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2026-06-28 20:59:38
2932文字
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宰相ではなく、外務卿となったフェルくんが、ヒューくんと婚姻を結ぶ話(ヒュフェ※未完です)

これはフェルくん視点の話です。ヒューくん視点になると、本当にまったく違う話になると思います。
描くかどうかもまだ決めていないので、今回はプロット程度で。
あと、かなり独自解釈強めです。

  ある日の茶会で、ヒューベルトは不意に小ぶりな指輪箱を卓上へ置く。

  「フェルディナント殿。どうか私と、婚姻を結んでいただけませんか」

  一瞬、フェルディナントは言葉を失う。

  目の前のヒューベルトは、あまりにも落ち着いている。
  その姿を見た瞬間、これは愛の告白ではなく、外務卿となった自分がエーデルガルトにとって代えの利かない存在だからこその提案なのだと、フェルディナントは半ば反射的に理解する。
  婚姻を結べば、自分はこのフォドラを完全に離れることが難しくなる。

  本当は、「契約などなくても、自分はここを去るつもりはない」と伝えたかった。

  だが、無意識のうちに少し困ったような表情を浮かべてしまったからだろうか。
  ヒューベルトはその反応をためらいと受け取ったのか、婚姻によって得られる利点を、一つずつ静かに説明し始める。
  どれも抜け目なく整理されていて、そのあまりの周到さに、フェルディナントは執務室で一人頭を悩ませながら資料をまとめるヒューベルトの姿まで思い浮かべてしまう。

  ……きっと、すべてはエーデルガルトのためだ。
  主のことしか頭にない、欲のない男らしい。

  そう思い、フェルディナントは静かに頷く。



  式は簡素なものだった。

  参列したのは皇帝と先生、それに数名の同級生、そして式に先立って互いに紹介を済ませていた両家の親族。
  あとは、立ち会いに必要な証人が数名いるだけ。

  長い儀式もなければ、盛大な祝宴もない。
  そこにあるのは、何度も内容を確認し合った婚姻文書と、指輪を交換する際の短い沈黙だけで、署名の瞬間に見せる二人の表情は、日常の公文書を処理する時とほとんど変わらない


  「これから先も、よろしくお願いいたします」

  ふいにそう口にしたヒューベルトは、意外なほど穏やかな表情を浮かべ、その頬にはかすかな紅が差している。
  その姿を見て、フェルディナントは最初の茶会を思い出す。あの時もヒューベルトは必死に平静を装いながら、それでも頬だけは正直に赤く染まっていた。
  きっと今の自分も、あの日からは同じように見えているのだろう。

  「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」
  フェルディナントは穏やかに応じる。



  婚姻を結んだあとも、二人の日常はほとんど変わらない。

  茶会は変わらず開かれ、政治的な判断や戦略の優先順位、あるいは些細な案件を巡って激しく意見を戦わせることも少なくない。
  それでも最後には必ず同じ卓へ戻り、互いの考えをすり合わせ、二人とも納得できる結論へと落ち着いていく。

  変わったことがあるとすれば、一つだけ。
  同じ部屋へ帰るようになったこと。

  部屋には婚姻を機に新しい家具がいくつも増える。以前より広い本棚、二人分の衣装箪笥、新しい寝台、それに並んで書類を広げられる長机。
  どれもフェルディナントの好みを最優先に選ばれ、一つひとつ本人の了承を得たうえで運び込まれたものばかりだった。

  それらを眺めながら、フェルディナントは時折尋ねる。

  「君自身が欲しいものはないのかね?」

  するとヒューベルトは満ち足りたように部屋を見回し、穏やかな口調で答える。

  「住環境に特別なこだわりはありません。これからはここがフェルディナント殿のお住まいでもありますから、フェルディナント殿のお好みに合わせるのが自然です」

  そんなやり取りを二度、三度と繰り返しても、返ってくる言葉は変わらない。
  やがてフェルディナントも、その問いを口にすることはなくなる。


  夜になると、フェルディナントは机へ向かい、その日に残った外交文書へ目を通し続ける。
  一方でヒューベルトが戻るのは、フェルディナントが眠りについたあとであることが多い。

  フェルディナントが残しておいた小さな灯りだけを頼りに、音を立てぬよう扉を開ける。

  寝台がわずかに沈み、半ば夢の中にいるフェルディナントは、背後からそっと抱き寄せられる温もりでその帰宅を知る。

  「……ヒューベルト?」

  「はい」

  それだけ。ほどなくして部屋は再び静寂へ包まれる。

  翌朝になれば、昨夜の出来事など最初から存在しなかったかのように、二人は同じ食卓で今日の公務について語り合う。




  そんな日々が三か月ほど続く。

  フェルディナントもいつしかヒューベルトとの暮らしに慣れていた。もっとも、それは生活を共にしているというより、互いの勤務時間が噛み合わないことに慣れた、と言った方が正しい。

  片方が帰宅すると、もう片方は眠っている。あるいは目覚めた頃には、相手はすでに仕事へ向かっている。同じ部屋を共有しながら、それぞれ別の時間を生きているような毎日。

  そんな夜。

  珍しく二人とも公務がない。机の上に決裁待ちの書類はなく、外出を急かす従者の声も聞こえない。

  互いに寝台の端へ腰掛けたまま、会議も、公文書も、相談すべき政務も存在しない時間だけが静かに流れていく。

  フェルディナントは戸惑う。

  こうして一晩まるごと、ヒューベルトと向き合って過ごすには何を話せばいいのだろう。

  もし自分がかつて思い描いていたような伴侶であれば、この沈黙はもっと違うものだったのかもしれない。

  けれど、自分が選んだ相手はヒューベルトだ。

  ならば、この静けさもまた、自分たちらしい伴侶の形なのだろう。

  そう思いながら視線を向けると、ヒューベルトはいつも通り静かに本を読んでいる。

  部屋には紙をめくる音だけが響く。

  フェルディナントは何気なく手を伸ばし、それが自分の紅茶ではなくヒューベルトのテフだと気づき、小さく笑い声を漏らした。

  そのとき、ページをめくる音が止まる。

  「……少々、唐突な話になるかもしれません」

  本を閉じたヒューベルトが、静かにフェルディナントを見つめる。その表情は普段とほとんど変わらない。それなのに、これから告げられる言葉だけは、これまでのどの会話よりも重いものになる。

  そんな予感がフェルディナントの胸をよぎる。

  「どうした?」

  「改めて、この婚姻について考え直しました。このままでは、少し良くないかもしれません。もちろん、貴殿がお望みでないのであれば、無理強いするつもりはありません」

  フェルディナントは小さく目を瞬かせる。

  書類に不備でもあったのだろうか。

  手続きが足りなかったのか。

  あるいは、エーデルガルトにとってさらに都合の良い制度を見つけ、改めて相談する必要が生じたのだろうか。

  やはり、この結婚は最初から……

  胸の内で思考だけが空回りしていく。

  そんなフェルディナントの動揺に気づくことなく、ヒューベルトはしばらく沈黙したあと、穏やかな声で口を開く。

  「フェルディナント殿」

  「私と、同衾していただけますか」