hanayasiki
2026-07-06 16:03:31
3468文字
Public
 

🍺

頭を使わずにかくとすべてがどんよりします
成人済み ディーンがダイヤさんとだらだらお酒を飲むだけの会話文(の、つもりだったけど、いつもの癖でちょっと肉付けしちゃった)

ボクはお酒に弱い。
しかも絡み酒というか、人恋しくなって一緒に飲んでる人にべたべた触るタイプだ。
だから、ダイヤに外での禁酒を命じられている。
でもたまに、ダイヤとは一緒に飲むことがある。

「就活はじめてる子もね、結構いる」
「お前はどうするんだ」
「うーん。まだわかんない」
「無理に働かなくていいんだぞ」
「んー

甘いお酒をちびちび飲みながら、ボクはダイヤにべったりくっついている。
就活という、素面でするべきだけど、素面じゃしたくない話をしていた。
働くのは好き。でもなにかしたいことがあるわけじゃない。
だから、つい大学でもその手の話題は避けてしまう。
そして、ダイヤもあまりこの話にはノリ気じゃない。
無理しなくていい、働かなくてもいい。
いつもそう、返してくる。

「飲み過ぎだ。今日はここまでにしろ」
「けちー」

お酒を飲んでる時のダイヤはケチだ。
すぐにボクからお酒を取り上げる。
ひょいとグラスを遠ざけて、ボクの手の届かない位置にもってちゃって。
ボクは大きくなったけど、それでもダイヤが高く持ち上げたものにはぜんぜん届かない。
それが、ちょっと嬉しい。

「ほら、水飲め」
「あのね、本当はなりたいものあるの」
「いいから水飲めって」 
「ダイヤのお嫁さん」

嬉しくて、ボクはちょっと口を滑らせた。

そうか。いいぞ。嫁いでこい」
「ほんと? じゃあ、お嫁さんになったらね、結婚式もしたい」
「それもしてやる。参列者はいらねえよな」
「そう? そっか。じゃあドレス着ちゃおうかなあ。ダイヤはボクの見た目どーでもいいから気にしないもんね」
「嫌な言い方をするなよ。なにを着ててもお前が一番可愛い」

ダイヤにペットボトルを押し付けられる。
仕方ないから口をつける。
口をつけるだけ。
まだ、ちょっと、酔っていたい。

「どーでもいいを否定しないんだもんなぁ。まあ、ドレスは冗談。ふふ。あ、でもね。ダイヤはタキシード着てね!これは絶対」
「ああ」
「やったー。あとね、指輪がほしい」
「どんなのでも買ってやる」
「じゃあね、ダイヤモンドがついてるやつがいい。ダイヤがね、いつも一緒にいる気持ちになれるから」
「指輪じゃなくて、俺がいつでもそばにいてやるけどな」
「んふふ、指輪に嫉妬しないでよ。可愛い。そしたら、それつけて新婚旅行にも行きたい」
「どこがいい」
「んー……。ダイヤ考えておいてよ」
「俺がか。いいけどよ」
「ボクほんと、どこでもいいんだ〜。だってダイヤが一緒なんだもん」

お酒の勢いって怖い。
つらつらと、ずっと描いてた夢が口から溢れて落ちていく。

ボクはお酒を飲んでる時のことはだいたい忘れてしまう。
だから、この子供みたいな夢の詳細は、ダイヤだけが記憶することになる。
それがいいことなのか、悪いことなのか。
アルコールで鈍った頭ではなにも判断ができない。

もうろくに動いちゃいない頭を、ダイヤの胸元に押し付ける。
ぐりぐりと甘えた。喉の奥で笑うと、ダイヤの手が優しくボクの頭を撫でる。

お酒は涙腺も緩ませる。
ボクはちょっと泣きたくなって、でもそれは我慢して、代わりにまた一つ、涙の代わりに本音を溢した。

「それで、ボク、お嫁さんになってさ。ダイヤにいつでもいってらっしゃいとお帰りなさいが言いたい。子供の時みたいに」

ダイヤの世界に来てからボクはいつでも幸せだけど、最近は少し寂しい。
おかえりもいってらっしゃいも言えない日がある。
ダイヤもボクも忙しい。
それは仕方ない現実で、受け入れるべき生活だ。
でも、時々。あの頃みたいに、ずっとダイヤを独占できたらな、と思う。
望めばダイヤは叶えてくれそうな分、望めないのだけれど。

「ご飯作って、片付けして、ダイヤのお世話して……お嫁さんっぽいことたくさんしたい」

今思えば、子供のころが一番お嫁さんみたいなことをしていた。
ダイヤが帰ってくるのを待って、帰ってきたダイヤのお世話をして。
ダイヤの朝ごはんをつくり、ダイヤを起こし、朝の支度を手伝って、仕事に送り出した。
ああいうのが、また、したい。ずっと。

