山茶花
2026-07-08 11:13:01
5493文字
Public [シルデュ]サイト限定(健全)
 

初めての音【277SK072】

気の置けない話/甘い/5300字程度

*シルデュ付き合ってる恋人設定です
 
 今日は、休日だ。でも、僕にはこなさなきゃいけない用事がたくさんある。
 でも、そんな忙しない今日の一番最初にやることは。
「おはようございますっ! シルバー先輩っ!!」
「ああ。おはよう。……今日、お前に会えて本当に嬉しい」
 恋人であるシルバー先輩と、一緒に過ごし始めることだ!
 ……えっと。なんで今日、僕、用事がたくさんで忙しいのに、それでもシルバー先輩と過ごすのかっていうと。
 元はといえば、シルバー先輩がデートに誘ってくれたんだ。
『良ければ、だが。今度の休日、俺も暇を頂いたから。共に出かけないか』と言って。
 で、僕はそれがすっごく嬉しかった! 嬉しかった、んだけど。僕にはその日、やらなきゃいけない小さな用事が山積みで。
『すいません、先輩。気持ちとお誘いはすっごく嬉しいんですけど、僕、その日やらなきゃいけないことがたくさんあって……
 って言ったら。シルバー先輩は、言うんだ。
『そうか。それがどんな用事なのか、聞いてもいいか?』
 だから、僕は答えた。
『まず、溜まってる宿題をこなして、それから、薔薇の色塗り当番。あと、クローバー先輩から頼まれた食材の買い出しも……後、他にもなんかこまごました用事がちょろちょろと……
 そうしたら、シルバー先輩は、そうか、と穏やかにほほ笑んで。
『もし、お前さえ迷惑でなければ、なのだが。……その日、俺も一日、一緒にお前の仕事を手伝わせてもらえないだろうか』
 と言った。僕は、慌てて『先輩に僕の用事を手伝わせるわけには、』って遠慮したけど、でも。
……分からないか? 俺が、お前と一緒にいたいんだ』って、押し切られてしまった。
 その。正直、僕も先輩と一緒にいられるのは嬉しかったから、断りきれなかったのもある……
 でも、だから! 僕は今日、せめてそんなシルバー先輩に精一杯のお返しをするぞって気持ちで朝から待ち合わせたんだ!
「シルバー先輩っ!」
「ああ。お前はいつも、朝から元気だな。なんだ?」
「その、今日僕にしてほしいこととか、ないですかっ!? 僕にできることだったらなんでもします!」
 だから遠慮なく言ってください、とシルバー先輩に告げると。そうだな、とシルバー先輩は指を口元に当て、目を伏せて。それから、こう言った。
「では。……今日、一日。ふたりでいるとき、だけでいい。敬語を外して、喋ってみてくれないか? ……俺の、恋人として」
「えっ、それって……タメ口で喋る、ってこと、ですか? シルバー先輩に?」
「ああ。そして、できれば、俺のことも。『先輩』ではなく、……『シルバー』、と」
 呼んでくれると嬉しいのだが、とシルバー先輩は照れくさそうにはにかむ。僕は、すっごく恥ずかしいし、何より、ずっと尊敬してる憧れの先輩のことを呼び捨てにしたりタメ口で話すなんてためらっちまうけど、でも、どうにかこうにか勇気を出して。
「わ、分かった。しる、ばー? ……で、いい、のか?」
 と、問いかけると。シルバー先輩は、とても嬉しそうな顔で穏やかにほほ笑み、ああ、と頷いた。

 それから、まず、最初に。僕がこなそうと思った用事は、掲示板のポスター貼りだ。
 なんかの健康習慣みたいなやつの啓蒙ポスターをみんなから見えやすい掲示板に貼るよう、先生に頼まれていて。
 これは貼ればすぐに終わるし、ついでにやってしまおうと思ってポスターを持ってきていた。
 他の部活動が貼るポスターとかもあるし、ちょっと高めの方へよく見えるように貼っとこうかなと思って、少しだけ踵を上げて背伸びをする。
 そうしたら、シルバー先輩が後ろからそっとポスターの上の方を押さえてくれた。
「あ、ありがとうございます……
……おや。『後輩のデュース』に、戻ってしまっているぞ?」
 そう言ってほほ笑むシルバー先輩に、僕は、熱くなる頬を感じながら、ありがとう、シルバーと言い直すと。
 ああ、とシルバー先輩は嬉しそうにほほ笑んで、ポスターの上の方を貼ってくれた。

