みずか
2026-07-05 23:14:57
4246文字
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機長重悟とCA千速さん&浅葱先輩の話

蒼空さんのパイロット重悟とCA千速さんのイラスト拝見したら、浅葱先輩もいるよねーっ。で、わーっと書いてしまいました😊

 本日は天気よし、風力よし、全く問題のないお手本のようなフライト日和。
 今日も安全な空の旅を心掛けようと、重悟はヘッドセットを耳にかける。口元へマイクを寄せ、いつもの距離感に持って行く。
 まだコクピットは眠ったまま、それを起こすべく、重悟は計器盤へ手を伸ばし、ひとつ、また一つとスイッチに火を灯していく。
 目覚めたパネルは緑や琥珀色の灯りがともり、朝日に照らされたコクピット内にそっと彩りを添えている。
 管制との交信も問題無く、予定通りに離陸できそうだ。
 乗客の搭乗も始まると、コクピットも離陸に向けての準備に余念がない。行き先の天候や予想フライト時間など、確認することは多々ある。
 やがて乗客全員の搭乗が終ってドアも閉鎖され、離陸まではもうまもなく。
 重悟の予想は外れることなく、ピン、とヘッドセットから短い電子音が流れる。この音は、ギャレーからの呼び出し音だ。

 応答ボタンを押すと、耳に入るのはもうお馴染みのアルトボイス。
『ああ、重悟か。終わったぞ』
「了解」
 こちらコクピット、と言う前にCAの千速は言うだけ言って、通信を切った。
 隣の副機長も、毎度の事と驚きはしないものの、若干顔が笑いを堪えている。重悟とコンビを組むことが多い彼は、この後起きることをもう読み切っているのだ。
 再度電子音が鳴り、何でも無いように応答ボタンを押す。
「Cockpit.(こちら機長)」
「失礼いたしました。Cabin secured(客室準備完了).」
「Roger.(了解)」
 再度、きっちり正式な報告をしてきたのはチーフパーサーの浅葱一華。
 あの千速の雑もとい端的な報告の仕方をまた目撃したのだろう。後輩をしっかり躾けた後、正式なコールをしてきたとみた。
「ギャレーはいつも通りみたいですね」
「全くだ」
 やがて管制からプッシュバックの許可が下りた。
 地上クルーと連絡を取り合いあい、鋼の翼はゆっくりと滑走路へと押し出される。エンジンを始動させると手を振って見送ってくれる地上クルーに一礼し、重悟は機体を滑走路へと進めていく。
 離陸前のもう一つの仕事といえば、乗客への挨拶。
 ひとつ咳払いをして喉の調子を整えると、乗客にむけて語り始めた。
「皆様、本日はご搭乗いただきありがとうございます。当機の機長を務めます、横溝です。本日の飛行時間は約一時間十五分を予定しております── 


 機長アナウンスを、千速は客室で聞いていた。
 重悟の声は低音で落ち着きがあり、まさに誠実なパイロットそのものの声。この声なら安全な航行で目的地に着ける。そう思わせる説得力がある。
 最前列に座る若い女性が小声で「……機長めちゃイケボ」と小さく呟いたのを千速は見逃さなかった。
 日本語での挨拶の後の英語でのスピーチも、重悟の発音は流暢さもありながら、分かりやすく伝えたいの思いがこもっている。
「── まーた重悟のやつ、声だけで乗客のハート掴んでるんだよなぁ。わからんでもないが ──」
 まぁ、あれは私の重悟だからやらんぞ。
 ……というのは置いておき、機長アナウンスが終われば続いてCAによる安全設備についての案内がある。
 本日の安全設備の説明は、千速の担当。
 座席前の液晶ビジョンの横に立ち、ゆっくり一礼をする。美人CAの登場に目の色を変えた、最前席の男性乗客の視線は冷たい一瞥だけで黙らせた。
「本日の飛行時間は一時間十五分の予定だ。機長が揺れると言ったからには、途中だいたい揺れる。命が惜しかったら着席時はシートベルトしっかり締めておくように。以上」

 端的すぎる千速の解説に、客室内は一瞬静まりかえる。

 そこをすかさずフォローに入るのは、千速の先輩でもあるチーフパーサーの浅葱。
 何事もなかったかのように千速と場所を変わり、正しい安全設備案内を始めた。
「失礼いたしました。改めまして、安全設備についてご案内いたします。シートベルトは低い位置で、しっかりとお締めください。飛行中は、シートベルト着用サインが消灯している間も、お席ではなるべく着用いただきますようお願いいたします」
 


