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kuzu
2026-06-27 21:46:20
2001文字
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ともに/♦︎光沢
光3年、夏大後の光沢
「おう、奥村」
「
……
沢村先輩
……
暇なんですか?」
「ちがーう!なぁ、海いこーぜ」
「
……
当てつけですか」
昨日も見たその姿。まだ簡単に汗が額を伝う。それなのに俺の夏は残酷にもすでに終わっていた。そんな中での沢村先輩のその言葉は、青道の西東京三連覇を止めた腹いせかと思った。
「違う違う。久しぶりに話しようぜ」
「昨日もしましたけど」
「そーだけど」
結果的に最後になってしまった試合を沢村先輩たちは見にきてくれていた。懐かしい顔ぶれに気合いは入っていたものの、俺たちが最後に魅せたのは笑顔ではなかった。
「どこ、なんですか」
「おっ、行く気になったかね」
「まぁ
……
あなたに言われればどこまでも行きますよ」
「しなば諸共だな」
「まだ言いますか、それ」
「気に入ってんだよ」
隣に並ぼうと立ち上がった動きを思わず止めてしまった。
「ん?」
「いえ」
急に立ち上がって血をめぐらそうと、鼓動が早くなったのを感じた。けして、この先輩が放った言葉のせいではないと考える自分がいた。
♢
「あちぃ」
「まだ夏、ですから
……
」
海に着いた途端に文句を垂れる沢村先輩に腹を立たせながら、久しぶりに隣に並ぶ感覚に居心地の良さを思い出してしまう。
「おっ」
何かを見つけたような声をあげた後に駆け出す先輩を目線で追いかける。その先には自動販売機があった。2回ほどボタンを押してそのまましゃがむ姿を見つめる。
「なぁー奥村!取れなくなった!助けて!」
しゃがんだまま手を突っ込んでゴソゴソしている姿に何してるんだ、と思ったらそんな声が飛んできた。怪訝そうな顔を浮かべようとする。本当はどんな顔をしてるかはわからない。
「何してるんですか。一回ずつ取るんですよ、こいうのは」
「さすが!さんきゅ〜。ほら」
やっと取り出したのはペットボトル二本だった。そのうちの一本を渡される。透明な飲み物。少しだけ青道のユニホームを想起させるラベルを着ている、沢村先輩がよく口にしていた飲み物だった。夏になるとテレビからよく聞こえてきたそのフレーズが頭に浮かんだ。まるでその音に合わせるかのように、ペットボトルという小さい世界の中で泡が生まれては消える。
「あれ、嫌いだったっけ?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
手の中がわずかにひんやりとする。少しだけその場所から離れて、海の先を見つめるような沢村先輩と肩を並べて座った。俺たちの間にガスが抜ける音が二つ、響いた。
「く〜、最高!」
沢村先輩の喉元が動き、美味しさに顔を破綻させる姿を見た後に自分も口に含んだ。口の中が刺激され、少し痛い。そして、目がチカチカした。酸っぱくて甘いそれが味覚を支配する。
「それで、話ってなんですか」
しばらくの間、潮騒がその場を支配した。
「あー
……
お前さ、進路どうするの?」
「急に
……
昨日の今日ですよ」
昨日の、今日。本当にその通りで、ほとんどの人はまだ先のことなんて考えられないほどの暗闇にいることだろう。俺だって、そうだ。でも、俺はこの人を見つけてしまうから。見てしまうから。真っ暗闇ではなかった。
「そうだよなぁ、そうなんだけど
……
」
「なんですか」
「お前、俺に進路相談なんてしなさそうだし、気になったら聞くしかねぇ、って思って」
「よくわかってますね」
当たり前だ、と思った。この人に相談してしまったら最後、俺が言って欲しい言葉はただ一つだった。
「お前なぁ
……
で、どうなんだよ?」
「まぁ
……
しなば諸共と言ったからには約束は果たします」
俺が一年生の時に、この人に隣にいることには理由なんていらなかった。ただ自分が近づくだけで十分で、それだけで簡単に隣にいられた。けれど、徐々に隣にいることに理由が必要になった。この人が1番をつけられなくなった時、俺たちがずっと隣にいることは難しいことだと知った。いつの間にか理由がなくてはならなくなっていた。
数字が再び連なった時、その権利に固執してしまっていた。俺も
……
多分、この人も。
「ははは。それは、ちょっと重いなぁ」
聞き慣れた笑い声に、波が立てる音はかき消されて行った。なんだか懐かしい。早く取り戻したい。それが日常の日々を。
「今更ですね」
顔を横に向けると目線がぶつかった。
「なぁ、奥村
……
早くこいよ、ここまで」
結局、欲しい言葉はあっさりと与えられてしまった。しなば“諸共”、そうなるためにはまず隣に立ち続けなければならない。
小さな砂の音と共に手が重なった。沢村先輩の左手と俺の右手。俺たちがボールで繋がっていた場所。再び俺たちの間を流れた心を平らにしてしまうような音は全く意味を成さない。近づいてくる沢村先輩の顔に思わず目を閉じた。少し遅れて、今まで知らなかった感触を知った。
本当にレモンの味がした。
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