usada900
2026-07-10 08:43:54
4554文字
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ファイトクラブ・スペシャルマッチ

何故かファイトクラブで戦うことになったジェパサンです。戦闘描写上手い人ってすごくない?何食べたら出来るようになるんですか?

助けてくれ、と見知らぬ男性にジェパードがすがりつかれたのは、下層部の様子を見るために足を運んだボルダータウンでのことだった。
下層部では未だシルバーメインへ不信感を抱き反発する者も少なからずおり、この日のジェパードはそうした人間をいたずらに刺激しないよう私服で来たのだが、それが幸か不幸か、男性はジェパードの身分には気付いていない様子で必死に事情を話す。
結論から言えば、まぁ、詐欺被害の話だ。
男性は数週間前、友人から『うまい儲け話がある』といって、下層部の新たな名物になるかもしれない【琥珀キノコ】という新種キノコの栽培事業への投資を持ち掛けられたらしい。
その友人もまた別の人間からその投資話を聞いたそうだが、その話をした人物は大層口が上手かったようで、男性の友人はすっかりと信じ込み、熱心に男性を誘ったそう。
しっかり者の友人が大丈夫だ、確実な話だとここまで太鼓判を押すなら、本当に大丈夫なのだろう。
そう考えた男性はその話に乗り、少々アングラな所からシールドを借りて少なくない額を出してしまったという。
そして昨日、その投資話はまったくのデタラメで、【琥珀キノコ】とやらは存在すらしないと判明。
友人もいつの間にやら行方をくらませてしまい、残ったのは借金のみ。
返すあては今のところ無く、仕方なくシールドを借りた場所へ返済の時期について相談に行った男性は、返済を待つ代わりになんとあのファイトクラブへ出場しろと言われたそうだ。
出場しなければ厳しい取立てに襲われ、出場すれば歴戦の猛者たちに叩きのめされる。
どうすればいい、と途方に暮れていたその時、男性は通りすがりのジェパードに目をつけた。

「なんか変なシャツ着てるが、その下に隠れた筋肉は俺にも分かる!アンタ、強いだろ!?」

変なシャツ、と言われて一瞬固まる。
天外の友人である穹からプレゼントされたそれは、ジェパードのお気に入りの私服だ。
ギラついた目で睨みつけてくる、気性の荒そうな眼光鋭い黒鹿毛の馬が背中にプリントされているそれ。
かっこいい、に分類されるデザインだと思うのだが、と不満を覚えつつ、ジェパードは男性に話の続きを促す。

「僕が強いとして、それがどうした」

「頼む!俺の代わりにファイトクラブで戦ってくれ!」

今にも地面に膝をついて頼み込まん勢いの男性に、ジェパードは少したじろいだ。
……借金のカタに体を張ることを強いられるのは、悲しいかな、下層部ではよくあること。
この男性が特別不憫な訳ではないし、彼より酷な状況を自力で生き延びている人間だっている。
けれど、ジェパードは彼と出会ってしまった。
彼の境遇を知ってしまった。
彼に、市民に、助けを求められた。
ならば、身分を隠していようとシルバーメインである自分は、彼を助けるべきだ。
一瞬でそう結論づけたジェパードは、男性の肩をポンと叩く。

分かった。試合はいつなんだ?」

「あ、ありがとう!今日だ!」

「今日」



「『今宵ファイトクラブへご来場の皆様は本っ当に運が良い!これから始まりますは、一夜限りのスペシャルマッチだー!』」

泣きながら感謝する男性を宥めつつ、訪れたファイトクラブ。
Dr.クックのマイクパフォーマンスに、会場のボルテージが上がっていくのがヒシヒシと伝わってくる。
まず受け入れられるだろうとは踏んでいたが、一応スジを通すために運営スタッフへ男性の代理で出場してもいいかと申し出ると、ジェパードの申し出は思っていた以上にあっさりと受け入れられた。
なんの疑問も驚きもなく、あまりにもあっさりと。
その時点で、嫌な予感はしていたのだが。

