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真九龍
2026-06-30 19:45:38
7500文字
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小説
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【ナル雷】繋ギ、結ビ、繋ガリ。
平行世界─昭倭─のナルミ×雷堂で、雷堂が悪魔との戦闘で重傷を負ってしまう御噺です。
注1:(一応)両想いなナル雷になっております。
注2:ライドウremaster版をプレイ済み及びクリア済み。
注3:流血表現が含まれます。
注4:大正二十年軸の鳴海×ライドウの要素も含まれます。
「また、傷が増えたみたいですね」
──ああ、そうだな。
「傷が増えると、貴方の世界のナルミさんが心配しませんか?」
──
……
あいつは俺が傷を負って帰ってきても、「また派手に怪我を負ったな」と、ただへらへら笑っているだけだからな
……
よく分からん。
「
……
僕は、とても心配してると思います」
──
……
何故そう思うのだ?
「ナルミさんにとって、貴方は大切な人だから
……
喪いたくないから
……
」
帰宅すれば「おかえり」と声を掛け
怪我をすれば「まぁ~た派手にやりやがって」と呆れながら手当てをし
「雷堂が足りないぞーッ!」と叫びながら抱き付いてきたり
何となく想いが通じ合ってからはナルミの朝帰りと泥酔する頻度が減少したり
──
……
まるで、彼奴と俺が関係を持っているような言い回しだな。
「貴方は僕で在り、僕は貴方だから
……
」
──
……
憶測は程々にしておけ。俺と彼奴は、そんな関係ではない
……
帝都の守護者たる十四代目葛葉雷堂と、其の監査役に過ぎん。
「
……
頬が少し紅くなっているようにも見えますが」
──
……
!貴様の気の所為だろう。ほら、とっとと大学芋を食って元の世界へ帰れ。貴様のところの鳴海が心配しておるぞ。
大正二十年の帝都から昭倭の帝都に来たもう一人の自分、則ち、葛葉ライドウと接触して以降、時折会っては他愛の無い話をしている。互いの好物である、蜜がたっぷりの大学芋を頬張って。そして、ライドウは会う度に、自分の傷がまた増えたと指摘し、悲しい表情を浮かべる。傷は男の勲章だと流しても、彼は常に自分の身をもっと労わってほしいと訴え続けている。
ライドウの言葉の節々から、大正の鳴海と大正の彼は深い絆で結ばれているのが良く分かる。彼方の世界の鳴海は、ライドウを気に掛けているようだ。己自身で言うのもこっぱずかしいのだが、深く愛しているようだな。
自分の世界のナルミはどうかと問われると──、ナルミのことは嫌いではない、寧ろ好いている。ライドウの言葉は、正に図星を突かれたようなもの。
ライドウは雷堂で在り、雷堂はライドウ。
そっけない態度ではぐらかし、受け流したとしても、自分がナルミを想っていることなどお見通しなのだろう。
ただの監査役に過ぎぬ男に、信頼の証と慕情が芽生えた。想定外の感情に、最初は戸惑った。十四代目葛葉雷堂にとって、絶対に許されない禁忌を犯した様なもの。だが、ナルミと同じ時間を共有していくうちに感化したのか、最早どうでもいいことになった。
──
……
ナルミの傍に居たい。
或る新月の夜、手当てを終えたナルミの前でぽつりと呟いた時、あの男は柔らかく微笑みながら自分を抱き締めた。
──お前の本音を初めて聞けて、俺はとても嬉しいよ。好きだよ、雷堂。
ナルミの告白に、顔がかっと紅くなった。けど、ナルミを突き飛ばすことは出来なかった。理由は単純、好いてしまったから。
互いの想いは通じ合い、ナルミと雷堂は愛しき想い人の関係へ昇華した。しかし、自分自身を全く以って労わらない戦法は相変わらず続き、怪我を負って帰宅してはナルミを呆れさせた。
──ご自身を労わって下さい
……
ナルミさんは、とても心配していると思います──
──もっと自分を労われよ、雷堂
……
俺だってなぁ
……
──
ライドウの言葉と、ナルミの途切れた台詞が脳裏を過ぎった刻、雷堂は目を覚ました。
「──
……
?──
……
!!
