asahito
2026-06-27 22:28:13
4542文字
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XYZ⑧

前作駒草太夫の現パロのお話はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/7583585 一部R18です
続編である今作の第1章(錦上京キャラ中心)はこちら⇒https://www.pixiv.net/novel/series/14625442 一部R18です
東方キャラが現代にいて、普通に人間として暮らしてたらを書いたお話です。

この作品集で一番家で作りやすいのはスネークバイトだと思います。シードルはスーパーで買えるし。

 魅須丸が慌てて帰ったのは何故か違和感はあったが。それに入れ替わるようにして阿梨夜が来たのは、本当に偶然だったのだろうか。
 石というキーワードで繋がる二人がいて。いつもどこかで掠りそうなのに全くここで邂逅することはない。だが、繋がりは確かにあるはずだ。
 客の情報を喋れないが故にどちらにも聞くことはできないが。互いを知っていそうな欠片はいくつも私は見つけていた。そして阿梨夜もそれを探そうとしているが、どうしてもそれを掴むことがいつもできないでいる。
 私ですらどこに住んでいるかも分かってない魅須丸を。コイツが捕まえられるとも到底思えないが。捕まえようとしても逃げられ、自分がどうでもいい時に限ってふらりと現れるのは同じなのだろう。ご愁傷さまというか、何というか。
 研究熱心で融通の利かない堅物には。愛飲している味が一番慰めになるだろうと出したのが。来月からの冬のメニューに加える予定だったこの酒だった。
 メニューにない酒は材料が揃っていれば作るが。この酒は寒い時期に出すからこそ似つかわしいがゆえ、冬以外は基本出さない。この酒が持っている意味を考えても、夏に出すのは的外れすぎるだろう。
 最近ではコーヒーを出すカフェでもこの酒はメニューに入っているようだが。その店とうちのでは作り方は微妙に異なっていた。
「コーヒーもカクテルになるんですね」
 熱いコーヒーは生クリームとアイリッシュウイスキーで熱が冷まされてるため、猫舌でも大丈夫なこの酒。阿梨夜はどう味わうだろうか。
 ウイスキー自体は強いので水の用意を忘れないことを隅に置きつつ。私は阿梨夜と会話を続ける。
「ええ。酒の役割は躰を温める為というのもありますから」
 阿梨夜はその酒をまじまじと見た後に。私に写真の許可を取ってからそれを何回かスマートフォンの写真で撮影していた。そして、タップして文章を打ち込みメモを取っているように見える。
 大方酒について後で調べるつもりだろうが。バーテンダーとして出したカクテルはすぐに飲んでほしい。
 その気持ちが通じたのか阿梨夜はスマートフォンを鞄にしまうと、グラスを持ってゆっくりとその酒を含む。
 生クリームが唇に当たり少し飲みにくそうだが。うまい具合にそこは残らないように酒と一緒に飲んでくれればいい。どうしようもない研究の悩みが吹っ飛ぶ酒なら、幸いだ。
 バーテンダーがいちいち味の感想を聞くのも野暮だろう。この酒はコーヒーを淹れる為に器具を出さないといけないのも面倒な部分の一つなので、とりあえず今夜はもう出すまいと流しに使ったものたちを入れておく。
 阿梨夜の表情はそのカクテルを味わうことに集中力を全身で注いでいるように見える。最初に来た時はすぐに泣き上戸が発動したし、二回目はユイマンと一緒にいたため二人で話すときの表情だった。
 だから落ち着いて独りで酒を飲む阿梨夜の表情を見たのはこれが初めてだった。だらだらと飲まれるよりかは真摯に向き合ってくれるのは嬉しいが。
 あまりに険しい顔をされると、品評会みたいな気分になりこちらもなぜか緊張する。