「『出場するのはこの男!星核のもたらす終わらぬ吹雪の中、ベロブルグを護り続けた守護神ジェパード・ランドゥー!上層部のお貴族様にして若くしてシルバーメインを率いる戍衛官様が、下層部の闘技場になんとお忍び参戦!冷やかしなら帰れ!そうでないなら熱き死闘を見せてくれ〜!!』」

代理出場の申請の際、ジェパードは念の為に偽名を名乗った。
だというのに、ジェパードの身分はすっかりバレている。
というより、始めから知っていたのだろう。
おそらくは仕組まれていた。最初から、すべて。
あの男性がどこまで知っていたのか、それは不明だが。

「『サァ戍衛官様!これはアンタの為のスペシャルマッチ、対戦相手はアンタが決めてくれ!ファイトクラブの猛者たちがウキウキワクワクしながらアンタの指名を待ってるぜ!』えーと、誰でもいいんで対戦相手決めてもらっていいすか?オススメはあそこのデカいロボ!」

マイクをオフにして話しかけてきたクックに、ジェパードは色々と聞きたいことを呑み込んで小さく頷いた。
並んでいる戦士たちをザッと見る。どうやらルカはいないようだ。
よかった、あの純な青年がこの茶番に巻き込まれていなくて。
そう少しだけ安堵しつつ『自分を選べ』とアピールしまくっている戦士たちをスルーして、観客席を注意深く観察する。
そして、見つけた。

……そこの。そこの人混みに紛れている、ハンチング帽を深く被った青髪のペテン師を指名しよう」

シン、と会場が静まりかえり、一部の観客と指名を待っていた戦士たちがブーイングを飛ばそうとする。
しかし【青髪のペテン師】というジェパードの言葉にピンときた様子の者たちは、明らかに面白がる表情を浮かべた。
後退り、その場を離れようとしたハンチングの男の両腕が、周囲の観客によってガッシリと掴まれ、リングの方へと引き摺り出される。
この下層部において、彼の勇名悪評はジェパードのそれよりも知れ渡っているのかもしれない。
帽子を奪い取られ、リングの中へと放り込まれた青髪の男の顔を見て、オーディエンスからは『ボコボコにされろ詐欺師ー!』『やっちゃえジェパード様〜!!』『顔いけ顔!殴れー!』『金返せーー!!』『○ねーーーッ!!!!』とジェパードへの応援なのか青髪の男への怨嗟なのか分からない歓声が一気にあがった。
先程まで不満そうにしていた戦士たちもにっこり笑顔で観戦席へ移動している。
一体この男はどれだけの人間から恨みを買っているのやら。
そう呆れながら、ジェパードは苦笑いを浮かべて頬をかく青髪の男────サンポを見た。

「アッハッハ……いやはや、僕は真っ当な商人だというのにどうして、こう」

「全ては君の仕組んだことだな」

適当な言葉を並べてとりあえず茶を濁そうとするサンポにずばりと聞くと、サンポはわざとらしいほど肩を跳ねさせ目を逸らす。
ジェパードには確信があった。こんなことを仕掛ける者は、この男くらいしかいない。
そして計算高い彼のこと、ジェパードが気付くことも想定していたはず。

「ハハ!一体なんのお話やら!というかですね、本当に僕でいいのですか?貴方の力で殴られたら一発で死んじゃう自信ありま『○ねーーーーーー!!!!!』『早くそいつの顔殴れシルバーメインー!!!!』ちょっとヤジ!流石に酷くありません!?」

「一発で死ねたらいいな」

「こっちはこっちでコワ……

パキ、ポキと首と指を鳴らしてから拳を構える。
武器は持ってきていない。そもそも必要がない。
何を考えているやら、ジェパードをこの場所へ引きずり込んだこの男にお灸を据えるのには、身一つあれば充分だ。

