遊音。(ゆね)
2026-07-04 15:51:19
5545文字
Public 約束シリーズ。
 

でいすい。


付き合ってるトガカバ(tgkb)で、泥酔したカバキくんの話です。(酒によりキャラ変わってますのでご注意ください)
『やくそく。』のその後の二人ですけど、これだけで読めます。冒頭、モブ視点です。



 僕はいま、非常に困っている。
 クサシノの飲み会で新人の僕が幹事をやって、なんとか無事に終わりを迎えそうになったところで、先輩の樺木が飲みつぶれてしまった。
 なんでもあまり飲み会に来ないらしく(たしかに僕も初めて一緒になった)、珍しがった先輩たちにやたら飲まされていたのは目の端で捉えていた。
 いつもポーカーフェイスで競技に真剣に向き合っていて、練習もまじめで、冷たい人かと思っていたけれど、話しかけると必要なことはしっかり答えてくれる樺木先輩。僕は前から憧れていたけれど、尊敬もするようになった。本当に良い先輩で、しっかりしていたイメージなので、こんな風に飲みつぶれるとは思わなかった。実際、他の先輩たちも珍しがっていた。机に突っ伏して寝ている樺木に色んな先輩が声をかけたけれど、一瞬目を覚ましても「トガシさんがくるまれかえらないれす」と言ってまた突っ伏してしまう。
 今日は同じクサシノの先輩であるトガシも来る予定だった。だが、地方イベントの予定が伸びたとかで来れなくなったのだ。それを樺木も知っているはずなのに、そんなことを言われても困る。それにしても、樺木とトガシは確かに仲がよさそうだとは思っていたが、こんなに慕うほどだったとは思っていなかった。
 困っている自分を後目に先輩たちは、トガシには連絡しといたから、と言ってみんな帰っていく。もう会計も終わってこの10人以上入る個室から出ないといけないので、お店の人の視線も痛い。早く引き上げたいが、アスリート選手を一人で抱えるのも厳しい。問題のトガシはイベントが終わってこちらに向かっていると聞いているが、直接の連絡先を僕は知らなかった。
「トガシさん、早くこないかなぁ……
 本当に困った、と溜息をついたところで「ごめんね!」と僕の名前を呼ぶ声がした。
「あ、トガシさん……!」
 助かった、と安堵の声が出てしまう。イベント会場から駆け付けたであろうトガシはよほど慌ててきたのか、スポーツウェアにウィンドブレーカーという姿で着替えずに来てくれたらしい。
「お待たせ、ほんとにごめんね」
「いえ、こちらこそありがとうございます! 樺木さん、トガシさんが来るまで絶対帰らないっておっしゃってて……
 ホント困ってたんです、と言うと柔らかくトガシが笑う。僕はトガシも尊敬している。いつも愛想がよくて柔和で、話しやすくてアドバイスもくれてとても良い先輩である。
「ごめんねぇ、にしてもカバキくんが珍しいな。そんなに飲んだの?」
「えぇ、なんか樺木さんこういうところ来るの珍しいじゃないですか。先輩たちがあれこれ飲ませたみたいで……
「ビールとかチューハイでここまでになったの見たことないけど……
 その時、ふと思い出して、別の先輩の名前をあげる。
「樺木さん、焼酎飲んだことないっておっしゃってて、そしたら色々試そうって話であれこれ飲まされたみたいです」
「なるほどねぇ……
 あれ、と思った。伏せた目で口元に手を当てたトガシを、一瞬怖い、と思ってしまった。こういう目をすることもあるんだな、と少し新鮮に思う。
「トガシさん……?」
「あ、ごめん、ごめん。とりあえずカバキくんは引き取るから帰っていいよ」
 突っ伏した樺木の傍に立ってトガシが手を振ってくれるが、果たして本当に帰っていいか迷う。一人じゃ大変じゃなかろうか。
「あ、でも、大丈夫ですか? 1人で……
「とが、し、た…………?」
 樺木が目を覚ましたらしく、突っ伏したまま頭だけ持ち上げて見上げてきていた。あ、涎たれてる。めずらしい。年相応な雰囲気で面白いな、と思っていると、樺木がにこっと嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑った。
「あ、とがしたん、らぁ」
 そんな風に笑うんだ……? と思ってる間に、傍にいたトガシに腕を伸ばした。
「とがし、たん、おれ、めったゃ、さみしかってん、おんものの、とがしたん、うれし……
 未だ泥酔状態の舌ったらずの樺木が、縋りつくようにトガシの上着を掴んで腰元に顔を押し付ける。なんて嬉しそうな顔をするんだろう、と思っているとその顔を隠すようにトガシが樺木の顔に腕を回した。僕の名前を呼ばれる。
「一人で、大丈夫だから。先に行って」
「あ、でも……
「行ってくれる?」
 有無を言わせない強さと、競技の時だってみたことないような冷たい視線で睨まれて、思わず背筋が寒くなる。
「あ、はい! すみません、お願いします!」
「うん、ほんとに、ありがとうね」
 いつもの通りにっこり笑われて、僕はほっとしてお辞儀をすると「あと」と言われてドキリとする。顔をあげると、トガシが空いた右手側の人差し指を立てて口元にあてる。
「今、見たのは、忘れてね」
 伏し目がちの視線を向けられて、僕は何度も首を縦に振ると、急いでその場を立ち去った。
 心臓がばくばくする。正直、飲みつぶれた樺木よりも、今のトガシのほうがよっぽど見てはいけないものだった気がして、僕はまだ飲めないお酒が無性に飲みたくなった。



