【カタナガミ】七夕2026

【登場人物】美夜風

午後九時過ぎ。渋谷駅前に飾られていた笹は、戦闘の余波で何本も倒れていた。色とりどりの短冊が濡れた路面へ散らばり、消防隊と警察、天照の職員が後始末に追われている。交差点の中央では、黒い霧が夜風にほどけるように消えていった。

妖魔『 織姫 』、妖魔『 彦星 』。

離れている限りは丙級に過ぎない二体だったが、互いを見つけた瞬間、妖魔『 夫婦星めおとぼし 』として結び付いて、濁流のように低級妖魔を各地へ吐き出し続ける災厄となる。幸い、今回は二体が重なる前に討伐隊が分断に成功し、それぞれを別地点で討伐したことで被害は最小限に抑えられた。

「負傷者搬送!」
「東口、妖魔反応消失!」
「短冊広場、安全確認完了!」

慌ただしい声が飛び交う。その片隅で、美夜風みやかぜは省エネモードの姿のまま、倒れた笹の枝へ飛び乗った。鯉朽隊の刀遣いが苦笑する。

「七夕限定妖魔なんて聞いてないよ
毎年出るわげでねらすい毎年出るわけじゃないらしい

笹には、まだ回収されていない短冊が揺れていた。

───家族みんな元気で。
───第一志望に受かりますように。
───推しのライブ当たりますように。
───平和になりますように。

どれも、ごくありふれた願いだった。

「願いってのは、力になるんだな」
だはんで妖魔も寄ってくるんだべなだから妖魔も寄ってくるんだろ

風が吹いて、短冊と飾りが一斉に鳴った。
その音だけが夜空へ昇っていく。

遠くでは、天の川が雲の切れ間から細く覗いていた。