「『ファイトクラブスペシャルマッチ、レディ……ファイッ!』」

カァン、とゴングが鳴らされた瞬間、ジェパードはサンポへ殴りかかった。
サンポなら避ける、というある種の信頼のこもった本気の拳である。
想像通りギリギリのタイミングで避けたサンポは、顔の横スレスレを抉ったジェパードの拳に口の端を引き攣らせていた。

「ワ、ワァ!今ボッて、ボッて音しましたよボッて」

「どうした!反撃してこないなら遠慮なくいかせてもらう、が!」

「うわ、っとと!?もう、仕方がありませんね!」

襲い来る拳を表面上は必死そうに、しかし確実に避けるサンポ。
そしてカウンターと言わんばかりに、その長い足を振り上げた。
ジェパードもまたその蹴りをギリギリで避けつつ、サンポをじっと見据える。
パンチメインのジェパードのスタイルとの対比を意識しているのか、サンポはキックをメインに繰り出してきた。
互いを見つめながらのパンチとキックの応酬。
当たりはしない。だが流れるように拳を脚を繰り出す2人の動きはまるで演舞のようであり、観客たちは目を輝かせて歓声をあげたり、知らず息をのんで見入っていたりと様々だ。
そんな中、サンポの視線が一瞬だけジェパードから逸れる。
何を確認したのかまでは分からないが、状況が動くとジェパードには分かった。
サンポの策略に完全に乗せられる前に、行動しなければ。
トン、トン、と地面を軽く蹴って、サンポがジェパードの横面へ向け脚を振り上げる。
ジェパードは、それを避けなかった。

「っ、え?」

当然避けられると考えていたのだろう。
ジェパードの横面に触れる寸前で靴の先を止め、サンポは戸惑った表情を浮かべた。
その隙を見逃さず、ジェパードは一気に間合いを詰めてサンポを床へと押し倒す。
ダン、と大きな音を立てて背中を打ったサンポが顔をしかめたが、それに構わず唇を重ねた。
会場が、静まり返る。

……!?!?」

唇を舐めて、うすらと開いた隙間から舌をねじ込む。
舌を絡ませて、歯の裏を撫でるように舐めて、上顎を擦って。
ジェパードは、色事というものに疎い。
こういうことはすべてサンポから教わったので、普段ならこんな真似をしても『上手いですよ』なんて微笑まれて、あしらわれて、主導権を握ることは難しい。
だが今のサンポは、酷く動揺しているようだった。
おそらく、こんな公衆の面前でジェパードがキスをしてくるなんて夢にも思っていなかったのだろう。
始めは抵抗してジェパードの胸を叩いていたが、次第にその力も弱まっていき、甘い吐息を漏らし始める。
ちゅ、ちゅ、とリングの上とは思えない艶やかな音が響き、誰かが唾を飲む音もした。
少しして、舌先から銀糸を伸ばしながら唇を離す。
くったりとダウンしているサンポを確認してから、上がった息を整えつつ、ジェパードはほのかに頬を赤らめるDr.クックへ声をかけた。

「彼が床に背をつけて、何秒経っている」

「えっ?……あ!すんません!『青髪のペテン師、起き上がれず!勝者、ジェパード・ランドゥー!!』」

勝者を告げるアナウンスが流れ、観客たちはまだ状況を飲み込みきれないままぱちぱちとまばらな拍手をする。
一応のパフォーマンスとして右手を一度上へ突き上げてから、ジェパードはサンポを横抱きにしてリングを降りた。

「詳しい話は、ベッドで聞かせてもらう」

その言葉にサンポはうっとりとした表情で『はい♡』と返事をしてジェパードの胸へ頬を擦り寄せる。
それは体を休めながらということなのか、それとも、もっと激しい運動・・・・・・・・をしながらということなのか。
2人以外、それを知る者はいない。