2026-07-07 20:08:55
5915文字
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【土きり】この手を、もう一度

現パロdikrです。必ず冒頭の注意書きをご確認ください。

【注意】
・転生現パロです。
・tdi設定を含みます。
※※※mr町死ネタを含みます※※※

・di先(25)
現代では中学教師。
mr町ではha組が卒業した後はkr丸と孤児院を開いていた。

・kr丸(15?)
現代で中3。図書委員。
mr町では学園卒業後、フリーのプロ忍をしつつ孤児院を開いていたdi先の手伝いをしていたが

上記を読んでいけそうな場合のみどうぞ!



─────────────────────

「ど、どい……せんせい………?」
「きりまる……?」

 その出会いは本当に突然で、偶然だった。


 今年の三年に、特例でアルバイトをしたいと言っている生徒がいる、というのは噂話程度には聞いていた。かなり珍しい話ではあるが、そうした前例がまったくないわけでもないらしい。
 勿論中学生のアルバイトは許されるはずがない。だが、明らかに考慮すべき事情があると学校側が判断した場合に限り、地元の限られた場所で『アルバイト』ではなく『手伝い』という名目で働くことがこの学校では認められているとのことだった。学校創立時から長い期間をかけて地域との信頼関係を築き上げてきたからこそ、成り立っている制度なのだと聞いた。

(当たり前だが、時代は変わったな)

 この話を聞いた時、私はかつての──現代よりもずっと前の時代の、ある教え子のことを頭に浮かべていた。たった十歳で、忍術学園の入学費を一人で稼いできたあの子のことを。
 最後まで手離せなかったのに、一人でいってしまったあの子のことを。

 私が受け持っていたのはその生徒とは別学年の二年生のクラスだったし、何より、この制度を使わなければならない事情は非常に繊細なものだ。安易に公表されることもないだろう。
 それでも、もし私にできることがあればその生徒に協力したい、とも思ってしまう。……こういうところは、やはり前世に引っ張られているのかもしれない。
 なんてことを考えていたその時。軽いノックの音の後、こちらの返事も待たずに職員室の戸が勢いよく開けられた。

「失礼しまーっす、三年の……でーす。書類出しに来ました〜。教頭先生はいらっしゃいます……

 そこにいたのは、まさに先ほどまで頭の中で思い浮かべていた、前世の教え子──きり丸そのものだった。

 ◆◇

 放課後、週一の図書委員の当番の日。俺は『図書室』こと学校図書館にいる。今日は返却された本を本棚の元の場所に戻す作業をしていた。
 ひと通り本を戻し終わり、作業がひと段落したところでカウンターへ戻ると、
「あ、これまた土井先生だ。あとこれも」
 返却期限をチェックしていた当番の後輩が、貸出カードに書かれた名前を見て声を上げていた。
「今回は二冊か〜、まあ少ない方ですかね」
「いや、一冊でも先生が期限過ぎてたらダメだろ。どんくらい過ぎてんの?」
「二冊とも一週間くらいです。まあカードを見た感じ、そんな頻繁に貸し出されてる本とかではなさそうですけど
……わかった。鍵返すのに職員室寄るし、土井先生いないか見てみる。いたら声かけてくるわ」
「ありがとうございます!」

 今日の当番作業を全て終え、図書室の鍵を閉める。鍵を職員室へ返しに行くのは、特に事情がない場合は当番の中で一番上の学年の生徒と決まっていた。
 鍵を返しに来たことを伝えて職員室に入り、鍵掛けのロッカーに図書室の鍵をかける。職員室を軽く見渡してみたけど、土井先生の姿はなかった。想定していた通りだった。
 鍵を返し終えて職員室を出た俺は、その足で資料室へ向かった。
 この『資料室』は各階に一つずつある部屋で、その名の通り先生方が授業で使うための資料が置いてある部屋だった。基本的には鍵がかかっているし、その鍵も先生達が持っているから先生の許可なしで生徒が資料室に入ることはできない。
 俺は、先生が受け持っている二年の教室がある階の資料室へ向かった。
 資料室のドアに、名乗りもせず一度だけノックをする。それが俺たちで決めた合図だった。
 ほどなくしてドアの向こうから「どうぞ」という声が返ってくる。その声を聞いた俺はドアを開け、部屋へ入ると静かに内鍵を掛けた。
 部屋の両脇にある棚には、本やら書類やらなんやらがぎっしり詰め込まれている。
 その棚に挟まれるようにして、部屋の奥には先生用の机と椅子が置かれていた。土井先生はいつものようにそこに座っていた。
 机の上には、返却期限が切れた二冊の本だけが置かれていた。

