紫よか
2026-07-10 01:17:10
1639文字
Public FE蒼炎暁
 

果てを夢見る

クルトナーガ×シータ 蒼炎の軌跡での登場シーン後の出来事

「クルトさま、あのベオクの船はもう行ってしまいましたか?」
「うん、無事動けたみたいだ。シータももっと近くで見てみればよかったのに」
「そ、そんなおそろしいこと、わたくしにはできません……
「恐ろしいかなあ……

 あわわ……と口を両手で押さえる許嫁を見て、クルトナーガは首をかしげた。クルトナーガは先ほど、ベオクの船を見送ったばかりだ。その船は座礁してしまい、このゴルドア王国へ援助を求めたのだが、ゴルドアは鎖国状態であり、他国民の上陸すら許していない。
 あわや一触即発、といったところで王子であるクルトナーガとその許嫁シータが、その船の元へ現れた。幼いふたりにとって、初めて見るベオクであった。怯えたシータは走って逃げだし、少し離れた木の後ろからじっと見つめるのみであったが、クルトナーガは船を動かしていた一軍の長である青髪のベオク──アイクと名乗った青年と話をし、物資の提供と、目付役たちに座礁した船を押し出させ動けるようにするなど、できる限りの個人的な援助をした。
 本当は、せっかく出会えたベオクたちをもてなしたかったのだが、父王デギンハンザーはそれを許さないだろうと考え、クルトナーガなりにできることをしたのだ。

 感謝の意を見せ旅立っていく船が見えなくなるまで、クルトナーガは見守っていた。

「あの海の向こう……ベオクの国には、いったい何があるのだろうね、シータ」
「わたくし、クルトさまがあの青髪のベオクの船に乗って旅に出なくて、安心しております」
「そ、そんなことしないよ」
「ほんとうですか……? わたくし、知っておりますの。クルトさまの兄君と姉君がこの国を出ていったことを……
……知っていたんだね」

 こくり、とシータは頷く。その瞳は潤んでいた。彼女はそっとクルトナーガの手を握り、こてん、と彼に頭を預ける。震えた声で、少女は続ける。

「今どこで何をしているのかもわからないのでしょう? そんなの、さみしいです。それにわたくし、おじいさまも姉さまもこのゴルドア王国から出ていってしまったのですよ。クルトさままで行ってしまったら、わたくし、ひとりぼっちになってしまうわ」
「シータ……
……行かないでとは言いません。兄君も姉君もそうなら、そういう血筋なのかもしれないわ。クルトさまの進む道をとめるほど、わたくしは重いおんなにはなりたくありません」

 だから……と、シータはクルトナーガの手を離し、今度は腕に腕を絡めた。

「かならずわたくしの元へ帰ってきてくださるなら、わたくし……何十年でも何百年でも待ちますわ」

 そんなシータの言葉を聞いて、クルトナーガは空いている方の手で、そっと彼女の髪を撫でた。彼女の髪はふわふわとしていて、さらりとした直毛のクルトナーガとは対極的な髪質だ。彼女のそんなところが、クルトナーガはどうしようもなく愛しく感じるのだ。

「私は……うん、いつか兄上と姉上を追って、国を出るかもしれない。けれど……シータ、私はきみを悲しませるような事はしない。シータの婚約者として、誓う」
「クルトさま……はい、わたくし、信じております」

 青い海を眺めながら、ふたりは寄り添い合う。
 微笑んで目を閉じるシータの頬には、つうと涙が伝っていた。そして、クルトナーガは空と海の境界線をじっと見つめる。あの船が消えていった場所。──そして、彼にとっては未知の世界。クルトナーガの中には、それでもシータを置いていってしまうような、世界への憧れがあった。兄と姉を想う気持ちもあった。……そのとき、シータはどんな顔をするだろうか?

……シータ。愛しています」

 クルトナーガは夢の色──青色の果てを見つめながら、愛しい少女のしろがねの髪を撫でた。ふたつの心が、彼の中に在った。

 いつの日か──そう、たとえ何があっても、ふたりの心は、離れない。たとえ彼女のしろがねが血で赤く染まっても、青が雪色に濁っても。