……
うッ
……
」
身体を起こそうとした瞬間、全身の倦怠感と痛みが、目覚めたばかりの雷堂を襲った。
(
……
──俺は、”喰らい過ぎて”特異化した悪魔と戦って
……
──)
蘇る記憶。
ヤタガラスより直に依頼、否、命令を下された雷堂は愛しき想い人から「絶対此処に帰って来いよ」と励まされ──煙草の香りが強烈な深い口付けもされて──、向かった先は晴海町の異界。其処に巣食っていたのは、特異化した中位の悪魔だった。喰らい過ぎた結果、最早原型すら留めぬ悪魔は何れ現世へ飛び出し、帝都に甚大な被害を齎すだろう。デビルサマナーであり、帝都の守護者たる十四代目葛葉雷堂の使命は、此の悪魔を討つこと。雷堂は退魔の刀を掲げ、信頼する仲魔を召喚し、特異化した悪魔に立ち向かう。
(特異化した悪魔は、高位と同等の力を得ていた
……
容赦のない熾烈な攻撃は、俺の体力と体内MAGを激しく消耗させ、長期戦に持ち込まれてしまった
……
傷薬の類も、底を尽きる程に
……
)
だが、次第に窮地へ追い込まれていく。長期化すればするほど、雷堂にとって不利な状況へ。討伐対象たる悪魔に、手加減と言う文字は無い。目の前に映る生き物を──自分を、喰らおうとするだけ。やがて、悪魔の自我は徐々に消滅し、本能の赴くままに暴走するモノへ変貌した。
悪魔は雷堂の身体を徹底的に痛め付け、遂には致命傷とも言える傷を負わせた。焼けるような激痛と共に、傷口から鮮血がドクドクと流れ出て行く。眩暈、吐き気、頭痛、動悸。途轍もない身体異常が雷堂に圧し掛かり、其の場で蹲ってしまう。
俺は此処で死ぬかもしれない
……
彼奴の許へ帰れぬまま、此処で殉ずるのか
……
?
否
……
こんなところで殉じて、死んでたまるか──!!
帝都を守護する為ならば、何時でも殉じて構わない。
けど、其れは昔の想い。
今は、ナルミと共に在りたい。
ナルミへの想いが、雷堂を奮い立たせる。
雷堂は最後の力を振り絞り、体内に残るMAGと、仲魔のMAGを退魔の刀に全て集約させ、悪魔に一撃を突き刺す。狙うのは、自身が付けた裂傷唯一点。傷が修復されぬまま残っている、つまり、再生能力が機能していないということ。例え劣勢であっても、雷堂と仲魔は攻撃の手を決して緩めなかった成果があの傷口だ。
情熱──スピリット──を、燃やせ
……
!!
雷堂の全てを掛けた一撃が命中した時、悪魔は高い断末魔を上げながら消滅した。
(現世への出口を何とか見つけて脱出したが
……
俺に動く力は、彼奴の許に帰る気力は、もう残されていなかった
……
)
晴海町郊外の森の中で、雷堂はとうとう力尽き倒れてしまう。業徒が「しっかりしろ」と叱咤する最中、其処へ駆け付けてきたのは、晴海町を拠点とする帝国海軍の兵士達と、海軍秘密将校の河野定吉。彼等は晴海町付近に極めて危険な悪魔が潜伏中という情報を既知しており、警戒態勢を敷いていたのである。
重傷の雷堂を発見した定吉は彼を担架に乗せ、海軍省の医務室まで運んだ。ベッドに横たわらせ、軍医と直ちに処置を施すべく、先ずは服を取り払わねばと手を伸ばした。
──ナルミ以外の人間に処置を施されるのは
……
ナルミ以外の人間に、俺の身体に触れられるのは
……
嫌だ
……
!──
「俺の身体に触るなッ!!」
瞬間、雷堂は上体を起こし、服を剥ごうとする定吉と軍医の手を払い除け、鋭い眼で睨み付けた。
其れ即ち、処置の──、治療の拒絶反応。
定吉が「適切な処置を早急に施さないと、君は死んでしまうぞ」と狼狽えながら叫ぶも、雷堂は首を横に振り、最新の医療術を持つ海軍の処置を頑なに拒否した。自分の言動と行動は、明らかに気が狂っていると捉えられているに違いない。命の危機に瀕している筈なのに、治療を拒むとはなんて可笑しな奴なのだ、と。
