三毛田
2026-07-01 21:46:36
1063文字
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5 【05/今、走り出す】

5日目
思っているより純情な自分

 唇に触れたそれを思い出しては、頭がふわふわする。
 それは事故だった。
 転んだ俺を支えようとした丹恒。それはまあ、いつものこと。
 けれど、それだけで終わらないのがこの街、オクヘイマ。
 たまたまこの街に帰ってきていたサフェル。彼女がいたずらをしたからなのか、それを追いかけていたヒアンシーとトリビー。
 彼女たちが走り回っていて、支えた後ぶつからないようにと避けた。そこまではいい。どうしてか二人してバランスを崩し――後から街の人に聞いたら、バトルズが慌てて通り過ぎたときにぶつかったという――俺は丹恒の上に着地。
 唇が触れ合っていた。
「っ」
「穹!」
 丹恒とキスしてしまった事実に、俺は逃げ出す。
 あの瞬間の俺は、サフェルにも負けていなかったはずだ。
『あの時の相棒、すごく足が速かったよ。多分勝てたのは、サフェルさんだけじゃないかな?』
 とは、食材の目利きをモーディスに教わっていたファイノン談。
「それで。恥ずかしくて逃げてきたということですか」
「アナクサゴラス。動かないでください。正装を作れと言ったのは、あなたですよ」
「わかっています」
 相変わらずアグライアとアナイクスの相性は、よろしくない様子。
 両腕を横に伸ばし、棒立ちの彼に触れないよう布を合わせているのはキャストリス。
 なーんで黄金裔用のピュエロスでこんな事をしているんだろうか。と彼らを眺めていたら、スマホがメッセージが届いたことを伝えてくる。
「丹恒様からですか?」
「まあ、うん。そう。ここに居るって返したから後は平気。多分」
「あなたが思う以上に、彼は心配していますよ」
「見てたな?」
 そして、今も。
 まあ、この都市に金糸の目が届かない場所はほぼないもんな。
「セファリアが原因のようですので、あの娘がまだこの地にいたら叱っておきます」
「無理にとは言わないけど、お願いします」
 頭を下げて、この場を後にする。
 とりあえず、ルトロに戻ると丹恒が落ち着きない様子で立っていて。
「丹恒」
 声をかけたら、安心したように強張っていた表情を和らげ。
「よかった。ここにいたんだな」
「うん。街中走ってきてから、ここに帰って来た」
「お前に怪我がなくてよかった」
 ホッとしたように俺の頬を撫でる。
 んぐぅ。色々爆発しそうで、なんだかいたたまれなくって。丹恒の顔が直視できない。
「穹?」
「ううん。丹恒こそ、怪我はなかったか?」
 俺を受け止めた後、背中から倒れていたし。
「お前よりは頑丈だからな。怪我はない」