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ポほ
2026-06-27 21:24:53
2126文字
Public
オトメビギナー
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吉田さんって
モブ男子と樹の回。
こうして、どんどん陰キャから勘違いさせていきたい
下校前の清掃の時間。
樹は昇降口で、ほうきを手に落ち葉や砂埃を集めていた。班員は樹を入れて五人。 クラスでも目立つ男子二人と女子一人、そして大人しそうな男子・鶴ヶ谷。
……
とはいえ、実際に掃除をしているのは樹と鶴ヶ谷だけだった。
「あははっ、それホームラン!」
派手な三人は、ほうきを振り回して遊んでいる。
しかし樹も鶴ヶ谷も、彼らに注意できるような性格ではなかった。
しばらく黙って掃いていると、不意に鶴ヶ谷が小さく呟く。
「
……
不公平だよな」
「え?」
樹が振り返る。
「あいつら、ああやってサボってても掃除したことになるじゃん。本当は俺と吉田さんだけがやってるのに」
(
……
分かるけど)
樹は苦笑した。
(こういう時に限って聞かれてて、後から『吉田が文句言ってた』って俺だけ悪者になったりするんだよな
……
)
小学校の頃から、そんな経験は何度もあった。
樹は少しだけ考えてから、笑って言う。
「で、でもさ
……
!」
「?」
「きっと誰かは見ててくれるよ。鶴ヶ谷くんがちゃんと真面目にやってるところ」
鶴ヶ谷が目を丸くする。
「少なくとも、私は分かってるから」
(
……
なんて、丸く収めようとして適当なこと言っちゃったかな)
樹は少し照れ臭くなって視線を逸らした。
一方、その言葉を受けた鶴ヶ谷は固まっていた。
(え
……
)
今まで、吉田樹は"静かで目立たない女子"という印象しかなかった。
けれど、こうして自分のことを見ていてくれたのか。それが、なんだか嬉しかった。
思わず樹へ目を向ける。
眼鏡の奥の優しそうな目。ふわりと揺れる髪。
普段は制服で分かりにくいが、意外と華奢で──いや、着痩せするタイプなのかもしれない。
(
……
よく見たら、吉田さんって可愛いんだな)
気づけば、ちらりと見るどころではなく、じっと見つめてしまっていた。
もちろん当の樹は、そんな視線にはまったく気づいていない。
(でも
……
)
鶴ヶ谷はすぐにその考えを打ち消す。
(吉田さん、三組の月城といつも一緒にいるよな)
登校中、よく二人で話している姿を見る。
(やっぱり
……
そういうことなのかな)
そう思うと、胸の奥が少しだけもやっとした。
もっとも、その"月城と吉田の関係"が、鶴ヶ谷の想像とはまるで違うことを、彼はまだ知らなかった。
少し迷ってから、鶴ヶ谷は思い切って尋ねた。
「吉田さんって
……
三組の月城と仲良いよね?」
「そ、そうかな
……
」
「やっぱり、付き合ってるの?」
「えっ!?」
樹はぶんぶんと首を横に振った。
「ち、違うよ! 普通に小学校からの友達!」
「そうなんだ
……
」
鶴ヶ谷は少し安心したように笑う。
「いつも一緒にいるから、そうなのかと思ってた。男女であんなに仲いいって、この学年じゃあんまり見ないし」
「そ、そうかな? あはは
……
」
愛想笑いを浮かべながらも、樹の胸には別の迷いが生まれていた。
(どうしよう
……
名取さんには本当のことを話したけど、鶴ヶ谷くんにも話した方がいいのかな)
そんなことを考えながら、ゴミ箱へ集めたゴミを捨てに行こうとした、その瞬間
――
。
「きゃっ!?」
足がもつれ、樹は前のめりに転んでしまった。集めていたゴミが、昇降口いっぱいに散らばる。
(うわ、『きゃ』とか言っちゃった
……
)
自分でも思わず固まっていると、
「ちょっ、吉田ちゃん、大丈夫!?」
さっきまでふざけていた女子が慌てて駆け寄ってきた。
「う、うん
……
なんとか」
女子は樹の制服についた埃を、ぽんぽんと優しく払ってくれる。
「ゴミ集めようぜ」
陽キャ組の男子の一人がそう言うと、もう一人もすぐ頷いた。
「だな。鶴ヶ谷、ちりとりお願いしていー?」
「うん
……
!」
さっきまでサボっていた三人も、今度は何も言わず散らばったゴミを拾い始めた。
樹は少しだけ驚いた。
(
……
なんだ。悪い人ってわけじゃないんだ)
散らばったゴミは、あっという間に元通りになった。
「よし、こんなもんか」
「吉田ちゃん、ケガしてない?」
「う、うん
……
ありがとう」
三人は何事もなかったように笑い、それぞれ掃除へ戻っていく。その背中を見送りながら、鶴ヶ谷は少し驚いていた。
(あいつら、サボってばっかりで嫌なやつらだと思ってたけど
……
)
困っている人を見たら、当然のように駆け寄って助けていた。少なくとも、今の姿は自分が思っていたようには見えなかった。
(俺が勝手に決めつけてただけ
……
なのか)
少しだけ反省する。
そして視線は、自然と樹へ向いた。制服についた埃を払ってもらいながら、何度も「ありがとう」と頭を下げている。
その姿は、小動物みたいにどこか危なっかしくて。
でも、人の良いところをちゃんと見ようとして。さっきだって、自分のことを励ましてくれた。
(吉田さんって
……
)
胸の奥が、ほんの少しだけ熱くなる。
(やっぱり、可愛いな)
その一言が、すとんと心の中へ落ちた。
――
その気持ちが何なのか。
鶴ヶ谷自身も、まだ気づいてはいなかった。
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