風花莉亜
2026-07-07 02:01:31
4762文字
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これもある意味、ラブレター。


第44回とどち版ワンドロワンライ参加作品。藤堂くん視点で多分、七夕のお話。だいぶご都合主義
いつも通り何でも大丈夫な方向け


七夕が近付いたある日の事だった。
少し足を伸ばした学校からも家からも遠い、とある商店街の一角。
立派な笹に飾られた色とりどりの短冊の中、どうしてだかそのひとつが目についた。
何の変哲もない、やたらと目立つ訳でもないその短冊にどうして目がいったのかはわからない。
けれど、今考えてみると呼ばれていた、としか言いようがなかった。
緑色の紙に黒のインク。
書かれた文字は、

『好きな人が幸せでありますように。』

好きな人の幸せを願うなんていじらしいではないか、なんて思う暇もなく、咄嗟にその短冊を引っ掴む。
結ばれた笹が大きくしなった。
扱いが乱暴だったのは認めるが、それ所ではなかったのだ。
何故なら、その文字には見覚えしかなく、あまりの動揺に早く確認しなくては、という意識のみが俺の手を突き動かしていたから。
そんな風にして掴んだ短冊をじっと見つめる。
並んだ文字は、どこからどう見ても俺の想い人、千早のものだった。
俺と違って綺麗で整ったソレは、テスト前に何度かノートを借りた事があるから覚えている。
見間違えようがなかった。
千早ってこういうの書くんだ、それを意外だと思いつつ、しかし見過ごせないのは書かれている内容。

「好きな奴って誰だよ……?」

ポツリ、と呟いた。
普段から野球を中心にして生きている俺達は、色恋の話などそうそうしない。
勿論興味がない訳ではないのだが、誰々が可愛いとか、誰と誰が付き合いだしたとか、所謂恋バナと呼ばれる類いの話を千早とした事は、ただの一度さえなかった。
そもそも、ウチの野球部で率先して恋バナをしたがるのなんか、要ぐらいなもので。
だから知らなかった。
千早に好きな奴がいるなんて。
そんな素振り、少しも見せた事ないじゃんか。
短冊片手に呆然と立ち尽くしていると、スマホが振動して我に返る。
それは早く帰って来いという、姉貴からの催促だった。

「やべっ」

慌てて短冊を手放してその場を後にし、近くのスーパーで必要な食材をカゴに突っ込んで会計を済ませ、早歩きで家路を急いだ。
しかし、一番大事なトンカツ用の肉を買い忘れて帰宅し、姉貴にはめちゃくちゃ怒られた。
でも仕方ねーだろ、肉はスーパーじゃなくて精肉店で買おうとしてたんだよ。
勿論、そんな言い訳は通用しなかった。






二日後、また例の商店街へと足を向けた。
この二日間千早を観察してみたものの好きな奴が誰かわからず、何かヒントでもないのか、ともう一度短冊を確認しに来たのだ。
つーか、そもそも本当に好きな奴いるンか?
だってあの千早だぜ?
そんな感情に突き動かされるようにして、再び訪れてしまった笹の前。
あの日よりも短冊の数が増えて、笹が限界だと言わんばかりにたわんでいた。

「えっと確か、この辺……だったよな」

千早の短冊が飾られていた場所をちゃんと記憶している辺り、自分でも気持ち悪いと思う。
でも、それだけ衝撃的で印象的だったのだから仕方ない。
ひとつひとつ見逃さないように丁寧に短冊を掻き分けて、千早の書いた短冊を探す。
しかし、いくら掻き分けても見付からない。
俺の記憶違いだったか?
いやいや、そんなはずはない。
やっぱり幻だった?
いやいや、そんなはずはない。
あんなにもリアルだったのに幻な事あるか、と周辺も探してみたけれど、結果から言ってお目当ての短冊が見付かる事はなかった。
忽然と消えてしまった短冊に首を傾げる。
ひとりでにどこかへ行ってしまうなんて事はないので、可能性としては千早が持ち去ってしまった、という事。
折角飾ったのに外してしまったのは何故なのか、気になって仕方がなかった。

