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じれ
2026-07-01 05:53:17
4771文字
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Star's birthday
相心の二人に子供がいます。心操くんが気合いと根性で産みました。男でも産めました。(※直接的に男性が妊娠している描写は無いです)そんな世界です、ご注意を。
「にこにこさん、こっちへおいで」
相澤はリビングで熱心に動物図鑑を眺めている我が子に声を掛ける。正真正銘、心操人使と相澤消太の子だ。世の中、不思議なことがあるものだ。
にこにこさん、というのは当たり前だが声を掛けられた子供の本名ではなく愛称である。決して愛想がいいとは言えない相澤と普段は澄ました顔の心操の間から産まれたとは思えないほどに、この子はちょっとしたことで嬉しそうに楽しそうに笑ってくれるので、二人で「にこにこさん」「にこさん」と呼んでは可愛がっているのだ。
「はぁい」
相澤に声を掛けられたにこにこさんは子供特有の甘く高い声で返事をし、図鑑もそのままに小さな足をとてとてと動かしキッチンにいる相澤の元へとやってくる。
「おとーさん、なぁに?」
普段からキッチンは危ないから勝手に入ってはいけないよ、という約束をきちんと守るにこにこさんはキッチンの扉の隙間から可愛らしい顔を覗かせる。その性格の真面目さはやはり親譲りなのだろうか。相澤譲りの黒髪を揺らし、心操譲りの菫色の瞳を輝かせる我が子に相澤の胸もふわりと温かくなる。
「今日はにこにこさんにしてもらいたいことがあります。なので。特別にキッチンに入ることを許可するよ」
「わぁい!なにするのぉ?」
相澤は、自分の周りにこの子を脅かす危険なものがないかを今一度よく確認してからその小さな身体を抱き上げる。
抱き上げられたにこにこさんと相澤の目の前には事前に輪切りにし、ほどよい柔らかさに煮ておいたニンジンがまな板の上に鎮座している。
「ニンニンさん!」
「そう。ニンジンさんだよ。今日はね、にこにこさんにはこのニンジンさんをお星様の形にして欲しいんだ」
「おほしさま?」
「うん。こういうね、お星様の形に出来るひみつ道具を使うんだ」
相澤は我が子を片手に抱きながら、菓子などでよく使われる星型の型を見せる。それは程よく角も丸められた危なくないものだ。
見ていてごらんと、その型をニンジンにぐぅ、と押し当てて型抜きをする。型を持ち上げれば、ぽと、と星型にくり抜かれたニンジンがまな板へと落ちた。
「ニンニンさん、おほしさまになった!」
相澤の腕の中で、すごいすごいと菫色の瞳を煌めかせてぱちぱちと手を叩く姿を動画に撮っておきたいところではあったけれど、さすがに二本しかない腕では難しいところ。相澤はこの様子を後ほど心操にも事細かく話してやろうと心に決める。
「ぎゅってすると、お星様になるんだよ。にこにこさん、出来そうですか?」
「あい!」
気合いたっぷりの返事に、相澤は笑った。
にこにこさんは手洗いをきっちりしっかり行ってから、相澤に用意してもらった踏み台に乗ってせっせとニンジンの型抜きを始める。その間、相澤は万が一にでも我が子が足を踏み外して落ちないよう、背後でその小さく頼りない身体を両太ももでさりげなく挟みながら落下防止に備える。
子供というのは咄嗟にどんな動きをするのか未知数なのは相澤も心操も痛いほどに経験しているのだ。活発な子供から目も手も離してはいけないと二人して胸に何度も刻んでいる。
用意していたニンジンはあっという間に星型とその抜け殻の二つに分かれた。にこにこさんは全ての型抜きが終わった時、「おわったぁ!」と喜びと達成感からか背後にいる相澤の顔を見るために身体を大きくのけぞらせてきた。ぼす、と相澤の鍛えられた腹に身体を思い切り寄せてきたがなんのこともなく身体全体で受け止める。
