山茶花
2026-07-11 11:34:55
4724文字
Public [シルデュ]サイト限定(健全)
 

邁進モノローグ!【278SK073】

どうしようもない話/シルデュ/ラブコメ、甘々、両片想い/4500字程度


 突然だが。俺には好きな子がいる。紹介しよう。デュース・スペードだ。どんな子かというと……、可愛い。とても可愛い。どの辺が可愛いのかというと、素直で、純粋で、照れ屋で、不器用で、でも頑張り屋さんで、まっすぐで。とにかく、とても可愛い。
 俺よりもひとつ年下で、そこも可愛い。よく懐いてくれる、よく笑う子で、表情がくるくる変わって……。とても、愛らしいんだ。
 だが俺は、そのデュースとはまだ交際できていない。何故なら、デュースのことが可愛くて、可愛すぎて。いつも会う度、言葉に詰まって、告白というものが出来ていないからだ。
 とはいえ、デュースには会いたいし、いつも傍にいたいので、今。こうして昼休みの食堂前で、デュースを待っている。俺は、学年も寮も部活動も違うので、会おうと思わなければたまにしかデュースには会えない。なのでこうして、会おうと度々もくろんでいる。
 そうして少し待っていると、一年生たちの教室の方からデュースがやってきた。歩いているだけで可愛い。丸い頭がひょこひょこしていて、鶏の雛のようだ。
「デュース」
「シルバー先輩っ! どうしたんですか? こんなところで」
 デュースは俺のことを見つけると、すぐに駆け寄ってきた。可愛い。子犬だ。子うさぎかもしれない。撫でてやりたい。
「お前と一緒に食べたくて。待っていたんだ」
「そうなんですか!? 待たせてすいません! それじゃあ、一緒に食べましょう!」
「ああ!」
 デュースは嬉しそうに俺のことを引っ張り、食堂の中へと入っていく。
 そのデュースを愛おしく見ていると、ふと、俺は気づいた。
「デュース。少し、前髪が乱れているようだぞ」
 そうして、デュースの前髪を撫でつけ、直してやると。
 デュースは、「あ、ありがとうございます……」と。照れくさそうにほほ笑んだ。……可愛い……
 ささやかにデュースへと触れた手が離れるのが惜しくて、そのまま、耳から頬へと指先で撫ぜ、デュースの目をじっと見つめる。
(どうして、そんなにお前は可愛いんだ。懐く子うさぎのように素直に、俺の姿を見つけては寄ってきて……。指先で触れた、頬が柔らかい。このままどこか、誰も知らない場所へデュースを連れ去ってしまいたい……。いや、駄目だ。俺はこいつにとって、頼れる格好いい先輩でいなければ……!)
 そんなことを考えていると。通路で立ち止まんな、邪魔だ退け、と同級生に退かされてしまった。
 
 それから。俺たちは改めて、食堂のビュッフェに並び直した。デュースは大好きなオムライスを取って食べるようだった。
 この間も食べていたな、好きなんだな、と思っていると。デュースが、俺のぶんも取ってくれた。
「はいっ、シルバー先輩! 先輩はきのこのリゾット、ですもんね!」
「ああ。覚えていてくれたんだな!」
「はいっ! 覚えちゃいましたっ!」
 嬉しい。感動で涙が出そうだ。俺の好物、いつも食べている食事。デュースは覚えていてくれたらしい。
 デュースに取ってもらったスプーンで、共に食事ができることが喜ばしい。
 それにしてもデュースは、よく気が付くやつだ。俺が何をすることもなく、食事の用意が整ってしまった。これならいつでも嫁に行けるな。何っ、嫁だと? 行かせないぞ。デュースは俺の嫁になるんだ。もし他の誰かがデュースを嫁に取るつもりなら、俺を倒してから行け。全員返り討ちにしてやる。
「先輩? どうしたんですか?」
「いつでもお前は嫁に行けるなと考えていた」
「へっ!? 嫁っ!? ま、まだ早いですっ! そりゃいつかはって思いますけど、まだですよねっ!?」
「そうだな、俺もそう思う」
 そうして、俺はデュースと共に食事と談笑をして過ごした。
 デュースは、オムライスの旗の絵柄が今日はひよこと卵で可愛いと言っていた。卵の殻を被ったひよこの絵柄が、デュースに似ていて可愛いなと思った。
 そのことを伝えると、デュースは僕ひよっこじゃないですっ、と頬を膨らませていた。可愛かったので、つついたら。もっとふくれてしまって、とても可愛かった。……困った。俺の語彙が足りなくて。『可愛い』以外で、デュースを形容することが難しい……。だが、デュースの魅力を表すには、可愛いだけでは足りない。なので、ここからは少し頑張ってみることにした。
「愛らしい、愛くるしい、愛おしい……、もはや切ない、だろうか」
「国語の勉強ですか?」
「ふっ。そうといえばそうなのかもしれない。お前を形容する言葉を考えていた」
「僕可愛いより格好いいって思われたいですっ!」
「大丈夫だ、お前が恰好いいことも俺は知っている」
「えっ!? ……な、なら良かったですっ!」
 そうして、俺たちはなんやかんやで食事を摂り終えた。
 