「俺は、
……
ッ、貴様等からの施しを一切受けぬッ!ナルミを此処に呼べッ!!」
動揺の色を隠せない定吉と軍医に向かって、雷堂は呼吸を荒げながら怒号を飛ばす。
ナルミ、ナルミ、ナルミ──。
ナルミじゃないと、嫌だ──。
彼奴以外の男に、触れられたくない──。
己が此処まで心変わりするとは、ナルミに心を許してしまうとは、ナルミ以外に触れられることを拒絶するとは。
非常に危険な状態にも関わらず、雷堂は海軍の最新医療術による治療を拒否し、ナルミを呼べと名指し続けた。雷堂を必死に説いていた定吉だが、此のままでは鼬ごっこで時間の無駄だと判断し、一旦退室する。元陸軍秘密将校の肩書を持つナルミに──鳴海探偵社に連絡する為に。探偵社に電話を掛けると、どうしたことか、一向に出る気配が無い。ナルミは雷堂の帰りを待っているのではないのか。定吉は苛立ちを募らせ、元同業の男が受話器を取る瞬間を待ち構えていたが、残念ながら時間切れを起こす。もう暫く経った後、再度掛けるしかない。此処は一先ず嘘を付き、雷堂を誤魔化すしかないだろう。
ナルミが今此方に向かっている旨──嘘──を雷堂に伝えると、彼は静かに頷き、膝を抱えて蹲る。身体と握り締めた拳を震わせ、時折呻き声を出し、か細い声でナルミの名を呼んでいる。其の間にも、ベッドのシーツに血液がじわりじわりと広がり、紅く染まっていく。本当に何もしなくていいのだろうか、もしも、雷堂の生命が絶えてしまったら──。ナルミと連絡が取れず仕舞いの定吉と軍医は、気が気ではない。
「ナルミ、早く
……
」
発熱していく身体、止まない激痛、血液の匂い。
「
……
雷堂よ。せめて鎮痛薬を飲むか、傷の縫合だけでも」
「
……
嫌だ」
「
……
そうか。なら、我はもう何も言わぬ
……
」
自身の身を案じる業徒の言葉にも、雷堂は耳を貸さなかった。業徒は「此の頑固者め
……
」と、落ち込んだような台詞を付け足し、紅き満月輝く窓の向こうに視線を送る。
(
……
十四代目が変わってしまったのは、我が儘になったのは貴様の所為だぞ
……
尽きてしまう前に早う来い、恋泥棒め
……
)
あの雷堂を射抜いた恋泥棒に、業徒は心中暴言を吐く。
どれだけ時間が経過したのか、其れは、誰も時計を確認しておらず分からない。いや、余計焦ってしまう故に、敢えて確認しないようにしているのかもしれない。医務室内は雷堂の荒く乱れた息遣いと、定吉と軍医が大丈夫なのかと不安げな様子で話す声が漂う中、ドア激しく叩く音が響き渡り、海軍兵士二名と共に誰かが入室する。激痛と失血に因って、意識が愈々朦朧としていた雷堂だが、長い刻の中で覚えた愛しき想い人の──煙草の香りと気配を察知し、ゆっくりと顔を上げると、
「
……
!やっと来たか
……
ナルミ
……
──」
「
……
ったくよぉ、随分と無茶しやがって
……
ホンットに自分を労わらねぇ奴だな
……
──」
ずっと待ち焦がれたナルミが、漸く到着した。
彼の表情は何時もの如く呆れ顔を浮かべていたが、焦燥の色も滲み出ている。
来るのが遅いわ、此の大馬鹿者──。
悪口を叩こうとしたが、声に出せなかった。何故ならば、ナルミを視認し、彼の声音を聞いた瞬間、安堵し、緊張の糸が急激に切れたからだ。ナルミが到着するまで、絶対に気を抜くべからずと必死に堪えていた雷堂だが、とうとう意識を失ってしまったのであった。
