森林モトキ
2026-07-05 18:16:31
2877文字
Public ヒスムル
 

このあとめちゃくちゃ二日酔いした。

現パロ同棲時空⛈🌇。
妄言アカでつぶやいてた「社畜🌇が会社倒産きっかけに⛈のボロアパワンルーム部屋に転がり込んでる」時空の超絶メンドクサ泥酔⛈(フリーター)と酔っ払いをいなす転職活動中の🌇の話。
ノリで書いたのでキャラ崩壊気味。何でも許せる人向けです。75の日がこれで本当にいいのか?

***


 玄関を開けると、物干しハンガーを抱えた居候と目が合った。

「おかえり」
……おう」

 無感情な挨拶の主の顔が、今日はいつもよりぼんやりとしている気がする。24時間365日まったく音程の変わったことのない声が、心なしかいつもより二割増しで冷たい気さえする。なんだ、何かオレが悪いことしたか?ただ酒飲んで帰ってきただけだ。ふつふつと湧いて出た怒りそのままにまとわりついたスニーカーを蹴り落とし、そのまま玄関の縁までつま先を持ち上げる。

「うおっ」

 頭のてっぺんにのっかったままの重石がオレの頭ごと前へ落ちていく。いや、重石じゃなくて頭そのものだったかも。つま先がちょっとしびれている。体がゆっくり浮いて目の前がボロの床板だけになったところで、視界の端から伸びた腕が力強くオレの肩をつかんだ。

「んだよ……今日飲みっつったろ……
「朝方申告した時間を2時間超過している。体調は」
「なんともねー……から、さっさと、離せって……
「酩酊状態が寛解するまでは補助の必要性がある」

 一人暮らしの狭苦しい部屋にコイツが転がり込んできてしばらく経つが、いまだに何を考えて過ごしているのかわからない。感情的でガサツなオレの行動言動を、多少たしなめる程度で何も言わない。居候の引け目でもあるのかと思ったこともあるが、その割にゴミの始末やら飯のバランスやら細かいところは逐一文句言ってくるのでそういうわけでもないらしい。
 重い頭蓋を持ち上げようとして、ふと隣から煙の匂いがすることに気づく。

「テメーまた吸いやがったなァ……?」
「面接会場の喫煙所だ。部屋の中では──」
「大家のばーさんがうるせえから吸うなって……
「部屋では吸っていない。洗濯物を片づけ次第これも洗う。」

 ずるずると引きずる音に混じってほんのかすかにため息が聞こえてきた気がする。上瞼の陰から覗く顔は、いつもなんら変わりない鉄面皮。脇に腕を通されてアルコールで重くなった体が持ち上がる。シャツ越しに伝わるほんの少しの暖かさが心地良い。それで、なんとなくほっとした……ほんのちょっとだけ。
 そうしてくらぐらと揺れる夢心地の廊下を進んでいくと、不意に支えがなくなってぽすん、と抱えられた体が落ちた。木造の床は想像したよりも静かで、ふんわりと暖かい。違う、これは布団。しかも干したてだ。悔しいことに。
 重力に従ってゆっくりと沈んでいく体とは裏腹に、頭の奥に残る聴覚だけが鋭敏なままだ。カサカサと乾いた衣擦れの音とともに腕のあった場所が冷えていく。とっさに握りしめた指はムルソーのシャツの端にも触れなかった。

「うう」
「今日の分の洗濯物はすでに終えている。そのまま就寝して問題ない。」

 ぱちん、ぱちん。眠気と酔いでぐらぐらと揺れる視界の中、洗濯ばさみを外す音が心地いい。
 見上げる視界の端に少しずつ積まれていく衣類の山からはケミカルな花の匂いが漂ってくる。コイツと暮らすようになってから使い始めた洗剤の匂い。テキトーに安い洗剤だけ使ってた俺に「よりコストパフォーマンスがいい」っていって買ってきた柔軟剤が混じってるやつ。近所に売ってて容量もそこそこいいそれは、2人分をまとめて選択するには手間も値段も確かにちょうどいい。ちょっと匂いがキツイのが玉に瑕だが、この居候からすればそれもまた利点の一つだという。