「先生の借りているその本、返却期限切れてるんで取りにきました〜」

 先生は俺の話を聞いているのかいないのか、笑顔のまま自分の膝をぽんぽんと叩いてこちらを見ていた。……いつものことだけど、正直ちょっと怖い。
 しかも俺が先生の膝の上に座るまで、これをずっと続けてくる。……つまり、俺に拒否権はない。
 諦め半分、嬉しさ半分で俺が先生の膝の上に座れば、先生は満足そうに笑って、痛くなる寸前くらいの力で抱きしめてくる。
 ──そして、俺の額に触れるだけの口付けを落としてきた。

 諦め半分とは言ったけど、本当は違う。
 正直嬉しさしかなかった。
 またこうして先生の温もりを、こんなにも近くで──俺だけの特等席で味わえるなんて、思ってもなかったから。


 俺は小さい頃に両親を亡くして、そのまま施設に預けられた。そしてその頃には、もう前世の、忍者だった時の記憶があった。
 両親を亡くした時は、悲しむ前に正直またかよとすら思った。でも今度は路頭に迷うこともなく、自分で稼ぎにいかなくても最低限でも衣食住が確保できたのはありがたかった。
 やがて入学した小学校で、運良く乱太郎に会うことができた。乱太郎は現代でも俺と同い年だったけど、更にその後に会うことができたしんべヱは俺達の一つ下だった。
 その後も、前世で学園にいた何人かと再会することができた。ただ、当時は同じ学年だったやつが俺より五つも年上になっていたり、逆に先輩だった人が俺より年下になっていたりもして、不思議な気分だった。
 そして、学園の皆に会うたびにどうしても考えてしまうことがあった。

………土井先生も、この時代にいるのかな」

 その疑問は、意外にも早く答えが出た。

 中学に入学して、前世まえとの繋がりもあってなんとなく始めた図書委員会でのことだった。
 俺が二年の時、同じ日に図書委員の当番だった一年生が、先生が担任をしているクラスの生徒だった。
 どういう流れだったのかはもう覚えていない。けど、最初にその一年の口から『土井先生』という名前が出てきた時は、よくある名字だし、どうか同じ名字の別人であってくれとすら思っていた。俺は確かに先生のことを探してはいたけど、先生に会うのがどこか怖くもあった。
 俺と先生は、前世で恋仲──現代いまで言う恋人関係にあったから。

 前世で学園にいた人たちと現代で再会していくうちにわかったのは、人によって前世の記憶にはかなり差があるということだった。俺や乱太郎はかなり鮮明に覚えていたけど、しんべヱは俺たちと比べるとところどころ記憶が朧げだった。それでもしんべヱは全然覚えている方で、中には、しんべヱよりもさらにぼんやりとしか前世のことを覚えていない人もいた。
 だから、俺は現代で先生に会うのが怖かった。俺はこんなにも先生のことを鮮明に覚えているのに、先生が何も覚えていなかったらどうしよう。覚えていたとしても、俺とのことを忘れていたらどうしよう。そんなことばかり考えていた。これでいざ再会して、先生の口から「初めまして」なんて言われたら、立ち直れる気がしない。だったら、最初から再会しない方がマシだとすら思っていた。
 もっとも、再会こそしていなかったけど遠くから先生を見る機会なら何度かあった。校庭で授業をしている『土井先生』を教室の窓から見た時、俺は確信した。
 ──ああ、やっぱり、俺の好きな先生だ、と。

 結局三年になって、進路もおおかた決まって、進学に向けて特例で『手伝い』をしようってところまできても、俺と先生が直接話すことはなかった。
 というか、俺が徹底して避けるようにしていた。図書委員会で鍵を返す時でも、先生がいないことを確認してから職員室に入るようにしていた。
 だから、あの時は本当に迂闊だった。書類の締め切りが迫っていたから慌てていたのもあったけど、放課後の職員室なんて一番警戒しないといけなかったのに。(ちなみにそれを再会して間もないころに話したら「やっばり私ときり丸はそういう運命だったんだな」なんて小っ恥ずかしいことを言われた。)
 そして、いざ先生を目の前にしたら、前世でも余計なことばかり口にしていたこの口が、勝手に先生の名前を呼んでいた。

 だけど、しまったと思うより早く。

……きり丸」

 先生も、〝俺の名前〟を呼んでくれた。


 こうして再会してから、先生は今まで使っていなかった図書室で本を借りるようになった。あまり貸し出されない本をわざと延滞して、それを図書委員の俺に取りに来させることで、二人だけの時間を作る。……先生は、前と同じ方法で、俺を呼んでくれた。
 俺達図書委員会からすれば急に本を借りるようになったかと思えば延滞常習犯になるという、教師としてはなかなかな状況だった。けど、先生本人はまるで気にしていないようだった。それも少しどうかとは思うけど。
 それ以上に、こうして二人だけの時間ができたことの方が、ずっと嬉しかった。