室内を見渡すと、先ず視界に入ったのは、吊り下がった輸液瓶と、左腕まで伸びている長いゴム製の管。左腕の血管に注射針を刺し、薬液を直接流し込んでいるようだ。そして、サイドテーブルに設置されたランタンを灯し、何やら分厚い本──外国の医療書だろうか──を読みながら椅子に腰掛ける人物を両眼に捉えた時、其の人物は雷堂の視線に気付いた様子で、本を閉じた。
「雷堂
……
どうやら、お目覚めみてぇだな」
「──ナルミ
……
」
二人の視線は互いの姿を映し、互いの名を呼ぶ。雷堂の両眼に映るナルミは、相変わらず呆れた表情を自身に向けて、しかし、眼の奥は憤怒が揺らめいている。更に、ナルミの向こう側──ドア付近で軍帽を目深く被る定吉の姿を視認した時、後悔の念がじわじわと押し寄せてきた。
(ナルミが怒っている
……
いや、怒って当然だ
……
俺は、ナルミが嫌う自分を労わらない戦法を再び起こし、深手を負った
……
虫の息の俺を見つけ、此処まで運んでくれた定吉殿達に対し、強く当たって、我が儘なことを言い散らかして
……
多大な迷惑を掛けてしまった
……
──)
「
……
御免なさい」
震える声で絞り出したのは、謝罪の言葉。今の自分は、きっと泣きそうな表情をしているに違いない。
(俺を、見ないでくれ
……
──)
だが、左腕は輸液で固定され、右腕は長時間刀を握り振い続けた影響で骨まで及んでいるのか、少し動かそうとしただけで痛みが迸る。故に、情けない顔を覆い隠すことが叶わず、二人の秘密将校──うち一名は元の肩書ではあるが──に醜態を晒す。
「君が意識を無事取り戻し、其の言葉をしかと聞いた私は此れで失礼するよ。ああ、そうだった
……
私と軍医は君の治療に”一切関わっていない”ことだけは、伝えておこう」
「
……
!」
医務室から退室していく定吉の返答に、雷堂は目を大きく見開く。
「
……
不本意ではあるが、我も一旦退出するぞ」
見計らったかのように、業徒はやや不満げな台詞を吐きながら定吉と共に退室する。医務室内には、ナルミと雷堂のみ。笑っているようで笑っていない表情を向けるナルミに、雷堂は堪らず首を反対に逸らす。気まずい沈黙の空気が流れる最中、ナルミは椅子から重い腰を上げ、雷堂が横たわるベッド傍に膝を着き、ニコニコしながら頬杖を着く。
「無茶するな、て、あんだけ念を押したのによ
……
悪魔との戦いで大怪我を負って、しかも、俺以外に触れられるのが嫌だとお医者さんの前で駄々を捏ねまくって、海軍の最新医療に由る治療を拒否して、生死の狭間を丸一日彷徨い続けた帝都の守護者十四代目葛葉雷堂こと超絶我が儘の大馬鹿小僧は何処のどいつだ?ん?」
「
……
ッ
……
──俺、です
……
」
ナルミの圧、もとい、辛辣な言葉の槍が、雷堂の精神にグサグサと突き刺さる。心身共に弱り果て、脆くなっている今の雷堂に、ナルミの言葉は本気で痛い。自覚が大いに有る故に、素直に答えるしかなかった。彼らしからぬ敬語で。
「お前のお望み通り、定吉と軍医が手伝わせろと騒いでも、俺以外の男は絶対触れるんじゃねぇッ!て怒鳴りながら手当てをしたんだぞ?膨大な時間を掛けてな
……
──本当に、間に合って良かったよ。滅茶苦茶半信半疑だったけど、あの子はお前の危機を感じたんだろう
……
なんせ、お前はあの子で在り、あの子はお前みたいなものだからな」
「
……
お前は、あの子
……
あの子は──
……
!」
憤怒と辛辣混じりの声色は、柔和で穏やかな音に変化する。そして、ナルミが口にした不思議な言葉に、雷堂は直ぐに察した。恐る恐ると視線を戻すと、其処には何時もの柔らかな笑みを浮かべるナルミの顔が映った。
「気付いたか?姿を見せる事は無かったけど、あの声は間違いなくもう一人のお前だと思っている」
(
……
──ライドウ)