「こら、危ないだろ。そこは踏み台の上だよ」
「んふふ、おとーさんいるなら、だいじょぶだもん」
にこにこさんはぐりぐりと相澤の腹に頭と背中を当ててくる。別に痛くも痒くもないが普通に危ない。信頼されているのはありがたいが、怪我をしては元も子もない
…
と思うけれど甘えてきてくれるのは正直嬉しいという葛藤が相澤の脳内で駆け巡る。だが、この遊びが癖になったら良くない。相澤は心を鬼にして我が子を踏み台の上から降ろし、自身も腰を落として目線を合わせながら真面目な顔をする。相澤のその表情ににこにこさんも目を見開いた。
「台の上で遊ぶのはダメです。遊びたいならリビングで。お約束してるだろ?」
「
…………
ぁい」
甘えていたところにしっかりと注意されてしまったにこにこさんは下唇をむいっと突き出して不満気な顔を見せる。にこにこさんはあまり癇癪を起こしたりしないし聞き分けがいい。とはいえ、まだまだ子供。だがしかし、あまり感情を押さえつけるようなこともしたくは無い。
相澤はその小さな頭をよしよしと撫でてやりながら、
「怒ったのは、にこにこさんに怪我して欲しく無いからだ。お父さんもパパもね、にこにこさんのことが本当に大切なんだ」
「
………………
ん」
にこにこさんは返事をしながらもまだ下唇を尖らせている。だが、その小さくて柔らかそうな唇をもにょ
…
と動かしながら何かを一生懸命に考えてもいるようで相澤は急かすことなく頭を撫でてやりながらその様子を見守る。
「
…………
おふざけして、ごえんなさい
……
。おとーさん、あっちのおへやで、またぐりぐりしてい?」
しょもしょもと眉を下げ、菫色の瞳をじわりと潤ませ不安そうに見上げてくる我が子の様子があまりにも愛おしいと、相澤は心から思う。
「もちろんいいよ」
ちゃんとごめんなさいができて偉いね、とその小さな身体を優しく抱き締めてやる。応えるようにその小さな手は相澤の服を皺が出来てしまうのでは無いというくらいに強く握りしめた。相澤はポンポンと小さな背中を優しく叩き、落ち着いた頃を見計らってひょいと抱き上げてやる。暫くそうしてやればにこにこさんのご機嫌は少し戻ってきたようだ。
それを見定めた相澤はにこにこさんを腕に抱きながら、先ほどまでその幼い手で熱心に型抜きされたニンジンに目を向ける。まな板の上に散らばるオレンジの星々。
「さて、にこにこさん、見てご覧。お星様をたくさんできたね、本当にありがとう」
「っ、うん!おとーさん、おほしさま、どぉするの?」
にこにこさんは、先ほどまでのもやもやとした曇った顔をパァッと、それはまるで太陽のような明るい笑みに変えてくれた。
「これはね。実は今日の夜ご飯に出すんだよ。にこにこさんも大好きなカレーの上にお星様が乗せるんだ」
「かれーさんのうえにおほしさま?」
「そう。今日は人使も早く帰って来るからね。三人でカレーを食べよう。その時に、にこにこさんには人使のカレーの上にお星様を乗せて欲しいな」
「やる!おほしさまのっける!ぱぱとおとーさんとごはん!」
相澤の提案と心操が帰ってくるという知らせに、にこにこさんは思わず、きゃあ!と相澤の腕の中で声を上げるほどに喜ぶ。にこにこさんは相澤はもちろん、心操のことも大好きである。
脂の乗った現役ヒーローとして国内外問わずあらゆる場所を駆け回る心操はそれなりに忙しい身だ。家を空けることも多いため、三人揃っての食事はにこにこさんにとっても嬉しいことの一つだし、相澤も口には出さずとも同じように嬉しい。
「それにね、にこにこさん。嬉しいお知らせがもう一個あるよ」
「なぁにー?」
相澤はニヤリと笑いながらお知らせを耳打ちすれば、にこにこさんは今日一番の笑顔を見せた。
◻︎
「ぱぁぱ!おかーり!」
「ただい、ぅわっと。はは、にこさん元気なお出迎えありがとう」
心操が帰宅しリビングへと足を踏み入れた瞬間に小さな身体は勢いよくジャンプをして心操の胸へと飛び込んできた。その身体能力の高さは一体どちら譲りなのだろうか。