「飲みやすいですね。躰も温まります」
 感想は当たり障りのないものであったが、少しだけ緩んだ表情は気に入ったという感想だろう。
「雪の降る日なんかに飲むともっと雰囲気ありますよ。来月から限定メニューで出すつもりなんです」
 器具を洗いながら私は答える。来月はクリスマスや年末ということで、特別な月であるし繁忙期でもある。ホットカクテルは評判が良く注文数も増えるが。
 それは裏を返せば在庫管理がいつもよりも厄介になるという事だ。金を貰ってるんだから当たり前だろうと言っても、面倒なものは面倒くさい。
 魅須丸がちゃんと来てくれればいいが。あれとの約束なんて守って貰えたんだか、成り行きで破られることがなかっただけなのかもいまいち判断がつかない。
「来月……そうでしたね、もう年末か」
 阿梨夜はほうと息を吐き、じっと飲みかけのカクテルグラスを見つめていた。そこには本当に色々な事があったという感慨が含まれている。
「毎年毎年気づくとこの季節ですよ。特に今年は磐永さんやユイマンさんのような新しいお客様も増えましたしね」
 私にとっても夏まではあまり変化のない穏やかな一年かと思ったが。夏にいきなり阿梨夜とユイマンがやって来て。その後に、しばらく音沙汰のなかった魅須丸がふらりと酒を飲みに来た。
 目まぐるしい変化や出来事を一気に押し込んできたって、こいつらに自覚はあるのだろうか。
……その節は本当に」
 新規の客としてやって来た時のことを言われたと思ったのか、阿梨夜はまた謝罪をしようとしたので慌てて止める。
 あんたの泣き上戸なんかより、何杯も強いカクテルを飲み干してケロリとしてる蟒蛇の方が私にとっては心臓に悪かった。蛇の威嚇をカウンター越しに受けていたようなものだったんだぞ。
「そういえば年末は帰省されるんですか。あちらはもう雪ですかね」
 話題を変える為に年末らしい話を投げかける。地方出身者なら帰省の話題はよく使われる便利な話題だ。もし阿梨夜たちが地元に帰るなら、また美味しい地酒でも一本見繕って貰いたいものだが。
「そうですね……私はユイマンの実家に帰るつもりです」
 自分の実家に、と言わないのは何かしら理由はあるのだろうが。そこに触れる必要はないだろう。阿梨夜には帰る事のできる家があるのだ。私とは、違って。
「ゆっくり過ごせるといいですね」
「ええ。彼女の実家は大家族なのでとにかく賑やかだしずっと食べづくめですよ」
 そう言って照れ臭そうに笑う阿梨夜にとって。ユイマンの存在というのがどれだけ大事かなんてのは分かり切ったことだ。
 賑やかな事は苦手そうな奴でも。一緒に帰ろうとするならそれは楽しい時間なのだろう。
 私はもう自分の実家なんてないから、魅須丸とどこかに帰省なんていうことがあったとしたら。やっぱり玉造一族の集落なんかに連れてかれ、寝ても覚めても鉱物の話に囲まれるのかもしれない。考えただけで胃がキリキリするし。
 玉造の一族がみんな魅須丸みたいな奴だったら、バーテンダーから職人に無理矢理転職させられやしないだろうか。
「彼女のお兄さんお姉さんも帰って来ますからね、本当大きな部屋で宴会で……
 ユイマンの実家が美男美女揃い一家であることを聞いてもないのに話し続ける阿梨夜を見ていると。どうして相手の実家に帰省する話なのにここまで差があるのか逆に笑えて来る。他の家族も美男美女というのはユイマンを見てれば想像は付くが。
 というか、今年こそは魅須丸の住処聞き出さなきゃいけないのに。全然確かめられないままここまで来てしまった。聞いて終われるのか、今年は。
 一緒に暮らすと言うサンプルが傍に出たことで私の心にも若干の変化は出たかもしれないが。私の部分の何かを誰かに預けて、大丈夫なのだろうか。魅須丸を信用してないわけではないが、それでもこういうのは苦手だ。