 

 力の入っていない巨体を持ち歩くのは厳しいので、肩に担ぎあげたまま、トガシは近くのホテルに入った。幸い歓楽街だった為、すぐ見つかったので助かった。多少変な目で見られはしたけど仕方ない。
 どさり、とベッドに落とすとカバキが衝撃で目を覚ます。
「んぁ……とがし、さん……?」
 舌ったらずさは少し抜けたようだが、まだ酔いはとれないらしい。
「はいはい、君のトガシさんですよ」
 トガシは怒りが収まらない。ここまで飲ませたやつらにも、イベントが長引いて予定していた飲み会に行けなかった自分にも、先ほどのカバキを見られてしまったことにも。
「焼酎弱かったんだね、カバキくん。知らなかったよ。二度と飲んじゃだめね」
「とがしさん、とがしさん……
 トガシの話なんてまったく耳に入っていない様子で、起き上がってベッドに座ったカバキが腕を伸ばしてくる。トガシが上着を脱いで近づくと、腰に抱き着いてきたので、その頭を撫でた。
「も、ほんと、さみしかってん……
 すれ違いが続いて一か月近く会えなかったのは事実だが、こんなに素直に言葉に出すのは珍しい。態度は素直だし、積極的ではあるがいつもはここまであからさまな言葉にも出さないし、こんな子供っぽい態度をとることもないので、酒のせいとはいえこんな風になるのかと思うと可愛くなった。
「ごめんね。さびしかったね」
「とがしさん、ちゅーして、ちゅー……
 思わずトガシは目元を手で覆った。そんな台詞聞いたことなくて眩暈がする。
「ちゅーしてくれへんの……?」
 涙目で見上げてこられて、トガシは大きくため息をつく。膝を床について、ベッドに座るカバキと視線をあわせると、額にキスして、そのままこつんと自分の額とあわせた。
「してあげるけど、その前に飲みすぎだよ、カバキくん……
「だって、とがしさん、こられへんかったから……
「イベント終わったら、迎えに行くってちゃんと連絡したじゃん。こんな可愛くなっちゃって、他の人に見られたらどうするの? 実際一人見られたし」
 今思い出しても、見られたことにイライラしてしまう。こんなに可愛いカバキに飲ませて放置していたかと思うと、あの場にいたであろう全員をぶんなぐって記憶をなくしたい衝動にかられる。
「でも、おれ、ちゃんと、とがしさん、くるの、まってたんよ」
 ふにゃっと笑ったカバキは、えらい? と首を傾けてくる。
「とがしさん、くるまで、うごかんと、まってたんよ」
 えへへ、と笑ってカバキが首に腕を回してくる。
「えらいでしょ、ごほーび、ごほーびほしい、とがしさん」
「えらいけど、ここまで酔いつぶれたのはダメ。ご褒美じゃなくてお仕置きだよ、これは」
「おしおき……
 ますますカバキは嬉しそうに、あはあは笑い始めた。
「カバキくん……?」
「おしおき、おしおきして、とがしさん、おしおき……たくさん、とがしさんにされるなら、うれし……
 トガシは大きな溜息をつくと顔を両手で覆ってしばらく蹲る。目の前でおしおき、と騒ぐ年下の恋人の声を聴きながら、呼吸を整えた。トガシだって一か月ぶりである。両手を下ろして静かにカバキを見上げると、カバキが嬉しそうに微笑んで両手で頬を包んでくる。
「おれ、その、とがしさんのめ、すき。めっちゃ、すき」
「お仕置きしてって言ったの、カバキくんだからね」
「して、おしおき」
 キスを強請ってきたので、トガシはその口を手で塞ぐ。
「お仕置きだからね。キスはまだだめ」 
 不満の声をあげて騒ぐカバキの着ている服を脱がしながら、トガシはどこかの血管がぶちぎれそうだった。