飛び込んできた小さな身体を難なく受け止め、むぎゅっと柔く抱きしめればお返しと言わんばかりにぎゅうぎゅうと抱き付いてくるその仕草が可愛らしい。さらに抱き寄せようとしたとき、にこにこさんは「あっ!」と声を上げたものだから心操は何事だろうと首を傾げる。
「ぱぱ!あのね!おたじょび、おめでと!」
にこにこさんは満面の笑みを心操に向けながらそう祝いの言葉を贈る。
「わぁ、ありがとう。消太さんが言ってたの?」
「うん!きょーは、ぱぱのおたじょびだから、かれーさんもあるし、けーきさんも!ありまぁす!それでね、かれーさんには、」
「にこにこさん、カレーさんは食べる時に見てもらおうな。人使。おかえり」
「!!うんっ」
「へぇ、楽しみだなぁ。消太さん、ただいまです」
夕食の準備をしていた相澤は興奮気味に話すにこにこさんをやんわりと静止しながら心操を出迎える。カレーの件は食べる直前まで秘密にしようと二人でこっそり約束したのだ。
「カレーがどうしたんですか?」
「ま、いいから。着替えてこいよ。夕飯にしよう」
相澤は心操からにこにこさんを預かり着替えを促す。心操は頭にハテナを浮かべながらも素直に着替えと向かった。
心操の背中を見送った二人はくすくすと笑いながらキッチンへ。
「よし、じゃあカレーの仕上げ一緒にしようか」
「おほしさま、のっけする!」
心操用に山盛りに盛った白いご飯の上にはたっぷりのカレーを。星の形に抜かれたニンジンはにこにこさんの手でたくさん散りばめられた。もちろんくり抜かれた惜しくも星の姿になれなかったニンジンの余りは細かく刻んでじっくり煮込んであるので無駄は何一つない。合理的である、と相澤は一人ほくそ笑む。
ちょうど着替え終わって部屋から出てきた本日の主役である心操を先にテーブルに座らせる。どうしてもカレーを持って行きたいというにこにこさんの要望に応えるため、相澤は取手付きのお盆にカレーを乗せてやる。多少重そうではあるが手出しはせずに慎重にゆっくり歩を進める姿を相澤も心操も息を呑みながら見守りえっちらおっちらと時間を掛けながらもテーブルまで辿り着くのを見届ける。満面の笑みでお盆をグイと心操へと渡す姿はなんと健気なことか。
「ぱぱ、おほしさまかれぇ!どぉぞ!」
「ありがとう。うわぁ、すごいね。カレーにお星様がたくさんだ」
「おとーさんといっしょにね、つくったの!」
ふふん、と得意げに胸を張りながらあーしてこーしてと昼間に相澤と行った作業を動作を交えながら楽しそうに振り返る。心操はうんうんと楽しそうに聴き、時折相澤に目配せをしては微笑むを繰り返していた。
「にこにこさんの特製カレーだ。冷めないうちに食べよう」
相澤は自分用とにこにこさん用(子供向けにこっそり別で作られたものだ)をテーブルに置き、にこにこさんを相澤の隣の椅子へと座らせる。そして自分のカレーを目にしたにこにこさんは、「あっ」と声を上げた。
「おほしさま、のってる!ぱぱとおそよい!」
「そうだよ。頑張ってくれたにこにこさんのところにもお星様をお裾分け」
にこにこさんは予想していなかった自分のニンジンの星に喜びつつも相澤のカレーには星が一つも乗っていないことに気づいた。サッとスプーンを手に取り、自分の星を一つ乗せてよいしょと相澤のカレーにも乗せた。
「おとーさんだってがんばってたもん!おほしさま、いっこあげる」
「
……
そうか、ありがとう」
その時、相澤の瞳が潤んだように見えたが心操は見ないふりをしてやることにする。
「にこさんのおかげで家族みんな、お星様でいっぱいになったね」
「うん!ぱぱ、おたじょび、うれし?」
「もちろん。とーっても嬉しいよ」
心操が笑いかければにこにこさんもにっこりと可愛らしく笑い、相澤もそれを見て思わず口元がにやけてしまう。
「よし。じゃあ、冷めないうちに食べよう。二人とも、手を合わせて」
「「「いただきます」」」
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