 かつて自分の美貌を利用して、金と力のある女に生活を助けて貰っていたことは。一生消えやしない後ろ暗さとなって私にしがみ付いている。
 もう縁は切れたと言っても女って言うのはそう簡単に諦めやしないだろう。ましてや自分が一度は心を注いだ相手であれば猶更。何せ色恋に溺れた女は厄介な生き物。
 最初から阿梨夜とユイマンのように相手を決めていれば。こういったこともないのかもしれないが。こいつらにはこいつらなりの見せない闇もあるのだろうか。
 自分の実家に帰ろうとしない阿梨夜が抱えているものを、ユイマンは受け入れて結婚したと思えるが。それに踏み切れるほど相手を想えるなら、本望だろう。
 器具を洗いながら色々考える自分なんてらしくない。どうも阿梨夜を見ていると、袿姫やこの前来た身なりのいい女とは違った防衛本能が働いてしまう。
 酒の瓶を戻そうと阿梨夜の方に向かっていくと、阿梨夜のグラスは既に空になっていた。少し早めのペースで飲むなと思ったが、目つきはしっかりとしている。
「次のお酒はいかがいたしましょう。他のホットカクテルも今あるものなら作れますが……
 お代わりはいるかと阿梨夜に尋ねれば、阿梨夜はそろそろ帰ると私に告げた。計算した領収書を書こうとレジの方に戻ろうとすると、待って欲しいと阿梨夜が止める。
 水はまだ残ってるし財布を忘れたとか言うなよ、と思いつつ。
「どうされました?」
「あの……このカクテル、詳しくレシピを教えてくれませんか」
「レシピですか。ネットで探せばだいたい作り方が載ってるサイトありますけど」
 有名なカクテルだし他の店でも出してるから、動画サイトの奴でも見ればいいだろう。それにレシピを知った所で美味い酒が作れるかってのは、全然別問題だ。
 ただ混ぜて乗せて作ればカクテルができるなんて思ってたら大間違いだからな。
「ここの味がいいんです……美味しかったので」
 少し紅潮した表情は酒なのか照れなのか。阿梨夜が躰を温めるためのカクテルのレシピを所望するってことは、大方理由は分かるのだが。
「来月ユイマンさん連れて来て下さったら同じの作りますよ?」
……駒草さんには敵いませんが、彼女が凄い寒がりなので家でも作れたらって」
 図星というかそれいがいあんたに理由はないだろう。笑いを堪えて私が言えば歯が浮くような科白を言ってのける阿梨夜は、更に顔を紅くしてごにょごにょと言う。 
 これからもっと寒くなるからと、パートナーの為のレシピを覚えておきたいということか。寒がりなんてユイマンは本当蛇みたいな女だな。
 あまり客を揶揄うのはよくない。レシピは私も過去の先が残したものを参考にしているし、特に公式とされているレシピから逸脱したものではないため教えても問題ないと判断した。
 動画サイトでも紹介されているし、紹介したところで同じように皆が作れるわけではないと投稿者だって分かってるはずだ。
「もしレシピの情報を教えるのにお金が必要なら、払いますから……
 ネットに転がっている情報は嘘も多く出鱈目だらけだから。ちゃんとした本物の情報を教えて欲しいという事だろう。
 もし私が悪意があって変な分量で教えたとしたらの危険性を考えてないのかと突っ込みたくなるが。阿梨夜の必死さは、真実のものだ。
 美辞麗句に慣れ親しんだ舌は、煙草の煙で焼いてしまった方がいい。そう思うほどの偽りを纏う私には。眩しすぎて、可笑しくて、遠くから見ていたくもなる。
 私はレジの方へ行き領収書用のメモ用紙を一枚捲ると。ペンで本日の請求額と、アイリッシュコーヒーのレシピを走り書きする。
 作法は教えない。教えるのは、酒とコーヒーと生クリームの分量だけだ。ウイスキーは多いから、銘柄も書いておいてやるか。
「金を取って教えたレシピがネットに転がってるのと一緒だったら困りますからねえ。後はご自由にどうぞ」
 阿梨夜にそれを手渡すと阿梨夜は黙ってそれを見つめ。静かに礼を述べた。


 続く