氷酒
2026-07-08 02:12:27
1495文字
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『in the kitchen!』

まりみや組。日常


「美夜、今日の晩飯リクエストは?」
「オムライス!」
「またそれかよ……




 さて、と真倫はキッチンに立ち、考え込んだ。
 目の前には冷蔵庫の扉。中身はある程度頭の中に入れてあるのだか、齟齬があってはいけない。改めて、具材の有無の確認を始めることとする。
 鶏肉はある。卵は何かと使えるため、常に余裕を持ってストックしている。玉ねぎも使いかけのもので賄えるだろう。朝食用に買っておいたベーコンと冷凍のミックスベジタブルが少しだけ残っているので、これも一緒に放り込んでしまうとする。バター、牛乳、ケチャップも良し。
 ご飯は昨日の残りなあるのだが、美夜のことだ、多めに作っておいてもぺろりと平らげてしまうだろう。新しく炊いて追加できるようにしてある。
……よし」
 材料に不足がないことをチェックすると、早速エプロンをつけて気合いをいれた。
 チラリと時計を見ると、現時刻は六時半。本日の美夜は遠出をしているため、帰ってくるのは七時半といったところか。
 別に感情が遅れたからと言って美夜は文句を言うわけではないのだが、彼の腹の虫は間違いなく空腹を全身全霊で主張してくるだろう。
 時間は充分にある。それなら、腹を空かせしとれた顔ではなく、好物を前にして喜ぶ顔を見れた方が嬉しいのいうのが親心というものだ。
………いや。親じゃないし。あんなでけぇ子供持ってるつもりないし。あれだ、保護者だ保護者」
 親心改め、保護者心。そんな独り言呟きつつ、真倫は早速作業にとりかかった。

 まずは材料の下拵えから。チキンライスの具材となるものを、食べやすい一口サイズに切っておく。ベーコンは短冊に、玉ねぎはみじん切りに。別に本格的な料理を目指しているわけではないから、多少大きさが不揃いでも構わない。それでも自炊を始めたうちはこの辺りにも手こずったものだが慣れというのは恐ろしい。この辺りはあまり深く考えずとも体が動いていく。
 鶏肉は心持ちやや大きめに。若者男子らしさに漏れず美夜は肉全般をよく好む。食べ応えがあった方が喜ぶだろう。
 材料を切り終わったら、鶏肉と玉ねぎから順に火を通していく。全ての食材を放り込んだら、ご飯を入れて、ケチャップで味付け。大きめの器で形を使ってお皿に盛れば、これで工程の半分は完成だ。
「卵焼きは……どうすっかな」
 これは作り始めてから知ったことだが、オムライスの卵は割と種類がある。しっかりと薄焼き卵を作り巻くものから、ふわふわの半熟のものまで多種多様だ。真倫の料理は必要にかられた独学から始まったものだから、家庭料理の域を出ない。いや、家庭料理がどういうものかイマイチわかっていないから、それも少し怪しい。
 だから別に本格派を目指す必要はないのだが……
「だからと言ってワンパターンなのもなぁ……
 いくつか料理サイトを見て、うん、と真倫は一度フライパンを置いた。今日のオムライスは半熟のふわふわに挑んでみよう。レシピを見たところ、上手に作っても予熱で火が通ってしまうから、直前に作るのが良いとのことなので、もう少しあとにする。
 結局、真倫の料理は基本的に一人のためにあるのだ。だからこそ、その笑顔のため、となるなら手間やら面倒やらが全て飛んでいってしまう。
 これでは『親馬鹿』と言われしまっても仕方がないのかも知れない。
「んー、もうちょい時間あるな。もう一品作るか」
 もう一度時計を見て残り時間を逆算しながら、真倫は改めて、冷蔵庫から別の食材を取り出し始めるのだった。

 ただいま、と元気よく響く声を待ち侘びながら。