 それから、次は。図書室へ行って、まだ残っている宿題へ取り掛かることにした。
 僕が机に向かい始めると、シルバー先輩はその隣に座って。じっと僕を見つめている。
 そんなシルバー先輩をちらりと見ると、先輩はふっとほほ笑んだ。
「俺も、勉強が得意な方ではないが。分からないところがあったら、お前と一緒に、俺もちゃんと考える。だから、いつでも言ってくれ」
 そう言われて、そのほほ笑みの格好良さにドキッとして、思わず僕が、「は、はい、」と言ってしまうと。
 シルバー先輩は、「はい?」と聞き返してきて。僕はまた、言い直させられる。
……う、うん、シルバー……。その、頼りに、してる……
 そうして、ドギマギとして、心臓がドクドク鳴って落ち着かないまま、僕はなんとか宿題を終わらせたのだった。

 それから、次はいったん昼食だ。食堂に行って、ふたりで食事を摂る。
 食堂なだけあって、他にも生徒や知り合いの姿がまばらにあるから、ふたりきりだった今までよりも照れくさくって、少し声を潜め気味に話していたら。
「人がいると、恥ずかしいか? ……それなら、無理をすることはない。ふたりの時間だけでも、俺は嬉しい」
 と、オムライスを食べる僕をじっと愛おしそうに見つめながら、言われてしまって。
 ……僕は、普段と同じはずのケチャップライスが、なんだかいつもより砂糖五倍増しくらいで甘い気がする、と思いながら。
 食堂のふわとろオムライスを食べきるのだった。

 それから、昼下がり。腹ごなしの運動も兼ねて、薔薇の色塗り当番を終わらせる。
 僕が魔法を使って色を塗るのを見て、シルバー先輩は、なるほど、要領は掴んだと言って、魔法で一気に、僕が色を変えたバラの5倍くらいの数のバラの色を変えてしまった。
「すげえ! すごいすごい、一気に色が変わっちまった! シルバーすごい!」
 そう言って僕がはしゃぐと。シルバー先輩は、照れくさそうに片眉を下げて笑い。そして、僕の頭をぽんと撫でた。
 そこで僕は、あ、今普通にシルバーって言っちまった、ってことに気づいて。後から変に照れくさくなってしまった。

 それから。
「えっと……。あと、残すところは。クローバー先輩のお使いだな!」
 購買部に行って、クローバー先輩から渡されたメモ通りに買い出しをする。
「こ、れで合ってる……よな?」
 と、いちいちタメ口なことにドキドキしながら、メモを見せてシルバー先輩に尋ねると。先輩は、ああ、足りないものはなさそうだとほほ笑む。
 ……なんか今日、いつもクールな先輩のわりに、笑顔が、多いような気がする。まさか僕がタメ口きいてるだけでそんなずっと喜んでるってこと、ないだろうし……ないよな? いったい何がそんなに嬉しいんだろう、と思いながら、会計を終えて購買部を出ると。
 シルバー先輩が、荷物は俺が持とう、と言って僕の手から買い物袋をさらった。そして、僕が何か言う間もなく。
 空いた手を、ぎゅっと握ってくる。
「ふぁっ」
「ふっ。……休日の学園なら、皆出かけていて、人も少ない。ハーツラビュルへ行くまでの、少しの間だけなら……いいだろう?」
 シルバー先輩にそう言われちゃ、僕は断り切れない。握った手が汗ばんでないかな、僕、ぎゅって握りすぎてないかな、なんてそんなことばっかり気にしながら。シルバー先輩の顔を見たり見られなかったりして、手の握り加減も分からないまま、しどろもどろになって、ハーツラビュルのキッチンまで、なんとか歩いてった。

 そこまですると、ようやく僕の用事はひと段落して。
 シルバー先輩に、ここからは自由時間にできますよって言うことができた。
 そしたら、シルバー先輩は、またタメ口を忘れてるぞ、と笑いながら。じゃあ俺の部屋に来ないか、って誘ってくれたので。
 僕はその誘いに乗って、シルバー先輩の部屋にお邪魔した。