ぱちん、ぱちん。

 黒靴下を外し終わったムルソーが、梁にかかった洗濯ハンガーの揺れを抑えて、洗濯物の山の隣、俺の真横に座り込んだ。座った時の揺れで重たい脳味噌がぐらりと揺れた気がした。

「おい」

 無言。黙々とTシャツを畳む。正座で屈むような姿勢で見下ろす視線の先は、オレより手前の膝の上の洗濯物しか映っていないらしい。返事くらい返したっていいだろ。ぐらり、ぐらりと脳みそがかき回される。

「なぁ」

 酔っ払いは寝てろとばかりに無視を貫かれ続けるのが面白くなくて、すぐそばにあったふくらはぎに触るも反応なし。根気よく撫で続けると、眉間を寄せてじりじりと正座した足が遠ざかった。無意識にのどの奥から笑いが漏れてくる。

べちんっ

 爪先で優しくひっかいていた右手を思い切り引っ叩かれた。思わずひっこめた手はあっさりとつかまれて体の横へ戻され、上から掛け布団をかぶされる。頭の中で脳みそがぐるぐるとかき混ぜられている。ぐらり、と頭蓋がゆれて、中身が一気に零れ落ちた。

「無視すんな」

 掛け布団を抑えようとした白い腕をつかみ、勢いよく引く。不意をつかれてバランスを崩す巨体を勢いのまま布団へ押さえつける。右手に握ったままのしわくちゃのタンクトップが布団の上の煽情的な光景から妙に浮いていて滑稽だ。
 驚きで見開かれたままの目が徐々に冷静さを取り戻していく。ほんのわずかに動く眉も不満そうな口元も面白い。思わず目を細めてニヤつくオレに、眼下でさらに訝し気な顔をする。

「一度睡眠をとるべきだ、ヒース───」
「うっせーなぁ……
 
 さんざん無視したくせにいっちょ前に文句ばかり言う口にいい加減辟易してくる。一回ふさいで黙らせてやろうか。

「──あ?」

 空っぽの頭に重力が加わって重い。酔いのまわった身体がいうことを聞かない。欲のまま屈めた身体は、力を抜くタイミングを間違えた腕の支えを失ってシャツ越しの胸板の上へ倒れこんでしまった。

……っ」

 頬に触れる肌が温い。体制を立て直そうとついた腕から力が抜ける。チャンスとばかりに回された腕で背中をゆっくりあやされる。心臓の鼓動ときっかり同じタイミング。そういえばさっきから瞼も頭も重い。波立ちつづけた頭蓋の中身が次第に落ち着いていく。ゆらゆらと、心地のいい温さと柔らかさに沈んでいく。

「おやすみ」

  たった一言にとどめを刺されて、オレはまどろみへの抵抗をやめた。




***

 すうすう、と耳元に聞こえる寝息を聞きながら、ムルソーは一人チカチカと点滅を繰り返す蛍光灯を眺めていた。
 やはり、酩酊時のヒースクリフの対応はまだ試行錯誤の余地があるだろう。ある日は急に泣き出し、またある時はこうしてやたらとこちらへスキンシップを求めてくる。どうにも不安定だ。
 ともあれ、ようやく宥めることに成功したのだから、さっさとたまった洗濯物を本来当番だった彼の代わりに片づけなければならない。明日もお互い朝から忙しいのだから。

 肘をついて力を入れる。ぐい、と起こした身体が、あらぬ方向から思い切り引き戻される。ならば、と動かした足も、夢の世界にいるはずの男の足が絡んで動かない。
身体をひねる。頭を退けようとする。ゆっくり身体をずらす。声をかける。

「ヒースクリフ」
「んぅ……
「ヒースクリフ!」
……んぐぅ」

 その後試行すること20回。起き上がれないことがわかると、ムルソーは大きなため息とともに右手のタンクトップを洗濯物の山へ投げ捨てた。