悶々としたまま帰宅し、また買い忘れが発覚して姉貴にシメられるという失態を犯した話は、またの機会にでもするとしよう。





気になったらそのままにしておけない俺は、七夕の前日まで何度かあの商店街へと足を運んだ。
もしかしたら短冊が戻ってきているかもしれない、なんて薄い望みを持ちながら。
しかし、何度覗いてみても千早の短冊が再びそこに飾られる事はなくて、痺れを切らした俺は直接本人に聞いてみる事にした。
それが七夕当日の事。
朝練を終えて教室へと戻る途中、何の脈絡もなく隣を歩く千早へと問いかけた。

「お前さ、なんで短冊外しちまったの?」

俺の言葉に足止めた千早は、しかし何の話かわからないというような訝しげな顔で「何の話でしょう?」と言う。
本当にわかっていないみたいだったので、商店街のやつだと言えば、途端に眉間の皺が深くなった。
わかりやすい反応。
千早ならもっと上手く取り繕う事も可能性なはずなのに、動揺が目に見えるようだ。

……藤堂くん、あんな所まで行くんですね」
「おっ、認めた? まぁ、たまにだけど行くぞ。商店街の精肉店安いし」
「そうですか」
「で? 短冊どうしたんだよ?」
「捨てました」

これは嘘だ。
口元に弧を描き、嘘つきの笑みを貼り付ける千早に目を細める。
その顔、好きじゃねェんだよな。
千早本来の笑い方を知っているだけに、作られた笑みを向けられると距離を感じてモヤモヤする。
それをぶつけるようにして嘘が下手だと言えば、ムキになって嘘じゃないと言い張ってきたので、らしくないと思った。
この感じ、やっぱり好きな奴いるよな。
まぁ、いなかったらあんな事書かないか、なんて当たり前すぎる。

……じゃあさ、千早の好きな奴って誰」

話は終わりだと、逃げるように教室へと向かおうとする腕を掴んで問い質す。
俺が何より一番知りたかった事。
場合によってはダメージがデカイけれど、知らぬフリはもう出来そうになかった。

「何でそんなこと聞いてくるんです? 藤堂くんには関係ないでしょう」
「なんでって、知りたいから」
「知ってどうするってんですか……
「ん〜、答え次第だな」

そう、千早の答え次第。
真剣な顔で見つめれば、千早は居心地が悪そうに身動ぎして「とりあえず、手を離してください」と弱々しく言った。
逃げる気はないと目が訴えているので、渋々と手を離す。
すると、千早は自由になった手で鞄の中からクリアファイルを取り出した。
その中には見覚えのある短冊がひとつ。
捨てたとか言ってた割に随分と大事そうに持っているんだな、と多少のヤキモチが芽を出した所で、クリアファイルごと短冊を俺の胸元へグイっと押し付けてきたので、反射で受け取ってしまった。
え、何で俺に寄越してきた?
困惑する俺に、千早は早口で「これが答えです!」と半ばヤケクソに言って俯く。
表情は窺えないけれど、隠れていない両耳が赤く染っている事に気付いて、心臓がドクリと脈打った。
マジか。

「ははっ、千早からラブレター貰った」

噛み殺せなかった嬉しさと、スルリと出た言葉に千早の顔が上がる。
それは耳と同じく赤く染っていて、可愛いなんて本人に言ったら文句を言われそうな感想が浮かんだ。

「どこがラブレターなんですか?」
「ラブレターだろこんなん」
「ロマンチスト」
「まぁ、そーかもな。つーか、星に願うより俺に願った方が良くね?」
「振られる為に言えって?」
「振られないかもしれねーじゃん」
「それこそ、流れ星が流れてる間に願い事を三回口にするような確率でしょ」
「そんなんよりずっと確率たけェよ?」

ニッと笑って鞄の中をゴソゴソと漁る。
千早のように大切に扱ってはいなかったけれど、ノートの間に挟んでいたお陰で無事だったようだ。
取り出したオレンジのソレを千早の手を取って乗せると、見開かれる大きな目。
してやったりだ。