 目が覚めたカバキは頭が痛くて呻いた。こんな頭痛は経験したことがない。
「なんや……これ……
 ゆっくりと体を起こしたが、さらに頭がガンガンする。
 そして頭だけではなく、体中痛い。
「どこや……
 自宅ではなくどこかのホテルだということはわかる。見ると体中、歯型とキスマークがついているし、あちこち痛い。
「え……
「あ、起きた、カバキくん?」
「え、トガシさ……なんですか、これ……頭すごい痛い……
「二日酔いだよ。水飲んで」
 ペットボトルを渡されて、額をしばらくおさえる。
「二日酔い……?」
「昨日、飲み会で焼酎飲まされたんでしょ?」
「なんか色々飲まされました……
 ボトルの水を一気に飲むと、ほんの少しだけ落ち着く。頭の痛みは治まらないけれど。
「え、トガシさん、いつ来てくれたんですか?」
「居酒屋でカバキくんがつぶれたって聞いたから急いで迎えにいったんだよ。元々迎えに行くつもりだったけどさ。覚えてない?」
「まったく……記憶がないです……
「カバキくん、記憶失くすタイプなんだね……ますますダメだな」
 痛む頭をおさえながら見上げると、腰にタオルを巻いたトガシが腕を組んで眉を寄せている。
「え、怒ってます……?」
「当たり前でしょ。今後一切、俺がいないところでアルコール飲むの禁止」
 とくに焼酎は絶対だめ、と言われてカバキは眉尻を下げた。
「そんな無茶な……てか、体中痛いんですけど、なんですか、これ?」
「お仕置きしたから」
「お仕置き……?」
「言っとくけど、カバキくんが強請ったんだからね。お仕置きしてって」
……俺、なんて言ったんですか……? てか、俺、他にもなにか強請りました……?」
 嫌な予感がする。記憶のない自分が欲望のままに何を言い出したのか考えると怖い。しかも一か月ぶりのトガシ相手に。
……俺、カバキくんがしてって言ったことしか、してないからね」
「俺、何してって言いました……?」
 トガシが少し意地悪く笑う。
「ナイショ」
「え、何も覚えてなっ……痛ぇ……
 大声をあげたらそれが脳内に響いて酷く痛む。隣にきたトガシが頭を撫でてくれた。
「ほら、これに懲りたら、もう俺がいないとこでお酒飲まないでね。もう少し寝てなよ。まだ時間あるから」
 カバキは両手で顔を覆う。
……大丈夫、カバキくん?」
「もったいなくて……
「もったいない?」
 両手を顔から外してトガシを見上げると、困惑した顔がある。
「だって、せっかくトガシさんが、お仕置きと称してあれこれしてくれたんですよね? なのに何も覚えてないなんて、もったいなさすぎる……
……カバキくんて……ぶれないよね……
 トガシに呆れた顔で言われてしまうが、そう思うのだから仕方ない。
「もう、飲みませんから、記憶なくしませんから、もっかい俺に同じことしてくれませんか……?」
……それは、難しいかも……
「え、なんでですか?」
「カバキくんが、カバキくんじゃなかったし……
「なんでですか⁉ 動画とか残してないんですか?」
「残すわけないでしょ!」
 何言ってんの、と少し怒られる。カバキは本当に悔しくてトガシの腕を引っ張った。
「せめて、一部だけでも教えてください」
「ダメ。ていうか、頭痛いんでしょ。寝てなさい」
「教えてくださいよ! こんなに歯形もキスマもつけてくれたことないじゃないですか! どういう状況だったんですか、教えてくださいっ!」
 首を振るトガシに、ベッドに無理やり寝かされる。
……恥ずかしいんですか、トガシさん?」
……ちょっと俺もタガが外れたなとは思ってる」
「わかりました……教えてくれなくていいので、今度二人で焼酎飲みましょう」
「ダメ。録画する気でしょう?」
 思わず舌打ちが出る。
「舌打ちしないで。ていうか、そんな乱れた自分見たくないでしょ?」
「俺はそんな小さな羞恥心よりも、俺で乱れるトガシさんが見れるならそちらを優先します」
「ほんと……カバキくんには負けるなぁ……
 頭を撫でられながら、痛みよりも悔しさでカバキは唸り声をあげながら目を閉じた。





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冒頭のモブになって、私もトガシに口元に人差し指立てて、ナイショだよってされたい‥‥!されたい!!!
お酒ネタ好きなんですけど、私も酒ネタ書きたい!トガシを酔わせたい!って思ってたのに、考えているうちにやっぱり酒でキャラ変わっちゃうカバキくんが見たいな!ってなったのでした。トガシを酔わせるのもそのうち書きたいです(同じ二人で)。

やくそく。の二人は私のトガカバの基本なんですけど、このトガシは内側に暴トガシを飼っています(普段は見せない)