 この客室アナウンスを、重悟はヘッドセットを通してしっかり聞いていた。
「まーた千速のやつ、雑な解説を……
 あの調子では浅葱のフォローは入るだろうなと思ったが、案の定だった。
「浅葱チーフ、さすがのフォローですね」
 副操縦士もフォローが入るものと思っていたらしく、こちらはもう笑っている。離陸前の緊張もほぐれ、肩の力が抜けたのだから、あの雑な説明も意外と役に立っているらしい。
 離陸後のギャレーでは、千速は雑すぎる説明について、浅葱からしっかり指導を受けていた。
「萩原、また安全設備説明をすっ飛ばして」
「長々説明するより、命が惜しかったらシートベルト締めろでいいじゃないですか。分かりやすいし」
「そういう問題じゃない。今日初めて飛行機に乗るお客様だっているの。丁寧に。客室放送だって機長や副機長も聞いているんだから、笑って操縦ミスしたら大惨事でしょ」
「いや……重悟ももう分かってるし……
 懲りない後輩の様子に、浅葱は小さくゲンコツを落とした。
 やればできるのは間違いないながら、回りくどいことを嫌う性格のせいか、雑もとい端的な案内をすることが、ままある。お客様の中には分かりやすくていい、元気があっていい、と褒められることもあるものの、やはり仕事して立つ以上はしっかり務めなくては。
「萩原。次の案内はドリンクサービスだったな。練習してみようか」
…………
「練習、するな?」
「ハイ」
「わかればよろしい」
 浅葱チーフパーサーによる特訓は、ドリンクサービスの始まる前までしっかり続き、その効果も相まってドリンクサービスを千速はにこやかな笑顔と、丁寧な口調でこなした。
 あまりにもそれが身について、コックピットへ届ける時にも発揮されたほど。
「萩原、コックピットにもお願い」
「はい。行ってきます」
 コーヒー二杯分をトレーに乗せ、コックピットへと向かった。入る前にはインターホンで連絡をし、ドアを開くまで待つ。
 ほどなく開いた重いドアから顔を見せたのは、機長の重悟だ。
「機長、コーヒーをお持ち致しました。砂糖ミルクは何時もの数、おかわりが必要でしたらお呼びください」
……お、おう」
「では」
 礼儀正しく一礼し、去って行く千速の背中を重悟はあっけにとられたまま見送るしかなかった。
 いつもならドアを開ければ「コーヒーもってきたぞ」「サンキュ」と軽い会話なのに、それがどうした。
……こりゃ本当に揺れるかもしれんな」
 安全なフライトのはずが、なぜか急に何か起こる予感しかない。
 そんな小さなハプニングもあったものの、飛行機は無事目的地へと着陸。乗客に体調不良者や怪我人が出ることもなく、揃って地上の人となった。
 機内の簡単な片付けをして、重悟と副操縦士もコックピットから離れる。CA達も一仕事終えて降りるタイミング、重悟は一言二言フライト中安全に努めてくれた同僚達に挨拶を交わす。
 最後に出てきたのはチーフパーサーの浅葱と、その後ろにはだいぶ疲れた顔の千速がいる。
「お疲れさまでした、機長」
「こちらこそ、助かった。揺れた時の対応、さすがだな」
「当然のことをしたまでです。では、お先に」
 浅葱が先に降りれば、残るは重悟と千速だけ。ちなみに副機長は空気を読んでさっさと先に降りている。
「おい、千速。なんか疲れた顔してるが、酔った訳じゃないよな?」
……先輩に」
「ん?」
「しごかれた」
 だから、コックピットにコーヒーを届けに来たとき、きっちりしていたのか。謎が解けた。
 自由奔放な千速を指導し、かつしっかり言うことを聞かせられる浅葱の腕前に、重悟は感心するしかない。どうしたらこのお転婆をここまで大人しくさせられるのか。
 きっと自分には出来そうもないから、浅葱に聞いたことはないが……
「それでも千速が付いていくんだ。いい先輩なんだろ?」
「もちろんだ! 今日の揺れた時の対応だって、先輩は凄かったぞ」
 ぱっと目を輝かせ、いかに先輩が凄いのかを語る千速の話を、重悟はもう何度もきいたぞ、とは言わずに笑いながら聞いているのだった。

【了】


おまけの横溝機長のご挨拶(全文)
皆様、本日はご搭乗いただきありがとうございます。
当機の機長を務めます、横溝です。
本日の飛行時間は約一時間十五分を予定しております。
現在、目的地札幌の天候は晴れ、気温は二十二度との報告を受けています。
飛行中、一部区間で揺れが予想されますので、安全のためお席ではシートベルトの着用をお願いいたします。
皆様を目的地まで安全にお送りできるよう、乗務員一同努めてまいります。
それでは、どうぞ空の旅をお楽しみください

Ladies and gentlemen, this is your captain speaking.

Thank you for flying with us today. My name is Yokomizo, and I’ll be your captain on today’s flight.
Our flight time today will be approximately one hour and fifteen minutes.

According to the latest weather report, the weather in Sapporo is sunny, with a temperature of twenty-two degrees Celsius.
We expect some turbulence during certain parts of the flight. For your safety, please keep your seat belt fastened whenever you are seated.

Our crew is committed to getting you safely to your destination.
Thank you, and enjoy your flight.