AmexAmexxx
2026-07-06 18:11:27
1965文字
Public FF14
 

話したくない昔話




 その日、レインズが石の家を訪れると、わいわいとカウンターで話している男が二人。一人はグ・ラハそしてもう一人は、チェル。
 このところ、チェルがグ・ラハからレインズの英雄譚を聞いている。たまたま、チェルが街中で「英雄」と声を掛けられているレインズを見て、疑問を持った結果だ。説明しづらかったので「そういうのはラハが詳しいよ」と丸投げしてしまった結果なのだが、それからよくこうして二人で喋っているらしい。仲良くなったのはいいが、グ・ラハが知っている英雄譚は誇張されていないだろうか、と少し心配にはなる。
 くるりと室内を見回せば、他の暁のメンバーは出払っているようだった。いつ来ても誰かしらがいる形に戻ったとはいえ、調査したい事項は山積みだというのが目に見える。

「やほ。お二人さんお暇なの?」
「お、レインズ」
「あっ、れーさん! 今グ・ラハの兄貴かられーさんのエオルゼアでの話聞いてて!」
「また懐かしい話を。変なこと言ってない?」
「多分」

 目を逸らすグ・ラハに、レインズは思わず笑いつつ、少し離れたテーブル席に腰を下ろす。大きく伸びをしている間に、カウンターからチェルが隣の席へ移動してきた。興味津々といった様子で目を輝かせている。

「れーさんにも話聞いていいすか?」
「何を?」
「英雄譚!」
……あーっと……

 思わずグ・ラハの方を見れば、そっとごめん、と手を合わせられた。恐らくだが、色々とごたごたしていた部分には何も触れていない。こういうことがあって、という綺麗な部分だけを、グ・ラハはチェルに話して聞かせたのだろうことは想像に難くない。
 ――英雄。
 そう呼ばれる度に、何とも言えない気持ちになる。そんな大それたことができたなど、今も昔も思ってはいない。ただがむしゃらに、暁のメンバーと共に戦っていた。ただそれだけだ。

……チェル、いいことを教えてあげよう」
「ん? 何すか?」
「私、英雄って呼ばれるの、実はあんまり好きじゃないんだよねえ」
「え」
「う……オレまで複雑な気持ちになるな……
「ラハに言われるのはまあ、ラハだからいいんだけど」
「えー。かっこいいのに、何で?」

 きっと、誇るべき称号ではあるのだろう。
 けれどその称号の前に、失ったものがある。消えていったものがある。華々しく語られる英雄譚には、鉄錆の臭いがこびりついている。歩いてきた足跡は決して美しいものではなく、いつもいつも、暗い赤色が付き纏って離れない。
 それでも歩みを止めずにここまで歩いてきた――結果としてカリュクスやハルマルトから告げられた問題の正解は、当面導き出せそうにもない。

「あんまりいい話できないよ、私には」
「えー。残念……
「言っとくけど、暗殺の犯人に仕立て上げられたり、仲間が殺されたり、私が化物になりかけたりの人生だからね?」
「え」

 ぱちり。驚いたように目を見開いたチェルに、レインズは肩を竦めた。そのままばっとグ・ラハに視線が向く。やはりその辺りのことは何も話していないのだろう。あちゃあ、と頭を抱えているグ・ラハは、やはり故意に話していなかったに違いない。
 チェルは本当に何も知らない――だからこそ、グ・ラハとしても話さなくていいなら話さない、と思っていたのだろうから。話さずに済むのなら、それに越したことはない。話すのも聞くのも、楽しい話ではないのだ。
 一人では、到底背負いきれない。
 一緒に背負ってくれる人たちがいるから、今日もこの地に立っていられる。

「というわけでラハ、責任取ってちゃんとチェルに教えてあげてね」
「いやその辺はオレだって部外者だし!?」
「あはは。ま、他に誰かいるときに聞いてみるとか? アルフィノが一番知ってるかなあ」

 果たしてアルフィノがどう話すか、そもそもチェル相手に話すかどうかも分からない。それこそかつての出来事は、ずっと悔恨のままで残っている。それはアルフィノにとっても同じだろう。
 この話題が続けば、チェルの追及は続いてしまうだろう。どうしようかな、と思いながら考えて、不意に先程会った人物のことが頭に浮かんだ。話を変えるにはちょうどいい。

「そういえばチェル、ウルダハでジェンリンスに会ったんだけど」
「げ」

 一瞬で表情を変えたチェルには、心当たりがあるのだろう。現在自由騎士としてナイトの修行中であるチェルは、かの銀冑団総長の手ほどきを受けている。

「鍛錬さぼってるのにラハと話す時間はあるんだねえ」
「いやこれには事情が」
「私を護るナイトになるんじゃなかったっけ?」
「れーさぁん……

 しおしおと力を無くすチェルに笑いながら。
 ――まだざわざわする胸の内に、気づかないふりをした。