるお互いの危うい立場だとか、あいつの抱える歪んだ思想だとか、そういう「拒絶するための合理的な理屈」をいくらでも並べ立てて防壁を築けたはずだった。

なのに、あの時の俺はただただ頭が働いていなくて。
狛枝の言葉があまりに勝手で、あまりに正直で、あまりに熱を持っていたせいで、逆に何も言い返せなかった。
……やっぱり、駄目かな?』
その問いかけは、許可を求める言葉の形をしていた。
けれど俺には、それがもう、どうしようもなく溢れてしまった欲望の最後の堤防みたいに聞こえた。
だから俺は、疲れ切った頭のまま、最悪の返事をしてしまったのだ。
……好きにしろ』

(俺は、あいつのどこが良くてこんな関係を受け入れたんだ……?)

中身に惚れた、とは口が裂けても言えない。
性格は面倒で、勝手で、放っておけばすぐに自分を傷つける。
希望だの何だのと口を開けばうるさいし、未だに何を考えているのか完全には分かり合えない、世界のバグみたいな男だ。
そんな厄介な内面や思想の分析に、一人で脳みそを突き合わせていた、その時だった。

「日向クン……? どうしたんだい、そんなに黙り込んで。やっぱり、ボクが隣にいること自体が不快だったかな?」
ハッと我に返った瞬間には、もう遅かった。
考えに耽る俺の顔をのぞき込むようにして、ふわりと夜風の匂いを纏った狛枝の気配が、一瞬でゼロ距離へと滑り込んできていた。

遮るもののない至近距離。

未来機関から支給された、あの無機質で硬質な黒い衣服を寸分の狂いもなく着こなしているからこそ、夜風に遊ばれる細い白髪の儚さや、衣服の隙間から覗く首筋の白さが暴力的なくらいに際立っている。
月光を浴びて微かに色彩を揺らす淡い色の瞳と、呼吸がかかりそうな位置にある形の良い薄い唇。
無駄に長い睫毛が瞬くたびに、彫刻みたいに完璧な美貌の輪郭が、俺の死にかけた脳髄へ直接突き刺さるように鮮明に浮かび上がった。

「っ……!」
ドクン、と心臓がバグを起こしたように激しく跳ねる。

さっきまで頭の中で組み立てようとしていた、未来機関の立場だとか、付き合った理由の分析だとか、そういう小難しいロジックのすべてが、この「顔」を拝まされた瞬間に、音を立てて真っ白に溶かされていくのが分かった。

なんだよ、これ。
立場も思想も、何も関係ない。
俺は――ただ、こいつの『顔』に、めちゃくちゃに弱いだけなんじゃないか。

尋問だなんだと大層な理屈を並べられて、自分でも複雑に悩み抜いたフリをしていたけれど。蓋を開けてみれば、俺ときたら、至近距離の美形に脳みそを溶かされているだけの、ただの『面食い』だったっていう証明かよ。
突きつけられた単純すぎる本音と、己の俗っぽさへの猛烈な敗北感に、俺は顔が耳の裏まで真っ赤に染まっていくのを自覚した。

「日向クン……顔、すごく赤いよ? 冷たい風に当たりすぎて風邪でも引いたのかな。やっぱりボクみたいな不運の塊が近くに……
……うるさい。何でもないから、ちょっと黙ってろ」
「ええっ!? ボク、まだ何も悪いことは言ってないはずだけど!?」

自分でも理不尽すぎる八つ当たりだとは思う。
だれど、目の前の美形が本気で困惑しているのを見ると、余計に腹が立った。

チクショウ。
なんでこいつ、こんな顔してるんだよ。
俺は誤魔化すように手を伸ばし、狛枝の頬をむに、と引っ張った。

「いひゃいよ、日向クン……?」
「黙れ。顔がいいのが悪い」
「え?」
「何でもない!」