ポほ
2026-06-27 00:32:22
4212文字
Public 跡取り息子、やめました!?
 

お兄ちゃん?

三学期編9.1話。
でもねオレ 長髪の男ってキライなんだよね 作画コスト高いし見た目も不潔そうでしょう
というわけでもないしNEO坊リスペクトでもないんですが、描きにくかったのは事実(といってもヨツ(♀含む)宗以外あんまり描いてないですが)。
真冬ママが帰ってくるくだりはかなり強引に話を進めたので、補完のエピソードを入れていきたい所存。エースが死んだ後にサボが生えてきて回想が始まったみたいな感じです(?)。
生えてくるのは人物ではなくミニストップですが…
でも本当にそう感じるくらい仙台駅東口はミニストップが多い!あとツルハドラッグも多い!
今回誕生月のくだりがありましたが宗真の誕生日は3月2日、ミニストップの日とさせていただきます。
ついでに吉田は9月20日。

 真冬は月城家への引越しを控え、あと二週間は現在の居住地(泉区のはずれらしい)にいることとなった。
 真冬と話した翌日の日曜日の朝。
 月城家のリビングでは、珍しく嵐士がひとりで外出の準備をしていた。
「お、ファミマ行くの?」
 ソファでごろごろしていた宗真が声をかける。
「じゃあスパイシーチキンとジンジャーエール買ってきて〜」
「行かんて」
 嵐士は即座にツッコんだ。
「ていうか、ボクをパシリにすな」
「じゃあどこ行くんだよ」
「ま、帰ったら分かると思うわ」
「??? どゆこと?」
 宗真が首を傾げる。
 しかし嵐士は腕時計をちらりと見て、
「遅れたら大変やから。すまんけど、もう出るわ」
 そう言い残すと、足早に玄関へ向かってしまった。
「おいっ! なんだよそれー!」
 宗真の抗議も聞かず、玄関のドアが閉まる。
 しばらくして。
 宗真は腕を組みながら考え込んだ。
(『遅れたら大変』……?)
 妙に引っかかる。
(まさかアイツ……デートにでも行くのか!?)
 脳裏に様々な可能性が浮かぶ。
 相手は誰だ。
 同級生か。年上か。
 それとも――
……響姉は受験勉強で忙しそうだしな)
 勝手に推理しながら頷く。
(ここはオレが見張っといてやるか)
 もちろん建前である。
 実際のところは単純に面白そうだからだった。
 宗真は素早く部屋へ戻ると、帽子を深く被った。
 鏡の前で角度を調整する。
「よし」
(尾行とか……なんか探偵っぽくてかっこよくね?)
 なお、宗真の探偵像はドラマや漫画の影響を大いに受けており、現実とはだいぶ違う。
 数分後。
 宗真はこっそり家を出た。
 目標はただ一人。
 謎の外出をする嵐士。
 尾行開始である。
(ふっふっふ……絶対に尻尾を掴んでやるぜ)
 本人は完全にその気だった。
 しかし――
 この時の宗真はまだ知らない。
 嵐士が向かった先が、宗真の予想とはまったく違う場所だったことを。
 そして、その外出が嵐士自身にとっても少し特別な意味を持つものだったことを。

