第42回お題「共犯」

駆け落ち風味の赤安。赤→安。
仲間に追われるれいくんと、一緒に逃亡しようとするあかいさんのお話です。
※捏造あり

 ある日突然、降谷は警察から追われる立場になっていた。

 降谷が愛車で家に帰る途中、スマホが鳴った。見知らぬ番号からだ。妙な胸騒ぎがして、降谷はすぐに電話に出た。
 イヤホンから聞こえてくる声は、風見のものだった。
「降谷さん! 家には帰らず、すぐに逃げてください!」
 ただそれだけを言って、風見は電話を切った。
 降谷はすぐにハンドルを切り、家とは反対方向に走った。
 そのとき、自分を追いかけてきている車が、複数台いることに気がついた。
 しかも自分を追っているのは、おそらく仲間――警察関係者だ。自宅もすでに包囲されているのだろう。
 自分の帰る場所はもう、なくなってしまったということか。
 降谷は苦笑しながら、愛車の速度を上げた。

 追手を撒いたあと、降谷は路地裏にあるホテルに飛び込んだ。
 複数あるうちの偽名をひとつ使って、宿泊の手続きをする。
 部屋に入り、すぐにノートパソコンを開いた。警察のデータベースにアクセスすると、自分のIDではログインできなくなっている。完全に、自分は警察という組織から排除されているということだろう。
 この状態で、自分が今置かれている状況を把握するためにはどうすべきか。降谷は思考を巡らせる。
 いずれこの場所も特定されるに違いない。あまり長く滞在することはできないだろう。
 海外へ逃げるのはおそらく不可能だ。空港はすでに包囲網が敷かれているだろう。しばらくは日本国内の中で、姿をくらますしかない。
 喉の渇きを覚えて、冷蔵庫に向かおうとしたとき、スマホが鳴った。ショートメッセージの受信を知らせる音だ。
 画面には、「迎えに行く」のメッセージ。送り主は、味方か。敵か。
 コンコン、とドアを叩く音がする。降谷は拳銃を持って、ドアに近づいた。覗き穴に目を寄せた瞬間、思わず拳銃を落としそうになる。
 ドアの向こうから、「俺だ」と小さな声が聞こえた。声の主は、自分がドアのすぐ近くにいることに気づいているのだろう。
 男は続けて言った。
「五秒以内に開かなければ、拳銃でこのドアを撃ち抜く」
 こんなところで銃声が鳴り響けば、たちまち騒ぎになり、自分の居場所を瞬く間に特定されてしまうだろう。
 思案している間もなく、降谷は急いでドアを開いた。ドアの向こうにいた男は、すかさずドアの隙間に足を差し込み、遠慮なく部屋へと入って来る。
 もし目の前の男が敵であれば、このまま拘束されてしまうだろう。もし味方だとすれば――
「いったい僕に何の用ですか、赤井!」
 降谷が睨み上げると、目の前にいる男――赤井秀一は真剣な目をしてこう言った。
「君を攫いに来た」
 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。
……はい?」
「追われているんだろう?」
「どうしてそれを……
 赤井が知っているということは、FBI内でも広がっている情報ということなのだろうか。
 なぜ自分が追われることになっているのか、赤井ならば知っているのかもしれない。
 しかしそれを問う時間も、今の自分には残されていないようだった。
「話は後だ。もう間もなく、ここにも追手が来る」
 想像していた以上に、居場所を特定される時間が早い。
 日本警察だけで、ここまで素早く動けるとは思えない。まさか、FBIも協力関係にあるのか。
 その情報を自分に漏らすということは、赤井は自身の組織を裏切ったに等しい。
「まさかとは思いますが、あなた……FBIを裏切るつもりなんですか?」
「そのつもりだが」
 さも当たり前だといわんばかりの表情で、赤井は言う。
 今の自分は、警察に追われる身だ。そのような人間を助けることが何を意味するのか、赤井が理解していないはずがない。
 すべてを理解したうえで、手を貸そうとしているのだろう。だが、赤井にそこまでして助けてもらう理由が、自分にはない。
「今の僕は追われているんですよ! そんな人間に味方したら、あなたの立場もどうなるか――絶対に後悔します」
 声が震えているのを自覚しながらも、降谷は必死に赤井に訴えた。
 自分のせいで、赤井の人生を壊してしまうかもしれない。その恐怖が、重く降谷に圧しかかる。
 しかし、まるで降谷の不安や心配を吹き飛ばすように、赤井はフッと微笑んだ。
「立場より何より、護りたいものが俺にはある。ただそれだけのことだ」
……どういう、ことですか」
 赤井の言っていることが理解できず、降谷は固まってしまう。
 まったく心当たりがない。
 まさかとは思うが、赤井が“護りたい”と言っているのは、自分のことなのだろうか。
 ――何か、とんでもない方向へ話が進み始めているような気がする。
 赤井が静かに、一歩踏み出した。
 赤井の左手が、自分の右手を掴む。抵抗する間もなく、ぐいと強く引き寄せられた。
「ただの逃走劇では面白くないな――俺と駆け落ちしないか、降谷零君」