 それから。ふたりで話しながら歩いていると、購買部の前を通りがかった。新商品をお知らせする看板やのぼり旗には、『限定販売のパン』の情報が載せられている。
「あっ、あのパン食べてみたかったんだよな。特別な卵を使ったカスタードホイップたっぷりのクリームパン……!」
「食べたいのか?」
「そうですね。でも、昼飯食ったばかりだし……今日は我慢、かなあ? いやでも、うーん……限定……
 迷うデュースを見て。俺は、購買部に入り、そのパンをひとつ買った。
「半分ずつ食べよう、デュース」
 そう言ってパンの袋を差し出すと。デュースは、はいっ、ありがとうございますっ、と笑って頷いた。

 それから俺たちはベンチに座り、限定のクリームパンを半分にして食べる。
 なるほど、甘いな。デュースが好く味のわけだ。ふっ、デュースは甘くて可愛い子だから、食べているものも甘くて可愛いのだな。そんなことを考えてデュースをちらりと横目に見ると。これまた可愛らしい、いや。愛くるしいことになっていた。
「わっ、ベタベタするっ……! ほんとにクリームたっぷりだ!」
 デュースの口や顔のまわり、どうやったのか鼻先にまでクリームがあちこちについてしまっている。ふっ。幼子のように不器用にパンを食べているだけで、どうしてこんなにこいつは可愛らしいのか。
 俺はそう思いながら、デュースの頬についたクリームをひとつ、指ですくった。
「まったく。顔がベタベタじゃないか」
「はは、すいません……。僕、パン食べるのヘタですね」
……
 俺は、すくったクリームをペロ、と舐める。そのクリームは、ひとりで食べたものよりもよほど甘いような気がした。
「せ、先輩。その……
「ん、なんだ?」
 デュースが、少し赤くした頬で俺に言う。
……それ、先輩に、されると。なんか、恥ずかしいです……
 俺の理性が、ガシャンと。金属バットでガラスを叩かれたかのように、割れる音がした。神は俺の理性の限界を試したもうたのかもしれないが、俺はその試練を無事に乗り越えられはしなかった。
「どれが恥ずかしいって?」
 デュースの手を握り、ずい、と顔を近づける。
「え、あ、そのっ、だから……っ!」
……こういうの、か?」
 デュースの鼻先から、今度は。ぺろり、と。直接クリームを舐めとる。すると。
「ほぁああ……っ!!」
 デュースからは、そんな奇声が上がった。ふっ。変な声を上げていても、デュースは可愛い。
「もっ、もう、先輩! 指とかいろいろ、先輩まで汚れちまいますから……っ! 大人しくしてくださいっ!」
 そう言ってデュースは、ハンカチを取り出し。俺の指を拭おうとして、ぎゅっと手を握る。……手、握られたな。俺の手を、デュースの手が包んでいる……
 可愛い。なんだこの手。一生懸命で、すごく可愛いな。少し骨ばった白い手が、まるで天使のものであるかのように見える。指の1本、爪の先まで愛おしいとはこのことか。体温が、俺の手よりもずっと熱いのもいい。いたいけで、可愛い。
 俺は、俺の指を一生懸命に拭おうとする、デュースのその手を、つい、指を絡めて握り締めてしまいたくなるが。なんなら、ロープで二度と離れないように互いの手を縛りつけたくなるが。大人しくしろとお願いされてしまったので、けして手にうっかり力を込めてデュースの手を握り返して、握りつぶしてしまわないようにしなければと心がけながら、じっと耐えていると。
