墨色
2026-07-04 10:40:24
2588文字
Public れめししお題
 

無防備な白に落とす、所有のキスを

れめししお題企画「飾り、お祝い」お借りしました。
れめ誕生日2026
誕生日祝いをねだる👿と応える🦁
色っぽい文章目指した。


「御機嫌よう、観測者諸君。今日の配信は、生誕前夜祭だ」
 
 スマホの小さな画面の中で、見慣れた白いフードを外し『HAPPY BIRTHDAY』と書かれたカチューシャを着けた叶が映っている。
「明日はいつものみんなと誕生日パーティー配信するからな。……ん?0時の配信はしないのかって?」
 チャットを拾った叶が、ニヤリと口角を上げた。
「オレだって、誕生日を一緒に迎えたい特別な相手がいるんだよ」
 画面越しにバカなと思うが、叶の特別仕様のコンタクトレンズと目が合った気がした。
 画面を閉じ、オレはキッチンに向かう。明日の料理の下拵えをしながら、数日前の叶とのやり取りを思い出す。誕生日プレゼントを決めかねていたオレは、仕方なく本人に希望を聞くことにしたのだ。それくらい読み取れない自分を恥じながらも、やはり恋人の喜ぶものを贈りたいという思いがオレのプライドを上回ったのだ。オレの迷いも、相談事も見越していた叶はニコニコとした笑みを浮かべながら「一番におめでとうって言って」なんて、少女漫画のヒロインみたいなことを言い出した。揶揄われているのかとその真意を疑うが、アイツの真意は言葉通りだとしかオレには読めなかった。
「分かった」と返事をすると、ふにゃりと目尻を下げつつも「楽しみだな」と眼光を光らせるので、後悔という言葉が脳裏を過った。だが、前言撤回など出来るはずもなく、オレは叶が配信を終わらせ家にやって来るのを大人しく待つしかないのだった。

 ピンポンと珍しく玄関のチャイムが鳴ったので、玄関に叶を迎え入れに向かう。
「敬一君!」
 ドアが開くと同時に叶が抱き着いてくる。浮かれたカチューシャを着けたまま、いつもと違う誕生日仕様のスマイリーマークのコンタクトと今度こそ間違いなく目が合った。
「よかったー、日付が変わる前に間に合った」
 大袈裟にため息をつく叶に、オレは首を傾げる。
「まだ一時間はあるぞ?」
 叶がペロリと舌なめずりした。
「おめでとうをどういう状況で言ってもらいたいか、言ってなかったな」
 細められる瞳に、嫌な予感しかしない。
「一番近い場所……距離で言ってね」
 抱き締められる力が強くなり、叶の言葉が指し示す意味を理解した。
 別に今更そんなロマンティックに言わなくても、その行為自体を拒否するつもりはない。
……分かったよ」
「うん、頑張ってね」
 顎を掬われ口付けられた。

 
「あぁ、ほら……日付が変わったよ?」
……うん、あぁ……
「早く、お祝いしてよ」
……くっ……かのぉ……
「うん?」
……たんじょーび……おめでとぉ」
「よく出来ました。ありがとう」

 日付が変わるタイミング、一番近くでゼロ距離で祝いの言葉をなんとか伝えられた。


「そう、誕生日になったぞ」
 夜中にうっすらとした明かりと、叶の声で目を覚ました。
「何歳とか意味ある?」
 叶の手元のスマホには、普段は見ないチャット画面。叶の顔も映ってはいない。いつもの配信プラットフォームとは別のものだろうか。確か、雑談だけだと使うこともあると言っていた気がする。
「プレゼントに欲しいもの?なんだろなー」
 オレが起きたことに気づいていないのか、叶の声は途切れない。声をかけようか逡巡していると、背骨がほのかに光るように浮かび上がった叶の背中が目に入った。白いその背に、唇をそっと寄せた。
 軽く触れると、叶がこちらを向いた。
「ちょっ……何すんのさ、敬一君。配信中なのに」
 尖らせた唇に、オレの唇を重ねた。
 触れるだけのキスを素早く離して、
「バーカ、配信なんてしてねえだろ」
 再びキスを続けた。
「分かってたの?」
 湿り気を帯びた唇を、楽しそうに三日月の形に変えながら、叶がオレの髪を梳く。
「オマエがオレといるときに、他のヤツを見るかよ」
 勝ち誇ったように言えば、目を丸くして叶が破顔した。
「正解!オレのことよく見てるな!」
 そのまま抱きつこうとする叶の腕を避け、もう一度背中にキスを落とした。背骨に沿うように何度も繰り返す。そして、なだらかな腰のラインに到達すると、食らいつくようにキスをした。
「何?所有の印?」
 クスクスと笑い声が頭上から降ってくる。
「そんなんじゃねえよ……いや、そうかもな」
 あと数時間経ったら、二人だけの時間は終わる。別に、ただ今日という日の二人きりの時間の話だ。だがそれでも誕生日の二十四時間を独り占め出来ないのが、なんとなく悔しかったんだ。ワガママな感情だ。
「じゃあ、オレももっとオレのものだって分からせてあげるよ」
 暗闇の中でもギラギラと光る瞳に、オレのワガママなどカワイイもんだと苦笑するしかなかった。


 
「敬一君、オレがイチゴ飾りたい!」
 スポンジケーキを生クリームでデコレーションしたところで、叶がお手伝いする小学生のように手を挙げた。
「別にイイけど」
 イチゴのパックを手渡せば、きちんと水洗いしてヘタを取ってケーキに並べて行った。
「おー、すげえじゃん」
「褒められるハードルが低すぎる」
 不満そうに頬を膨らませる叶は、今日もふざけたカチューシャを頭に乗せている。
「敬一君の誕生日ケーキも、オレがイチゴ飾るからな!」
 胸を張る叶だが、ケーキそのものはオレが作ること前提なのだろう。オレの誕生日なのにか?
「へーへー、楽しみに……いや、無理だな」
「え?なんで?」
「オレの誕生日の時期はイチゴが売ってねえんだよ」
 真夏にイチゴは基本的には売っていない。市販のケーキだって、シャインマスカットやマンゴーなど別のフルーツで飾られることが一般的だ。
「えー、そうなの?じゃあ、何で飾りつけようかな?」
「夏は夏でフルーツは沢山あるぞ」
 南国のフルーツが輸入されたりもするから、存外珍しいものが手に入ったりする。
「それじゃあさ」
 叶が余ったイチゴを口にしながら、提案してきた。
「いっそ、南の国に行こう。そこで敬一君にピッタリのケーキを作ろう」
「はっ?!別に誕生日ケーキにそこまでしなくていい……
「違うぞ、敬一君。オレが恋人に最高の誕生日ケーキを贈りたいんだ」
 正面から真っ直ぐ見つめられ、オレは胸の中で早くも誕生日までのカウントダウンを始めた。