まあ、無理なのだけれど。
ボクは水を一口飲み、笑った。

「そういうの、就職先の希望でさ、書けないよね〜」
「それでいいだろ。そうしろ」
「だめだよ〜」
「ダメじゃねえよ」

ダメだよ。
また一口、水を飲んだ。

「無理だもん」 
「戸籍はどうにもならないだろうが、それ以外はぜんぶできるだろ。結婚式もしてやるし、指輪も旅行もやる。仕事なんて気にするな。家にいろ」

ダイヤの声音に、ちょっと苛つきが混ざり始めていた。
ボクは誤魔化すように、ダイヤの首に腕を回す。
ぎゅうと抱きついた。

魅惑的なお誘いだ。毒みたいだね。


「そうできたらいいよね〜、でも、できないよ」
「なんでだよ」

なんでもなにも。

「だって、ボクは男だからさ〜


言葉にしてみると、やっぱり心がぐらっとくる。
声は笑っていたと思うけれど、どうだろう。

ダイヤの胸元に顔を押し付ける。
あったかい。お酒と、ダイヤの匂いがした。
お酒は本当に涙腺を脆くしてくれて、よくない。

だけど、思考力が落ちるのはそんなに嫌じゃなかった。
最近のボクはこうでもしないと素直に話せない。
大人になればなるほど隠し事が増えていく。
ダイヤの体の暖かさに、弱った気持ちを預けられない。
昔はできていたことなのにね。

ジョウも、マサルのおばちゃんもおじちゃんも、大学の友達も。
みんな、ボクがちゃんと働いて自立することを当然だと思っている。
それが、ボクのためだと言う。

みんながいうなら、きっと社会的に正しいことだ。
ボクもダイヤもそういうのはよくわからない。
正しくない生き方しかできない。

「俺は気にしねえってずっと言ってるだろ」
「ふふ、ダイヤはそうだよねえ」
「お前も気にするな」

んー、と唸る。唸るしかない。
ボクはダイヤの顎のあたりにキスをして、そのまま首元をかぷかぷと甘噛みする。
酒臭えと引き剥がされることは幸いなかった。
強引に甘えてしまえば、ダイヤは結構誤魔化されてくれることを、ボクは八年のあいだに学んだ。
ダイヤは優しい。優しくて、辛くなる。

ダイヤが気にしなくても、世間は気にする。
その世間をボクが気にする。

だから駄目。
ボクはダイヤのお嫁さんになれない。

男なら自立し、社会に貢献するべきだと、最近できた友達もそう言っていた。
きっと、それは正しく、ボクのすべきことなのだろう。
ダイヤとボクの族柄は親子。
ましてボクは男だ。

(でも、恋人だったら一緒にいてもいいはず)
(恋人でいることは正しい?)
(ダイヤのためになる?)
(わからない)

ダイヤの言葉だけ聞いて生きていけたらなと、いつも思う。
ぜんぶダイヤに委ねてしまえたら、ボクは間違いなく幸せだ。
でも、ダイヤは? それで幸せ? 本当に?

そんなわけなくない?

自問自答は止められない。
自分で自分の心にナイフを突き刺し続けている。
最近のボクはずっとそう。
痛い。苦しい。辛い。

それでも、今は、アルコールが痛みを鈍らしてくれるからいつもよりずっとまし。

「ダイヤとずっと一緒にいたいな〜」

酔っ払いであることを免罪符に、ボクはダイヤの首元に抱きつく。縋る。

「いたいな、じゃなくていろ」

ダイヤの不機嫌な声が降ってくる。
ボクはそれに全然気がつかない、ことにする。
ダイヤの唇に軽く噛み付いた。

「んふふ、ダイヤ大好き〜」

お酒が飲めるから大人になれてよかったと思う。
大人にならないで済むのなら、お酒なんて飲めなくてよかったのにと思う。

「お前もう眠いんだろ。もう少し水飲んでから寝ちまえ」

呆れたようにボクの頭を掻き回すと、
ダイヤはボクを抱き抱えた。
ベッドに連れていこうとする。
ダイヤは力持ちなので、無駄に大きくなってしまったボクでも軽々だ。
逞しくてかっこいい。安心する。ずっと、ダイヤの腕の中にいたい。
ここだけが、ボクの安心できる場所。

(でも、もうそろそろ出ていかないといけないのかな

やだ〜とわざとらしくぐずってみせた。
面倒くさそうにするけど、落とさないでいてくれるから優しい。泣きそう。

ダイヤ、ボクのダイヤ。

「もうちょっとだけそばにいさせてよ」