「俺の返事、これな」

千早は宝物でも扱うような手つきで俺の渡した短冊を持ち、書かれている文字を何度も読み返しているようだった。
そんなに読み返さんでも、内容は変わらないのだが。
それでも信じられない、といった顔をしているので、言葉にした方が早かっただろうかと苦笑する。

『「千早と付き合えますように」』

書かれている文字を一語一句違わず口にすれば、千早は短冊と俺を交互に見た。
言葉にしても尚、信じられてないのかよ。
頭良い癖に何でこんな時ばっかりポンコツなんだ……
恋愛が絡むと途端に阿呆になる千早を可愛いと思いつつも、面倒臭いとも思う。
つかこれってさ、コイツと付き合うのも付き合った後も、前途多難だったりする?
そんな考えが頭を過ぎったが、まだ付き合えると決まった訳ではない。
千早自身、俺が自分の事を好きだったなんて微塵も思ってなかったようなので、素直に俺と両想いでハッピーエンド、にはならない気がした。
そもそもまだ信じてねェみたいだし。
俺の気持ちを疑いすぎだろが。
ったく、持久戦より短期決戦の方が好きなんだけど仕方がない。
お前が俺の気持ちをちゃんと受け取るまで、とことんまで付き合ってやる。
でもまずは、ちゃんとした意思表示ってやつをしないとだよな?
ちゃんと口に出して言うから、耳の穴かっぽじって聞きやがれ。

「千早が好きだ。だから、俺と付き合ってください」
「!!」

手始めにド直球で告白してみたのだが、千早は肩を揺らして驚いていて……っておい!! こっちが驚きたいわ!!
何で今初めて知りましたみたいな態度取れるの!?
短冊見ただろが!!
思いっきり『付き合えますように』って書いてあっただろ、驚く要素どこにあったよ……
頼むから驚くんじゃなくて照れてくれよ、反応間違えてるぞ。
幸先が悪過ぎるが、とりあえず会話をしなくては先に進まないので口を開く。

……返事欲しいんだけど」
「えっと……
「答え出てるだろが」
……お断りします」
「なんでだよ?」
「なんででも」
「理由を言えや」
「嫌です」
「い・え!!」
「嫌です!!」

頑固すぎる。
わかってはいたが、やはり首を縦には振ってくれないらしい。
俺の気持ちは多分、流石に理解してくれたとは思うが、そこから先へと進む意思がないとか普通にヘコむ。
あぁ、でも、だからなのか。
あの短冊に書かれた願いが『好きな人が幸せでありますように』なのは。
一方的に幸せを願われたって、俺的にはそこに千早がいないと意味ないってか、幸せじゃねーんだけど。
その事に早く気付いてほしい。

「はぁ〜〜〜、そこは素直に『はい』で良いだろが。好きなら付き合え」
「嫌です」
「おい!! ったく、イヤイヤ期かよ。それか、嫌よ嫌よも好きのうちってやつか」
「どっちも違いますけど、良くそんな言葉知ってましたね」
「あんまり俺の事ナメんな」
「アハハ」
「兎に角、俺はお前と付き合うからな?」
「俺が許可しなきゃ付き合ってる事になりませんけど?」
「その許可を絶対に得てやるって言ってンの!!」

ビシリ、と人差し指を千早へと向ければ「人を指差すな」とはたかれる。
ご最もだけど、そうじゃねーだろ。
うん、と言わせるつもり満々の俺に靡くつもりは一切ないのか、はたまた意地を張るのを諦めたのか。
一瞬だけ見えた気がした口元の笑みと、俺を置いてさっさと歩き出すどこか機嫌の良さそうな後ろ姿を見て、そう遠く無い未来、千早が頷いてくれる気がした。




END




短冊ラブレターをやりたかっただけの話。千早くんのイヤイヤ期は普通に藤堂くんの将来とか考えての事ですね
入れ忘れてたけど、藤堂くんは2回目に商店街行った時に短冊書いてました。そして飾らず持ち歩く謎の男にwそれを言ったら千早くんもだけどな
ところで、トンカツのない藤堂家のメインは何だったんだろうね?(しらん)