ichib29
2026-07-07 05:55:53
1439文字
Public 《 文章 》
 

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泰成



 陽が傾き昼間の茹だるような暑さは幾分か落ち着いたが、湿っぽい空気が身体にまとわりつくようだ。中庭の花壇に腰掛ける。まだぼんやりと明るいが、夜に鳴く虫が鳴き始めている。無糖の炭酸水をあおると冷たさと炭酸の刺激が喉に染みる。わずかに顔をしかめていると、建物から出てくる人物に気づき「お疲れ」と軽く手を上げた。建物内の明かりで逆光になって顔は見えないが、見慣れた長身のシルエットは間違えようがない。泰成は別れの挨拶のつもりだったが、彼――ハルタカは手を上げ返し泰成の隣に座った。

「どうした?」

 泰成はこの後自警団の夜間見回り任務があるが、ハルタカはもう上がる時間のはずだ。不思議に思いハルタカの顔を見ると、ハルタカは泰成の顔を見返し、わずかに黙ったあと「夕飯?」と尋ねた。

「ん?そう。もうちょっとかかるみたいだから待ってる」

 郡鴇自警団は異能力訓練施設と併設されている。泰成は訓練施設で数年間過ごした出身者で馴染みなこともあり、よく訓練施設の食堂で食事を用意してもらっている。今日も、夜間任務までの間に夕飯をご馳走になりに来ており、夕飯ができるまでこの訓練施設側の中庭で休憩をしていた。
 併設されてはいるが、自警団と訓練施設の敷地の区切りはあり、それぞれに出入口もある。よく考えれば、ハルタカがわざわざ施設側に来たのは自分に用があったのかもと気づく。

「なんか話あった?」

「俺がっていうか、泰成が」

 軽く顎をしゃくるハルタカの見透かしたような目に、泰成は「あぁ〜」と苦笑いをした。

「面談のこと?」

「ん」

 今日は、元異能力犯罪者の自立支援の一環である面談があった。面談者は異能力もある程度制御できるようになり、就職も決まっていたのだが、異能力の力が強まり制御できなくなったのだそうだ。そして彼に「本土に来てから、何もかも上手くいかない。あのままS都市に残っていた方がマシだった。お前たち自警団のやっていることは自分にとって迷惑だ」と、言われてしまった。

「俺は大丈夫だよ。こういうのはまぁ、あるじゃん」

 窺うような視線のハルタカと目が合う。泰成は小さく息をついた。

「俺はさ、これ以上いいですって言われたら、そうですか。……ってタイプなんだよ、結構。そういう人より、助けて欲しい人に手を貸したい。時間もできることも限られてるからさ」

 拳を軽く握り、開く。

「それに……自警団長くやってると……いろいろあるから、気持ちもいちいちさいてられない。っていうのは、あんまり言っちゃいけないか」

「もちろん内緒にしといてやるよ」

 ハルタカは片方の口角をあげ、同級生然とした笑みを浮かべる。泰成は「助かる」と苦笑いを返す。

「とはいえ……

 言いかけ、口をつぐみ、黙る泰成を、ハルタカは静かに待つ。

「まぁ、正解とかないけど、ないにしても、どうしたら良いかなとか、どうすれば良かったかな……とか……は、一生の課題だよな。……異能力を制御できない不安は、わかるし」

 異能力を制御できずに、心をすり減らしていた頃の泰成を知っているハルタカは、優しく相槌を打つ。

「でも、俺は俺ができることをやるしかないからさ」

 掌を開き、握る。

「止まってらんないし。うちのせっかちさんも速いしな」

 泰成は「な」と同意を促しながら、笑顔でハルタカに握った拳を突き出す。湿っぽい熱気を和らげるような夜風が吹き始めた。