もうすぐ七夕の日という事で、グランサイファー内にはいつもよりも緑が溢れていた。
「こんにちは。笹が沢山置いてあるね。私の部屋の近くにもいつの間にか置いてあった。これは
……緑化運動だろうか?」
そう言って、部屋の前に立っていたルシフェルさんが私に尋ねてきた。
「こんにちは!これは七夕用の笹なんです!」
「ああ、もうすぐ七夕だったか」
ルシフェルさんが廊下の壁際に置かれている笹をしげしげと眺めている。
「確か、短冊に願いを書いて笹に結ぶのだったな。まだ、短冊は無いようだが」
「これから短冊を作るんです!
……そうだ!ルシフェルさんも一緒に短冊作りませんか?紙を切ってこよりを通すための穴を開けるんです!」
元天司長であろうとも、団員であるからには平等に接するのが私の信条である。普通のヒューマンだったらその美貌に怖気付いたかもしれないが、幸い私の団には美男美女が揃っている。雑用をお願いする事に一切の躊躇はなかった。
「私でよければ手伝うのは構わない。だがその前に一ついいだろうか。朝からサンダルフォンが見当たらないのだが、彼がどこに行ったか知らないか?」
「ごっ、ごめんなさい!実は笹の数が足りなくて、サンダルフォンとビィに追加で買いに行ってきてもらってるんです!」
ルシフェルさんの表情を見て慌てて顔の前で手を合わせた。去年より団員の数が増えたのに笹を買い足していなかったのだ。団長にあるまじき落ち度である。
「君が謝る事はないよ。話を遮ってすまなかった。短冊を作りに行こう」
「そうですね。行きましょう!」
こうして私はルシフェルさんと共に艇内の共同スペースへ向かったのである。
共同スペースにいたルリアとも合流し、3人仲良く短冊を作る。後もう少しで作業終了というところでサンダルフォンとビィが戻ってきた。
「お帰りなさい」
「ルシフェル様。ただいま戻りました」
ルシフェルさんに爽やかな声で挨拶したかと思ったら一転、地を這うような声がこちらに近づいてきた。
「団長。俺だけでは飽き足らず、ルシフェル様にも雑用をやらせるとはどういう了見だ」
「笹、見繕ってくれてありがとう」
貸していた団長用財布をサンダルフォンから受け取りつつ、感謝の言葉を述べる。そして小声で付け加えた。
「サンダルフォンがいなくてルシフェルさん少し寂しそうな顔してたよ」
「
……そうか」
ビィから「笹を飾りに行こうぜ」と言われたサンダルフォンはどこか誇らしげな様子で共同スペースから出て行った。
「ふふっ
……」
「どうしたの?ジータ?」
「ううん、何でもない。さっさと終わらせよう」
サンダルフォンからの敵対心をさりげなくDOWNさせた己のスキルに惚れ惚れしながら残りの作業に手をつける。テーブルの上に置いておいた色付きの紙の束が、あっという間に減っていき
……。
「一通り終わったようだね」
「やりましたね!」
「お疲れ様です!」
三人でハイタッチした後、短冊の束を丁寧に麻布の袋に入れていく。
「用意した短冊の数が所属する団員数よりも大分多いようだが、枚数の目標値などはあるのだろうか」
「目標値?最大十枚までとは決まってますけど強制ではないです。でも、沢山書いたほうがお得ですよ」
「どういう事だろうか」
「うちの団の七夕はただ願いを書くだけじゃないんです。他の団員の書いた願い事を見て、叶えてあげられそうなものがあれば協力してあげるんですよ。願いが叶えられた短冊には叶えた人のスタンプを押すんです。ちなみに沢山願いを叶えた人には団長からのご褒美もあります!」
カリオストロの錬金術のお陰で艇内の空間は幾らでも広げられる事もあり、うちの団に所属する団員の数は三桁超えていた。互いの顔も知らぬ団員もいる事は想像に難くなく、そこで始めたのがこの七夕イベントである。団員の交流が少しでも活発になればいいなと考えて始めたのだが、好評だった為毎年恒例の行事となった。団長のご褒美目当てで躍起になる人達も少なからずおり、ご褒美を与える基準については細かいルールを設けているのだが、そこは本題ではないので割愛する。
「そうだったのか。面白そうな試みだな」
「でしょう?ルシフェルさんも願い事書いてみてくださいね」
用意したばかりの短冊十枚分とついでにペンを手渡しつつ、短冊の束が入った大きな袋を持ち上げる。
「皆に配りに行くのだろう。私も手伝おう」
「大丈夫ですよ、食堂とか喫茶室とかにまとめて置いておくだけなのですぐ終わります。それより、願い事書いたら見せてくださいね」
「ああ。分かった」
笹を置きにいったサンダルフォンとビィと途中で合流し、皆で世間話をしつつ短冊配りを行った。共同スペースへ帰る途中、ルシフェルさんについての話が上がった。
「ルシフェルさん、願い事書けたかな?」
「ルシフェルの事だから「空の世界が平穏でありますように」みたいな壮大な事書いてそうだよな」
私の呟きにビィが反応した。それに対してサンダルフォンが反論する。
「ルシフェル様は空の行く末を空の民に委ねて、天司達の役割を徐々に還元するよう伝えた。だから、その様な願いはしないのではないかと俺は思う」
「それじゃあ、お前はルシフェルが何を願うと思うんだよ?」
「ルシフェル様は無欲な方だからな
……」
サンダルフォンが首を捻った。眉間の皺が増えていることからも真剣に考えている様子が伺える。
「自分の事よりも他の人の事についてのお願いをしてそうじゃない?」
「確かにルシフェルらしいな」
「サンダルフォンさんについてのお願い事を書いてるかもしれないですね!」
