ぐるさん
2026-06-28 08:32:09
1280文字
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6.27【夢中】

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2026.6.27お題をお借りしました

 ああ、やってしまった。何とも言えない居心地の悪さを誤魔化すように、綺麗に皿へ盛られたスイーツ達を眺める。

 それを注文したのは、目の前でそれらをもりもりと食べ続けるふみやさん。私が今眺めているのも、その内彼の胃袋に吸い込まれていくだろう。

 当初はテラス席でこの間と同じように、大量のスイーツを食べるふみやさんを注意したら直ぐに立ち去る予定だった。

 それが、たまたま近くに居た店員さんに「お連れの方もどうぞこちらに!」と椅子を引かれて座るように促されてしまい、帰りづらくなってしまったのだ。

 周りを見れば女性客ばかり、耳を澄ませば妙な語感のメニューが飛び交う——正直に言って恥ずかしすぎる。家に帰りたい。

「理解も何か食べようよ」

 そんな中で、平然と食べ続けるふみやさんは一体どういう神経をしているんだ。私には分からない。

 ただ、彼を見ていて何となく分かった事が、一つだけある。

 それは、スイーツの食べ方がとても綺麗だという事だ。

 普段の食事の際もマナーが悪いと思った事があまり無いが、スイーツの食べ方に関してはかなり洗練されているように思う。

 私よりもゴツゴツとした印象の手で、華奢なカトラリーを器用に扱い、どんなスイーツも綺麗に食べ切っていく。

 固いタルト生地でも乱暴に押し切る事なく、見事に割って口に運ばれていく様子は、見ていて何だか楽しくなってきた。

 大きなパフェも、一緒に渡された細長いスプーンを使って、容器の最後に詰められたアイスの一欠片まで掬いきる。

 沢山の果物がクリームの間に挟まっているロールケーキも、手づかみにしないできちんとナイフで切り分けて口に運ぶ。

 見るからにふわふわな生地のショートケーキは、フォークで少しづつ食べていく。

 三角形の尖った方から崩さず、倒さず、丁寧に。

 大きく開いた口からは白い歯と赤い舌が見え、フォークで掬ったケーキの欠片を、それらが口内へと迎え入れる。

 そうして軽く口を閉じ、咀嚼をすれば、太い首に浮かぶ喉仏が上下に動き、また口を開く——

「理解、見すぎ」
「えっ!?」

 ケーキを食べる手を止めたふみやさんが、私をジッと見つめている。

「夢中で俺の事見て、何考えてたの?」
「夢中もなにも……

 特に何も見ていない——そう言いかけて、思わず口を閉じた。

 だって、思い出すのは、彼が食べている所ばかり。

 カトラリーを持つ手、大きな口、時折クリームが付いてしまう厚い唇。

 何を食べていたか、何を頼んでいたかはぼんやりとしか思い出せないのに、そんな事ばかり鮮明に覚えていて——

「理解!帰りまーーす!!」
「あっ」

 駄目だ駄目だ草薙理解!これ以上はマズイ、良くない、何かとても良くない!

 思わず席を立って、家に向かって走り出す。
 顔が熱い、鼓動が早い、正常に物事を考える事が出来てない。

 嗚呼、私は、一体どうしてしまったのだろう!
 
 ——一連の現象と感情を恋と呼ぶ事を、この時の私はまだ知らなかった。