季節の変わり目は体調を崩しやすい。大道具の沼田さんが体調を崩したため代打で大崎様に来ていただいたが、どうにも外が騒がしい。一体何をしてサボっているのだか。どうせ発案者は烏森だ。碌なことではない。
「何をしているのです」
「丁度良い! ほら、冥の分の蝸牛だ」
「蝸牛競走だそうです」
一列に並んだ蝸牛。殻に貼ったテープは宛ら帽色だ。烏森が開始の合図をしたが、蝸牛には関係のないこと。銘々好きなように動いている。競馬好きの劇団員は熱い声援を送り、実況を始めた者もいる。大崎様はと言うと、いつになく真剣な表情で蝸牛を見つめている。
「お! いける! 勝てるぞ!」
烏森二号とかいう蝸牛が他の蝸牛を引き離す。大崎様の蝸牛は既にコース外だ。俺の蝸牛だけまだ勝機があった。
「……頑張りたまえよ」
思いが伝わったのか、蝸牛は烏森二号を文字通り乗り越えゴールラインに到達した。
この日、烏森の奢りでエスカルゴが振る舞われて一同から批判が殺到したのはまた別の話。
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