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えぬを
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rsmv_20260426公開
5575ルスマヴェ(マヴは出てきませんがルスマヴェです)
シングルマンの映画が好きで、好きCPは老後ああいう雰囲気の家に住んでほしいなぁと常々思ってまして
マヴの為にオットマンを探すルスと店主の短文(映画はT・フォードの美と美学が詰まった素晴らしい映画なので未見の方はぜひ)
随分と姿勢がいいな、というのが最初の印象だ。
年齢的には五十代前後だろうか。口髭とブロンドヘアにプラチナが混じるその人は、入口から数歩のところで足を止めると、それを凝視したまま。少しだけ顎に手をあて、思案する様子を見せる。
基本的に客への過干渉はしないのが店のポリシーだった。とはいえ従業員兼経営者のため、店内の接客は自分一人なのだけれど。
「十九世紀ごろのアンティークで、天然革をベルベットに貼り直してあります。直した職人はもうおりませんが、無垢材を使った一点ものでございます」
思わず声をかけてしまった。
ネイビーのベルベットの光沢が美しいオットマンを前に思案するその人が、声がけに振り返る。
「触れても?」
「もちろん。どうぞ」
断りを入れたその客は、高い背を屈めてその表面をなぞった。ベルベットが動きに沿って滑らかに模様を変える。
「これを」
店内に置いてあるアンティークの中では中級といったところだ。男性の身なりと言動から、それなりの地位の人物であることは窺える。もう少し上級のものでも購入は可能だろうけれど、男性は店内に一歩足を踏み入れてから、迷うことなく〝それを〟と所望したのだから、なにがしか心に響くものがあったのだろう。
確かに店内に置いてある品の中では中級程度の品物だが、歴史と職人が関わった経緯から、値以上の価値があると自分は思っている。
男性に近づき、輸送の手続きとクレジットの詳細などを簡単に話し、サインをもらう。
Bで始まり、大天使ミカエルを語源とした姓のサインが記された書類を受け取る。
なんとなく、尋ねる。
「贈り物であれば包装いたしますが」
不意を突かれたようにわずかに男性が目を瞠る。すぐに笑った。目尻に皺が寄れば、途端愛嬌のある顔立ちに変幻した。
「あぁ、結構。ピーティ
……
パートナーは華美なものを贈ると怒るので」
余計な装飾は不要、と脳内メモに記載し、イエスとノーだけの簡単な会話を交わす。
思わず漏れたらしい愛称が、パートナーの名前なのだろう。贈り物であり、それでも装飾を必要としないのであれば、輸送には殊更に気をつけること、とメモに追記した。
オットマンは基本、ソファとの相性から、実際の使い心地や肌触り、高さの確認が必要だ。それさえも必要なく、自分のものでもないオットマンを一目見ただけで購入した男性。それだけ相手のことをよく理解している証左だ。幾つか店舗を回った上で、自分のような小さな店にたどり着いたのだろう。もしかすると、ふらりと立ち寄っただけかもしれない。
アンティークショップを経営していると、往々にして運命的な出会いというものを起こす奇跡に立ち会うことがある。目の前の男性もそうなのだろう。そうだといい。
「
……
左足を痛めてから、少し辛そうにしていたから。素敵な品物と出会えてよかった」
男性が独り言のように言う。
「さようですか」
過剰な返答は求めていないだろう。おおよその到着日を伝えると、男性は礼を述べて店を後にした。入口に下げているベルが退店を知らせる。
それを見送り、ネイビーのオットマンを見下ろす。いずこかの知らぬ誰か──あの男性の、愛する人の足を癒すための、本来の機能を果たすべく、その日を待つそれ。
夕日が鈍く、ベルベットの光沢を美しく彩った。
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