 嵐士は住宅街を抜け、榴岡方面へと歩いていた。宗真は電柱や塀に身を隠しながら、その後を追う。
(ふふふ……我ながら完璧な尾行だな)
 本人はそう思っている。
 しかし――
「お前、何やってんだ?」
「わっ!?」
 突然後ろから声をかけられ、宗真は飛び上がった。振り返ると、そこにはヨツダが立っていた。
「てか何その格好……
 帽子を目深に被り、不自然に背中を丸めている宗真を見て、ヨツダは心底不審そうな顔をしている。
「いきなり話しかけてくんなよ!」
 宗真は慌てて小声で叫んだ。
……感じ悪ぃな」
「あ、ご、ごめん!」
 宗真もすぐに我に返る。
「ちょっと今、嵐士の後つけてて……!」
「なんで?」
 当然の疑問だった。宗真はこそこそと説明する。
「なんかさ、『遅れたら大変』とか言って出かけたから気になって」
 宗真は声を潜めながら続ける。
「あいつ何気に勉強も運動もできるし、シャクだけど女子にはモテそうじゃん!?」
「まあ、そうかもしれないけど……
 ヨツダは嵐士の背中を眺める。
「約束の時間があるってだけなら、単純に歯医者とか皮膚科とか、その手の用事の可能性もあるだろ」
 宗真はニヤニヤしながら肘でつついた。
「お前、オレが妬いてると思ってんのか?」
「は?」
「大丈夫だって。オレ、関西弁のやつには靡かないからさっ」
「なんでもいいけど、関西の人には謝った方がいいぞ……
 呆れたように返しながらも。
 ヨツダは少しだけ口元が緩むのを感じていた。
 なんだかんだ言って、そういうことをさらっと言われるのは悪い気分ではない。
 もちろん宗真は気付いていないが……
「っていうか」
 ヨツダは前方を指差した。
「俺と話してたら見失うんじゃないか?」
「あ」
 宗真の顔色が変わる。
「行ってこいよ」
「えー」
 宗真は不満そうに唇を尖らせた。
「暇ならお前も来いよな」
「しょうがねえな……
 ヨツダはため息をつく。
 ちなみに彼は元々コンビニへ行く途中だっただけである。
 
 数分後。
 二人は嵐士が入っていった建物の前までやって来ていた。
 大きなガラス張りの外観。
 明るい店内。入り口には洒落たロゴ。
「あれ?」
 宗真が首を傾げる。
「ここ、前にオレ来たことある……静姉に言われて」
 ヨツダも看板を見上げた。
「美容院か」
 納得したように呟く。
「なんだ。髪切るだけじゃないか?」
「いやいやいや」
 宗真はまだ疑いの目を向けている。
「切ってから誰かと会うとかもありうるだろ!?」
「どんだけデートにしたいんだよ」
「だって気になるじゃん!」
 宗真がガラス越しに店内を覗き込もうとした、その時だった。
 店員に案内された嵐士が、鏡の前の席へ座る。
 そして。
 担当らしき美容師が、嵐士の長い髪を手に取った。
……あ」
 宗真は思わず声を漏らした。
 そういえば。
 嵐士の髪は、男子の中は長い方だった。思い出してみれば、稽古の時は髪をまとめていたような気がする。
 ガラス越しの嵐士は、どこか覚悟を決めたような顔をしているように見えた。

 ヨツダは店から視線を逸らした。
「でも、こんな店の前で見張ってたら邪魔になるだろ。てかガラス張りだし、向こうからも普通に見えてんじゃないか?」
「うーん……
 宗真は辺りを見回す。
「あ、じゃああっちのミニストップのイートイン行こうぜ!」
 ちょうど道路を挟んだ向かいにミニストップがあった。
 結局二人はソフトクリームを購入し、窓際の席で嵐士の散髪が終わるのを待つことにした。
 そしてしばらくして――
「あ」
 宗真が窓の外を指差す。
 美容院から嵐士が出てきた。
 だが、その嵐士は店を出るなり真っ直ぐこちらへ向かってくる。
……あれ?」
 嫌な予感がした。
 