……
 デュースの目が、眉を困ったように寄せられながら。上目遣いに俺を見ていた。なんだ、その可愛い顔は。
「デュース。今、何を考えてる?」
「そ、れはその……っ、なんでも、ないです……っ!」
「教えてくれ。デュース。知りたい、お前のこと」
……せ、先輩の手とか、顔、恰好いいなって、考えてました……っ」
 そう言われて。俺の中にある、何かのスイッチが。カチリと音を立て、入った気がした。心臓が、バクバク、ドクドク鳴っている。こんなに大きく鳴っていては、デュースに聞こえてしまうかもしれない。でも、もういい。聞こえてしまっても。
「無理だ」
「へっ?」
 俺はとうとう、我慢ができず。デュースのことを、抱きしめる。
「もう無理だ。お前の前で、余裕のある格好いい先輩のフリが、ちっともできやしない。……好きだ、デュース。お前のことが好きで、どうしようもない。他のやつにやりたくない。お前がそんな顔をするのは、俺の前だけがいい。俺の、たったひとりの恋人になってくれ。俺も、お前を俺のたったひとりにするから」
 そう、丸くてかぶりつきたい耳元にささやくと。
「へぁあ……っ!!」
 と。デュースは真っ赤になって、またおかしな声を上げた。俺の言葉で、抱擁で。デュースがキャパオーバーしている、可愛い……
「デュース、返事を。……頼めるか? できればYESだと、嬉しいのだが。できればでなくとも、そうであってほしいのだが。……断り文句は、聞きたくない、のだが」
 ぎゅう、とデュースを抱きしめながら、押し切れば。
 デュースの腕が、そっと俺の背中に回ってきて、それで。
「ぼ、僕も……っ、そのっ、先輩のことが……っ!」
 そう、言われて。すべてを言い切られる前に、つい、気持ちが高揚しすぎてしまい。デュースをベンチにガバリと押し倒してしまった。俺の下で涙目になっているデュースに、ギュン、と。身体と心の奥が締め付けられるように高揚するのを感じる。独占したい、支配したい、コイツを。泣かせたい、笑わせたい、俺のものにしたい、そんなあらゆる男としての感情だけが、今、俺の身体を支配する。
 俺はそれにもはや抗えず、逆らわないまま、デュースの右頬と左頬に、ちゅ、ちゅ、とたくさんキスをして。
「好きだ、デュース。嬉しい、可愛い、デュース。お前はもう俺のものだ」
 そのしなやかな身体をぎゅうと抱きしめて、すりすりと首筋にすり寄れば。
「せ、先輩っ、僕恥ずかしくて、死んじゃいますっ、……手加減してください~っ!!」
 と。デュースは恥ずかしくて泣きそうな顔で喚く。だけども、もう俺は、止まれなくて。
「すまない、無理かもしれない。お前が可愛すぎるんだ。可愛すぎて、どうしようもないんだ、もう、俺にも」
 そう告げて、デュースの懇願を一蹴し。昼休みの間中、俺は、デュースに対して。己の心に堰き止めていた想いの、その氷山の一角だけでも、デュースの身体と心へ、伝わるように、と。それらのすべてを、耳でささやき。唇で告げ。手を握り。これでもかと言わんばかりに、デュースという存在のすべてへ、己という杭を叩き込むように、伝えてやるのだった。

*おしまい