 それから、僕は。シルバー先輩の部屋に入るなり、ふうと息を吐いた。
「だ、誰かに見つかるんじゃないかと思って、すっげえヒヤヒヤした……!!」
「なんだ、見つかりたくなかったのか?」
「や、そうじゃなくて! ……えっと。シルバー……相手に、敬語を使わないでいるってのが、なんか、ダチとかに見つかったら、ニヤニヤされたり、冷やかされたりしそうで!」
 うっかりするとまたすぐに先輩、と呼んでしまいそうになる僕をベッドに座らせ、シルバー先輩はその隣につく。
 そして、ベッドに置かれた僕の手に手を重ねて、ぎゅっと握った。
「すまないな。お前に負担をかけるつもりはなかったのだが。……ただ、そうしてほしいと思ったのは。俺の我侭だったんだ」
 そうして、シルバー先輩は本音を語る。
「お前が、いつも。友人たちと、屈託のない笑顔で、気兼ねなく話しているのを見る度。俺はあのようにはなれないのだと……いつも、その立場に……嫉妬を。覚えて、いて」
 僕は、その言葉理解した瞬間。一気に、頬が耳までカッと熱くなるのが分かった。
 え、せ、先輩。ずっとエースとかジャックとか、エペルとかオルトとかセベクとか! アイツらに、妬いてたってことでいいのか!?
 だから僕にタメ口使ってほしい、名前呼び捨てにしてほしい、って言ってて、それで、僕が今日一日中、ずっとそうする度、嬉しそうにしてたってこと、だったっていうのか……!?
「うぇ、あ、あの、先輩のこと先輩って呼ぶのは、リスペクトっていうか、尊敬の気持ちが入ってるからであって……!!」
 別にアイツらの方が先輩より親しいからじゃないです、とまごつきながら言うと。シルバー先輩はくすくす笑い、分かっていると言った。
「だが、それでも。……お前に、もっと気安く、親しまれる関係になりたいと思う。俺は、我侭だな……
 そう言って。シルバー先輩は、僕をベッドにとさりと押し倒す。
 そうして、僕の髪をさらりと撫で。額とこめかみに、ちゅ、ちゅ、とキスを落とした。
……好きだ。デュース」
「ほぁ、ぁ、あの……っ」
「ふっ。……大丈夫だ。おかしなことはしない。お前はただ、受け止めていてくれれば……それでいい」
 シルバー先輩はそう言って、僕の隣に添い寝をして。自分の頭の下に左腕を入れたあと、右腕で僕の頭を抱え込むようにして、寝転がり。そうしてまた、いい子いい子と僕の頭を撫でた。
「ふっ、可愛いな。俺のデュースだ」
 そうして、シルバー先輩はベッドに寝転がったまま、ぎゅっと僕のことを両腕で抱き寄せ、抱きしめる。
「先輩、寝ちまわないですか……
「できるだけ頑張る。……たまになら、お前とこうして、布団の中で微睡むのも……悪くは、ないからな」
 そうして、シルバー先輩は。ずっと僕の頭を撫でたり、頬や鼻筋にちゅ、ちゅ、って何度もキスを落としたりして。
 すりすりって首筋に甘えるように頭を寄せてきたり。反対に、僕を自分の胸元に抱き込んだりして。
 なんだかすごく嬉しそうに、そういうことをしてくれた。
 だから、僕も、なんか返さなきゃ、大好きなシルバー先輩が、僕だけに対して、こんなに大好きって伝えてくれてるんだから、僕もなんていうか、嬉しくていっぱいいっぱいだけど、でも、それでもなんかしなきゃ、って思って。
「し、るばー。……すき……
 って、一言、どうにかして振り絞ったら。
……
シルバー先輩は、今日いちばん優しい顔でほほ笑んで。
 そうして、僕の後頭部を引き寄せ、ちゅ、と。唇にキスをした。
「ふぁ……
 あまりの甘い時間に、僕がとろけそうになってると。シルバー先輩は、僕の身体を、ぽんぽんと寝かしつけるように叩いた。
「眠たいか? ふふ、眠ってしまってもいいぞ? ……お前と、こんな穏やかな時間を過ごせるだけで、俺は幸せだ」
 そう言うシルバー先輩の目蓋も、眠たそうにとろんと落ちてきていて。
「一緒にお昼寝、します、か?」
 僕がそう尋ねたら。シルバー先輩は、そっとブランケットを引き寄せて。僕たちの身体に、一緒に被せた。
 それから、僕の手に、また手を重ねて。シルバー先輩は、おやすみ、と目を閉じる。僕は、シルバー先輩が、すぐに立て始めた寝息を聞きながら。重ねられた手の熱に、目の前に広がる光景に、今日一日のことに。ずっと顔や心臓が、身体中全部が熱を持っているのを誤魔化すみたいにして、おんなじように目を閉じた。

 ――それから、後日。
 シルバー先輩が、2年生の先輩たちと一緒に、廊下でお喋りしてるのが見えたから。
 僕は挨拶しようと思って、駆け寄った。それで、思いっきり間違えた。
「おはよう、シルバー!」
 ……って。まわりにいた2年生の先輩たちは、それぞれ驚いた顔をしていたけど。
 シルバー先輩だけは、一瞬目を丸くしたあと、ふっと笑って。
「どうした、デュース? ……もしかして、ふたりの時間にしたいのか?」
 と。あのときと同じ、からかうような、でも僕のことが愛おしくて堪らないって言ってるような、そんな甘くて意地悪な視線を、僕に向けていた。
 僕は慌ててまわりの先輩たちに弁解したけど、はいはいご馳走様、と言われるだけで。
 僕のやらかしが、どうにもならないのを。シルバー先輩はやっぱり、愛おしそうな笑みで見守っていた。

*おしまい