 数十秒後。
 店内へ入ってきた嵐士は、二人のテーブルの前で立ち止まった。
「キミらさぁ……
 大きくため息をつく。
「どうせ宗真くんが言い出したんやろうけど、ほんまロクなことせんなぁ?」
「ば、バレてた!?」
 宗真が椅子から飛び上がる。
「もう、店入る前からバレバレやから」
 嵐士は呆れ顔だった。
「まあ別に後ろめたいこともないし、放っといただけやけど」
「それにしても……
 ヨツダが改めて嵐士を見る。
「結構バッサリいったな」
 長めだった髪はすっきり短くなり、サイドを刈り上げたツーブロックになっていた。
 顔立ちの良さが前より目立っている。
「ま、稽古ん時邪魔にならんしな」
「なんかちょっとヤカラっぽいな!」
 宗真が率直な感想を口にする。
「おう宗真くん、それは褒めてんのか、あーーっ?」
 嵐士がわざと凄む。
(ノリ良いな……
 ヨツダは少し感心した。
「でも何でこんなタイミングで髪切ったんだ?」
 宗真は身を乗り出す。
「もしや好きな女子がいるとかか? あ、失恋したから髪切る的な乙女な理由か?」
「なんでそういうのには意外と詳しいんだよ」
 ヨツダが呆れる。
「そりゃまー、オレだって一応女子なわけだし?」
 宗真は胸を張った。
……ってほどでもねえけど。前にゆきから聞いたんだよ」
 そして何を思ったのかヨツダへ向き直る。
「ちなみにオレは当分この髪型だから安心しろよ。お前とはずっとラブラブだからなっ」
「恥ずかしいこと言いやがって……
 そう言いながらも、ヨツダの表情はどこか嬉しそうだった。
(なんやこのノリ……
 嵐士は遠い目になる。
「てか、これからデートじゃないの? お前」
「何勘違いしとん、宗真くん」
 嵐士は苦笑した。
「今日はほんまに髪切りに来ただけやて。失恋も……それどころか恋もしてへんし」
「でも『モテ』はちょっと意識してるだろ?」
 宗真は諦めない。
「そのツーブロックとか、なんか今風だし!」
 嵐士は少しだけ視線を逸らした。
……別に意識してへんて」
 そう言ったあと、少し考えるように言葉を続ける。
「まあ……失恋ってわけやないけど」
「ん?」
「宗真くんちのことで、一つ区切りがついたからかな」
 宗真がきょとんとする。
「区切り?」
「髪型変えて、気分も変えよ思て」
……あ!」
 宗真は何か閃いたように指を鳴らした。
「わかった! 母ちゃんとまた一緒に住めるのが嬉しいんだ!」
 満面の笑み。
 嵐士は一瞬ぽかんとしたあと、小さく笑った。普段はどこか達観していて、本音を見せないことの多い彼だったが。
 この時ばかりは素直だった。
「それもあるけど……
 ゆっくりと言う。
「宗真くん達にも……ちゃんと家族として受け入れてもらえたのが嬉しくて」
 ふと。
 ヨツダは違和感に気づいた。
(あれ? 今、関西弁じゃなかった……?)
 もしかして、こいつは。
(今だけは本音で喋ったとか? あるいは、やっぱりエセ関西人?)
 そんな疑惑が頭をよぎる。
……そっか。改めてよろしくな」
 宗真も珍しく茶化さず、少しだけ照れくさそうに笑う。
 
 だが、数秒後。
「ちょっと待て?」
 何かに気づいたように顔を上げた。
「そういえばお前って何月生まれ?」
「一応七月ってことになってるけど」
「はーーーーっ!?」
 店内に響く大声。周囲の客が振り向いた。
「オレ三月だから、お前の方が年上じゃん!?」
「そうなるな」
 宗真は真顔になる。
「じゃあこいつオレのお義兄さんってこと!?」
「まあ、そういうことになるかな」
 嵐士は楽しそうに頷いた。
「じゃあ弟にはファミマでスパイシーチキン買ってきてもらおか」
「おい!」
 宗真が即座にツッコむ。
「ここミニストップなんだから、せめてクランキーチキンにしてくれよ!」
「冗談やて」
 嵐士は声を上げて笑った。宗真もつられて笑う。ヨツダは呆れたように肩をすくめた。
 少し前まで、自分たちはある意味敵同士だった。なのに今は、こうしてどうでもいいことで笑い合っている。——不思議なものだ。
 窓の外では、まだ冷たい風が木々を揺らしていた。けれど、その空気はどこか少しだけ、春の近づきを感じさせていた。