えぬを
Public TGM
 

黄金の太陽

rsmv_20260606
周年記念でなにか書きたいと思っていたので、記念日に関するルスマヴェ小話
なんでもない日が二人にとって特別な日でありますように
時々小ネタで呟いてる、隣家の婦人とルマの話です
ちょっと尻切れトンボかも

自宅に駆け込んでくるなり、マーヴェリックが慌てて叫んだ内容にルースターはどこか怪我でもしたのかと釣られて忙しなくそれを探す羽目になった。
「ファーストエイドキット!!」
「え、え!?何!?マーヴ戻ったの?なに、どっか怪我でも……
叫んだ内容が急を要するものだったため、ルースターもセルフォンを手に思わず立ち上がる。
「婦人が怪我を!!」
「え!?」
マーヴェリック曰くのところの〝婦人〟は、ルースターも共に世話になっている隣家の寡婦だ。
ルースターとマーヴェリックは、再会後の紆余曲折を経て、恋人関係となった。異動が叶い、今は同基地に所属している。ルースターはパイロットとして、マーヴェリックは教官職として。
数年を経て、今現在はファミリー層向けの家を借り現在に至るのだが、隣家には一人の老婦人が住んでいた。
同性同士、しかも歳の離れた男性二人が住宅を借りる時にも悶着がないわけではなかったが、隣接する隣の住人との付き合いもまた、ルースターとマーヴェリックには試練だった。
心配事は杞憂に終わり、隣家の老婦人はルースターとマーヴェリックが共にある仔細に言及せず、すでに配偶者を亡くしていた彼女は、〝軍属の頼もしい若人が隣に住むのは安心する〟と歓迎してくれた。
以降、ルースターとマーヴェリックは、婦人と交流を深め、今は祖母か母のごとく慕うまでになっている。つまるところ、年の功には勝てず、婦人の方が人として成熟しており、マーヴェリックでさえも年齢でいえば息子ほどの扱いに至っているのが現状というわけである。
人が決めた法と制度は時折窮屈だ。男女が正規の手順を踏めばまっすぐ進むはずのラインが、ルースターとマーヴェリックでは寄り道せざるを得ない手続きがしばしば。最初はそれを享受して粛々と進めてはいたが、あまりにも高い壁が聳え立つと、正直萎えてくる。気持ちのモチベーションが下がるという問題。そんな時、隣家の婦人は決まってルースターとマーヴェリックをアフタヌーンティーに誘い出してくれた。これも縁だから、と半ば強引に連れ出される小休止は、ルースターとマーヴェリックに再考の機会と休息を与え、また新たな道への目標を掲げられるまでにメンタルが整うこともしばしあった。
そんな風に隣人と交流を深める中、自宅の草刈りついでに隣家の分も請け負っているマーヴェリックが作業に赴き、ルースターはランチの用意をしていた矢先の出来事である。
なにか不測の事態が起きて、婦人が大怪我をしたのかとルースターも焦躁に駆られているところに、のんびりとした声がかかる。
「あらあら、ピートったら。そんな大袈裟なことじゃないでしょう?ブラッドリーが驚いちゃうわよ」
「婦人!」
「ばーちゃん、大丈夫!?え?911呼ぶ?」
ルースターとマーヴェリックの家の入口に佇むのは婦人本人で、見た目からは怪我の様子は窺えなかった。
マーヴェリックは飛んで返すようにファーストエイドキットを抱えていたものの、ソファの角に小指をしこたま打って、『アウチ!』と叫んでいる。ぱっと見どちらが怪我人かわからないほどだ。
「もう、落ち着いて、ボーイズ!薔薇の棘が指に刺さっただけよ!911なんてとんでもない!ブラッドリー、セルフォンを置いてちょうだい。ピート、落ち着いて!」
ルースターの肩から力が抜ける。しかし、マーヴェリックは悶絶しながらも、感染症がどうのこうのと未だ大騒ぎだった。その様子に、婦人は肩をすくめ、穏やかに苦笑した。



一通りの騒動にひと段落をつけた婦人は、詫びにとルースターとマーヴェリックをアフタヌーンティーに誘い、二人は隣家を訪った。件の薔薇の花がテーブルに置かれている。薔薇はもともと婦人の庭に植栽されているものだ。
二十年程前に配偶者から贈られたという薔薇は、八重のオレンジカラーで、庭を色鮮やかに彩っている。婦人曰く四季咲きのため、季節問わず、りんごのような香りが漂い、花木の知識がないルースターやマーヴェリックからしても、目を楽しませている薔薇だった。
「おっちょこちょいね。貴方達の記念日に何かを贈りたいと思って」
庭先の薔薇を摘んでいる内に棘が刺さり、怪我をしたのだという。マーヴェリックはそれを見て驚き、自宅に駆け込んできたのだった。
婦人は手帳を好み、事象を全て書き込んでいる。今日その日、ルースターとマーヴェリックの〝記念日〟を、他人が大切に記帳していることに、ルースターとマーヴェリックは面映い思いを抱いた。法に縛られることなく、ルースターとマーヴェリックが〝共に生きると決めた日〟だ。なんでもない、ただの数字でもある日付は、人によって特別に意味づけられることもある。それが、ルースターとマーヴェリックの中で特別な日であるだけでいい。ただ、雑談として話しただけのそれを、婦人は覚えていてくれたのだった。誰かが自分達の記念日を祝うという気持ちでいてくれること。
「貴方達の記念日を台無しにしちゃったわね」
ルースターとマーヴェリックは慌てて首を横に振る。黙って感慨に浸っていたのであって、黙していたのは決してマイナス感情からではないことを分かってほしかった。
「違うよ、全くそんな風に思ってない!」
「むしろ嬉しい。そんな風に僕達の記念日を覚えていてくれる人がいるだけで」
「うん、マーヴの言うとおりだよ、ばーちゃん」
婦人は二人の勢いに少しだけ驚いた後、安堵したように微笑んだ。
「それに、記念日はこれから先もある。来年もまたその先も」
マーヴェリックの言葉に、ルースターの動きが止まった。その日から永遠を一緒に生きると決めた日を、マーヴェリックが当たり前のように〝次〟があることを言葉で発したからだ。
少しだけ呆然としていると、カップを口に運んでいたマーヴェリックが、ルースターが固まったことに気づいた。気づいて微笑んだ。すぐにカップで口元は隠れてしまったけれど。
溢れた歓喜の気持ちの行き場がなく、ルースターは婦人に目をやってしまう。優しげな眼差しが、ルースターとマーヴェリックを、いつまでも見守っていた。