「俺について?俺が天司長の務めを無事果たせます様に、とかだろうか。俺は懸命にやっているつもりだがルシフェル様から見ると目に余る所があるだろうからな
……」
更に眉間の皺が増えるサンダルフォン。慌ててルリアがサンダルフォンは立派に天司長の務めを果たしているとフォローしたのである。
「ルリアのいう通りだよ!それにもうすぐ共同スペースに着くんだから答えはすぐ分かるでしょ」
そう言って、共同スペースに続く通路を歩き続けた。
ちなみにルシフェルさんがサンダルフォンに関しての願いを書く可能性はそこそこあると私は踏んでいた。理由は単純なもので、ルシフェルさんからサンダルフォンについての相談を個人的に受けていたからである。サンダルフォンを見ているとコアに僅かな異常をきたすとの事だったのだが、その時のルシフェルさんの表情が恋する乙女にしか見えなかった。それって恋の病では?と危うく口に出す所だったが、二千年もの間ルシフェルさんに愛憎の感情を抱いていたサンダルフォンを差し置いてそんな事を指摘するのは不躾にも程がある。だから、またサンダルフォンとすれ違いにならない様に気を張ってるからとかじゃない?とその時は適当にはぐらかしておいたのだ。
共同スペースの前に到着し、扉をを開けると短冊とにらめっこしているルシフェルさんが見えた。
「ルシフェルさん、短冊書けました?」
これ以上サンダルフォンの眉間の皺を増やさない為にもにさっさと答えを聞いてしまう。
「ああ。書けたよ」
そう言って渡された短冊の文字を見ずにサンダルフォンに手渡した。意図を察したらしいサンダルフォンが声に出して読む。
「『天司達が健やかに過ごせますように』か。ルシフェル様らしいですね」
「ルシフェルさん!もっと個人的な事をお願いしてもいいんですよ」
私の言葉にルシフェルさんは言葉を返さなかった。机の上にある二つ折りにされた短冊を見ている。
「そっちも見てもいいですか?」
「
……ああ」
意味深に折られた短冊を、ルシフェルさんの気が変わらないうちに素早く手に取りサンダルフォンに渡した。
「『サンダルフォンと共にいられますように』
……?』
「うん。それが今の私個人の願いなのだが
……」
「ルシフェル様!その願い、俺が叶えます!」
「そう言ってもらえると嬉しい。ありがとう」
ルシフェルさんの両手を自身の手で包み込むサンダルフォンをみて心がじんわりと暖かくなる。何せ二千年もの間離れ離れになっていた二人が漸く一緒に過ごせるようになったのだから。めでたし、めでたし──
「なぁなぁ、その願い、もうとっくに叶ってないか?」
劇の終幕でも見ている気分になっていたが、ビィの一言で正気に戻された。
「った、確かに。末永く一緒にいたいってこと?」
「
……そうだな。私の命がいつまで持つか分からないが
……」
そう静かに答えたルシフェルさんに対して、サンダルフォンは息を飲んだ後、肩を掴んで揺さぶる。
「なっ、どういうことですか?ルシフェル様!?」
「コアに異常があるようで、君の隣にいると僅かに痛むのだ。コアの状態を何度も確認したのだが原因が見当たらない。もしかしたらケイオスマターの影響がまだ残っていた可能性も──」
「ちょっと待ったー!!!」
慌ててルシフェルさんをサンダルフォンから引き剥がす。
「ルシフェルさん!そのお話ってこの前聞いた現象の事ですよね?」
「その通りだ」
「なら、大丈夫です!死ぬようなものじゃないですから!」
その言葉にサンダルフォンが飛び付いた。
「団長!何か知っているのか!?」
「知ってるも何も、サンダルフォンにも言ったじゃん」
「何の事だ!身に覚えがないぞ!」
「
……」
ルシフェルさんがサンダルフォンの事気にしてるみたいだとオブラートに包んで伝えたのだが、全く通じていなかったようだ。むしろそのくらいで伝わるなら二千年もすれ違ってなかったかもしれない、と思い直す。今度からもう少し踏み込んで伝えようと反省しつつ、事態の収束に向けて鈍感な団員達に指示することにした。
「団長命令!いまから二人で病の原因について相談すること!いい!?」
「ルシフェル様が御自身で検診なされても原因が見つからなかったのだぞ。何を話せと
……」
「どういう時に痛くなったか一つ一つ状態を細か〜く具体的に説明してもらって!すぐ止めちゃだめだよ。今日いっぱいは相談すること!」
「
……了解した」
サンダルフォンは腑に落ちないとでも言いたそうだったが、無言のまま頷いた。団長である私を信じてくれたのかもしれない。
「どっちかの部屋でやってね!」
そう言うとサンダルフォンはルシフェルさんに声をかけて共同スペースから出ていった。大したことは全くしていないはずなのだが疲れを感じる。大きく伸びした後に呟いた。
「恋のキューピッドのジョブは向いてないかもなぁ」
「「???」」
ルリアとビィは不思議そうに目を瞬かせた。
* * *
次の日の昼過ぎ、仲良く笹に短冊をくくり付けるルシフェルさんとサンダルフォンを見かけた。二人が立ち去った後、彼らが結んだ短冊達をこっそりと確認する。付けられた短冊のうち、折り目が付いている短冊が目に付く。その短冊には昨日見かけた時にはなかった茶色の可愛い羽のスタンプが押されていた。その短冊のすぐ隣には別の短冊があり、こう書かれていた。
『いつまでも共にいられますように』
文字の下には先程とは色違いの白い羽根のスタンプが押されている。
同じ願いを掲げて仲良く寄り添う二つの短冊。それを見て私は暫く想いに馳せるのだった。
終わり
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