 ほどよく筋肉のついた先生の胸板にそっと頬を寄せると、規則正しい心臓の音が聞こえた。
 現代は現代で、大変なことはある。それでも、前世とは比べものにならないほど穏やかなこの時代で、こうして先生のそばにいられることはあまりにも贅沢なことだと思う。
 一度贅沢を覚えると、後戻りはできない。ここでもこうして贅沢を覚えて、先生が隣にいることが当たり前になってしまった俺は、もう先生のいない場所へ戻れる気がしなかった。
 どうしようもなくなって先生の胸へ顔を埋めれば、俺を抱きしめる先生の腕の力がほんの少しだけ強くなった。そしてそのまま、俺の頭のてっぺんに口付けが落とされる感触がした。

 ◆◇

 私の膝の上で、きり丸が静かに身を寄せている。
 もう二度と叶わないと思っていた温もりが、今はこうして腕の中にある。それも、誰にも譲るつもりのない、私だけの特等席で。
 その可愛らしい額へそっと唇を寄せ、今日三度目となる口づけを落とす。触れるだけの、ごく浅いものだった。
 それでも腕の中のこの子はぴくりと小さく震え、わずかに身じろぐ。

 その反応があまりにもいじらしく、愛おしくて、私はまた抱き寄せる腕にほんの少しだけ力を込めた。


 再会したばかりの時、きり丸は前世の記憶をすべて鮮明に覚えていることを打ち明けてくれた。
 ──だが、これにはひとつ誤りがあった。

 今のきり丸は、前世で命を落とす約一年前から最期を迎えるまでの記憶だけが欠落していた。これは乱太郎にも確認したから間違いない。
 そして、どういう仕組みなのかはわからないが本人はそのことに何の疑問も抱いていない。それどころか、自分の記憶が欠けているという認識すらないようだった。

 前世で私ときり丸が恋仲の関係になったのは、きり丸が学園を卒業する時のことだった。
 自分が一年から六年まで担任を務めたは組の良い子たちの門出を見届けるのと同時に、私も忍術学園を去ることにしていた。私やきり丸のような育ち方をしている子ども達を一人でも多く救いたい。その思いから、私は孤児院を開くことを決めていた。
 そして私は、その孤児院を手伝ってほしいと、きり丸へ声をかけた。きり丸がこれからも私のもとへ帰ってこられるようにと──そんな願いも込めて。

 孤児院を開いて最初の三年ほどは順調だった。
 きり丸は学園卒業後、フリーのプロ忍となった。そのため、忍務の合間を縫って孤児院へ顔を出してくれていた。
 そばにいられる時間は、あの長屋で暮らしていた頃よりはるかに短くなった。それでも、こうしてそばにいることができる。そのことが、私には何より幸せだった。

 しかし、別れは突然だった。

 きり丸の最期は、どうしようもなく無惨で、呆気ないものだった。
 忍務でとある城に潜入したきり丸は無事に忍務を終え、脱出にも成功した。だが、以前からきり丸に目を付けていたその城の連中らは、数百人がかりでたった一人のきり丸を追い詰め、執拗なまでに追撃を続けた。すでに勝敗など決していたはずなのに、それでもなお彼らはその命が尽きるまで手を緩めようとはしなかった。
 その後見つかった亡骸は、他人の目には判別もつかないほど無惨な姿だった。それでも、長い時間を共に過ごした私たちには、残された僅かな面影があまりにも残酷な答えを突きつけてきた。
 そこから先のことはあまり憶えていない。というより、思い出すことそのものを脳が拒んでいた。
 僅かに憶えているのは、私がかつて学園と敵対していた時に名乗っていた鬼の名を騙り、その城を跡形もなく落としたことだけだった。


 きり丸が覚えていないのなら、それでいい。無理に思い出させる必要もない。
 何より、この時代でもこうしてこの子の隣にいて、その温もりを感じることができているのだから。
 ……あの時のことだけは、私が覚えていればいい。
 あの時、この子の亡骸を抱き上げた瞬間。この腕に伝わった冷たさだけは、生涯、現代になっても忘れることはできない。


 現代には、「死が二人を分つまで」という誓いの言葉がある。
 だが、その言葉は私たちには当てはまらない。
 一度死んでも、こうしてまた巡り会えた。死ごときで、私たちは分たれはしない。

 あの日、この子を失った時から私は決めていた。
 もう二度と、この手を、この温もりを手放さないと。
 どれほど長い時が流れようと、たとえ再び死が訪れようと。
 これから先もずっと、この子の隣に居続けるのだと。

 そう改めて決意し、私はきり丸を抱き寄せる腕に思わず力を込めた。
 すると、「痛いっすよ、先生」と、腕の中から聞こえた声に我に返る。

 私の腕の中から見上げてきたきり丸は、困ったように、それでもどこか嬉しそうに笑っていた。