フリンズさんと猫を見かけた時の話


「あ! 猫ちゃんだ‼︎」

 フリンズとランチを共にした後、散歩がてらナシャタウンを目的もなく歩いていた所で、黒猫ちゃんを見つけた。
 猫という存在が大好きな私は、その姿をいつも通り追いかける。私の後ろを何も言わずに付いてきてくれるフリンズを感じながら、黒猫ちゃんから目を離さずにソロリソロリと近づいて行く。しかし野良猫という可愛い存在は大抵の場合追いかけられると逃げてしまうもので、この黒猫ちゃんも追いかける人間に気づいた途端に、ヒョイっと壁を登り建物の影へと入り込んでしまった。

「あー、逃げちゃったかぁ」
 たまにいる人間から逃げない人懐っこい野良猫を期待して、毎回追いかけてしまっては、大体こんな風に逃げられてしまう。レアな猫に出会って撫でることができると、その日は一日ゴキゲンで過ごせるというものだ。……まぁ、今日はダメだったんですけど。
「可愛い猫だったのになぁ、黒猫ちゃん。チラッと見えた瞳が金色で、誰かさんの目に似てたかも」
 そんな独り言を溢してクスクス笑っていると――

……ニャア?」

 ――もしや、新たな猫ちゃんが近くに⁈
 そう思って勢いよく後ろを振り返る。ところが、後ろにはフリンズしか居ない。…………そんな、まさか?
「ニャア…………
 今度こそ理解した声の出所を、思わず見つめてしまう。先程も聞こえた猫っぽい鳴き声が、この長身美丈夫から発せられたものだったとは。首を傾げて私を見下ろすフリンズと、彼を見上げたまま驚きのあまり目を丸くして固まってしまった私の間で、時が止まってしまう。

――そんな顔なさらないでください。……貴女の後ろ姿に哀愁が漂っていたのが気になりまして……、もうしませんから」

 少し沈んだ、彼の方こそ寂しそうな声で、フリンズがそんなことを言う。そんなこと言われてしまったら、私はもう……

「フリンズ、そこに――しゃがんで」
…………はい?」
「しゃがんで。私だと届かないから」

 一体何の話をしているんだと、もう一度首を傾げる可愛いフリンズは、言われるままに腰を曲げて背を縮める。その姿に思わず両端の口角を上げニンマリと笑ってしまった私は、フリンズの頭に手を伸ばしてワシャワシャと勢いよく撫で回し始めた。突然の出来事に、今度はフリンズが目を丸くして固まっている隙に、好き勝手することにした。

「そうかそうかぁ、フリンズは猫ちゃんだったんだねぇ。ツヤツヤな紫色の毛並みの良い猫だねぇ。金色のお目目も、とっても可愛いねぇ!」
「あの…………えっと、ちょっとお待ち――
「なぁに猫ちゃん。――今は猫ちゃんなんでしょ? 猫役に徹していなさい!」
…………ニャアァ……

 そうそう、それでいいんですよ。
 困った顔をしたまま俯いているフリンズは、私の気が済むまでそのまま『毛並みの良い猫』役として、私に撫で回されたのだった。


…………恐ろしい目に遭いました……
「猫好きを甘くみちゃダメだよ、分かった?」
「えぇ……でも、」
――でも?」
「偶になら、猫役を買って出ても良いかもしれません」
「まさか……頭を撫で回されるのが気に入ったの?」



『いつも隣にいる、猫のような存在に?』