かのまる
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伊剣ワンドロワンライ「小待宵草」

原作時空です。
もうできてる二人で、最後は夜の営みの示唆あり。
性別不詳です。
セイバーが甘えん坊です。

ワンドロ
 セイバーが拾ってきた欠けた花瓶に、小さな蕾が活けてあった。
 いや、摘んできた花を適当に突っ込んだと云った方が合っているかもしれない。
 セイバーは江戸の街を探索している時に、気に入ったものはなんでもこっそり袖下に仕舞い込むのだ。
 それはギヤマンのかけらだったり、紐の取れた根付けだったり、猫のヒゲだったり、まるで童みたいに彼は宝物を集めていた。
「セイバーどうしたんだ、この花は?」
「ん、綺麗だったから取ってきた」
「ふむ、これは……小待宵草か。セイバーは花を愛でるのが存外好きだな」
 セイバーがふんっと胸を張ると、自慢げに胸に手を当てる。
「もちろんわたしは風流とかワビサビを大切にしているのだ。だって、それは……
 セイバーの視線が忙しなく泳ぎ、言葉が今にも消え入りそうなほど小さくなる。
「大切なことだと教えてくれたひとがいたから」
 伊織はただ黙って頷くと、セイバーの頭を撫でた。
「そうか。それはおまえにとって、決して忘れてはならないことだと思うよ」
 セイバーはひとしきり撫でられるがままだったが、はっと我に返ると伊織の手首を掴んだ。
 細い指は簡単に振り解けそうなほど、緩く巻きついている。
 丸みを帯びた頬は膨らみ、夕陽のせいか赤らんで見えた。
「私はきみの弟でも妹もない!子ども扱いはやめよ」
 口ではそう云いつつも本気で怒っている訳ではなく、彼は年下の者として扱われたのが大変不服だったのだ。
「すまん、解ってる。解ってる」
 口元が緩むのを隠しきれない伊織を軽く睨むと、セイバーはあっさりと手を離した。
「まあ、いい。疾く夕餉にするぞ。エドの夜は短いのだから」

 夕餉を終えるころ、夜も更ければ行灯の薄明かりだけが伊織の長屋を照らす。
 梅雨の長雨はどんよりと月を覆い、青白い光を隠した。
 セイバーは勝手に伊織の布団を敷くと、落ち着かずにゴロゴロと身体を動かしている。
 一方、伊織は破れた着物を繕っていた。昼間にやれば良かったと後悔しつつも、丁寧に細かくひと針ひと針根気強く縫う。
「ふう……こんなものかな」
「お、やっと終わったのか。全く現世の人間は衣も汚れ、破れるのだから大変だ」
 どこか楽しそうな声。背後にまとわりつく気配とおさげがくすぐったくて、伊織は首を軽く左右に振った。
「当たり前だろう。もう今日の仕事は全部終いだ……行灯が勿体無いから寝るぞ」
「いつもそうだ!!イオリが行灯を消してしまったらもう寝るしかないじゃないか。ヨシワラは眠る暇もないくらい煌々としてるというのに」
「江戸一番の花街と裏長屋を一緒にしないでくれ。――おい、セイバー。近いぞ」
「ん……
 セイバーがおぶさるように体重をかける。筋張った首に両腕を回すと背中に顔を押しつけた。
 伊織は軽く息を吐くと、セイバーの方に顔を向ける。
「寂しかったのか?」
「ちっ、違う……ただ夜が短いのが、気に入らぬのだ」
 不器用だなと伊織は思う。
 いつもセイバーからの誘いはどうも迂遠で、色恋に疎い伊織は初めは戸惑った。
 しかし、彼がぐずるように身体を預けてくる夜は、きっと人肌恋しいのだろうと今はもう理解している。
 伊織が行灯を消すと、部屋にはしんと暗闇と静寂が訪れた。
「確かに夜は短いが、夜が明けるまではまだ十分時間があるだろう。おいで、セイバー」
 首の拘束が解けると、広げた腕の中に小さな身体が飛びついてきた。
 セイバーが顔を上げると、丸い瞳が水の膜を張り潤んでいる。
「きみの云う通りだ。ふふ、好きだぞ。イオリ」
 返事を待つことなく、しっとりと濡れた唇がかさついた唇を塞いだ。すぐ鼻にかかった息が、かすかな水音と共に漏れる。
 伊織の目に一瞬だけ、花瓶の花が目に入った。
 蕾だった薄黄色の花がいつの間にやら開いている。
 ――きっと暁の頃まで健気にも咲き続けるのだろう。