お前はあの子で在り、あの子はお前──雷堂はライドウで在り、ライドウは雷堂。
もう一人の自分に出会ったとナルミに話した時、「自分達と同じか似たような世界が有っても何ら可笑しなことはない」と豪快に笑い、否定をせずあっさり受け入れていた。此の男の懐が意外にも広ったことに驚きを隠せなかったのは言うまでもない。
──貴方の大切な人が深手を負い、命の危機に瀕しています。手遅れになる前に急いで下さい、お願いします
……
!──
「
……
余計な真似をしおって
……
」
もう一人の自分こと葛葉ライドウの介入に由り、自分の命とナルミとの繋がりは絶たれることなく現世に留まった。先に礼ではなく、つい文句が出てしまったのは、頑固な部分が未だ残っている影響か。
「命の恩人に文句を言うんじゃありませ~ん。あの子が伝えに来なかったら、治療を拒んだお前は本当にお陀仏だったんだぞ
……
?
…………
なあ、雷堂
……
今の俺はな──、お前を喪う事を何よりも恐れているんだ
……
自分の我が儘の所為で、命に直結する言動と行動は控えろよ?」
ナルミは苦笑しながら、雷堂の頬を愛おしく撫でる。
ああ、此の言葉はまごうこと無きナルミの本音だ。
「
……
肝に、銘じておこう」
自身を労われとずっと忠告し続けていたナルミの台詞を、漸く理解出来たような気がした。無茶な戦法は、相手の悪魔次第では今後も取ってしまうだろう。しかし、無茶をしない──ナルミを心配させることのない戦法を練ることもまた、帝都の守護者としての使命なのかもしれない。
「あの子と会う予定は有るんだろ?俺の代わりに伝えておいてくれよ。”君のお陰で俺の愛しき想い人を、無事助けることが出来た”、てな」
「
……
ああ、伝えておこう」
雷堂は頬をほんのりと紅く染め、ナルミの言付けを預かる。
そんな二人の会話を、ドア越しから盗み聞きする者が居た。
「本当に存在するのだな
……
我々と同じ、もう一つの世界が──」
海軍省は医務室に到着したナルミは直ちに処置を開始し、絶対に邪魔するなと鬼気迫る勢いで釘を刺し、定吉と軍医の手を拒んだ。全ての処置が終了後も、雷堂の傍を片時も離れず、不眠不休──但し、食事や手水といった人としての必要最低限の休憩は取っていた──で見守り、ガーゼに血液が滲んできたら傷口を適宜消毒し、交換していた。
表向きは探偵と探偵見習いの関係、其の正体は帝都の守護者と監査役であり元陸軍秘密将校。の筈だが、二人の言動から、一線を超えてしまったのではないか、と疑るも、自分の推測はどうやら間違いでは無いらしい。
ではどうするのか。
答えは一つ、何もせず静観に徹すること。
現役海軍秘密将校は軍帽を眼深く被り、医務室前から静かに立ち去る。
こそこそ裏話
・ナルミは雷堂を”重い使命を背負っているが、まだまだ未熟な十七歳の少年”として、彼を守るべき存在として大切に想っています。
・雷堂の十七歳という年相応で反抗的な面はこんな感じかな~?と妄想するのが楽しかったです。ナルミの事が好き過ぎる故に他の男に触れられることを盛大に拒む雷堂の姿を書きたかったとも
……
・今回の御噺は、初めて投稿した鳴海流治療術がベースになっています。実は瀕死の重傷Verもメモしてあったのですが、中々着手出来ず月日が流れ
……
ライドウ(鳴ライとナル雷)に沼って一年になろうとした頃、メモから御話に漸く昇格です。
・因みに、手水(ちょうず)=トイレです。調べたところ、大正時代は「トイレに行く」ことを「手水に行く」と暗喩していたそうです。
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