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omryksr
2026-06-26 16:15:31
3100文字
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入れ替わりプロローグ
インドラ様の独白。
のんびりカルデアで過ごしていたはずの神が、ふと気づけばスカイドームの中に囚われていて……?
(何も始まりません。神がのんびりしています)
藤丸立香、これはマスターの名前。
神のマスターを名乗るなど恐れを知らぬ行いだが、人間が自ら名乗っているわけではない。便宜上仕方なく、あるいは成り行きでその立場にあるだけだというなら咎めるというのも狭量だと思われよう。故に、これは不問とする。不敬ではない。
アルジュナ、これは神の息子の名前だ。
ことの始まりは、そもそもこの息子の顔を見に行こうとしたことからはじまる。人理の危機だの、地上の漂白だの、あらゆる事象が起きており神の知る同僚も多くカルデアに手を貸しているようだったが、神が直接手を出すには至らなかった。何せカルデアには神の息子がいるのだ。神々の王が直接出向かねばならんほどの事態などそう起きまい。まあ、なにより、不安定な世界に神を顕現させるほどの余裕がなかったとも言えるが。
「それで、満を持して出向いてみればコレとは」
つい、と指を滑らせるようにしてカルデアに残された記録を視る。何もない空間、広くはてなく広がる青く大きな空には少し前の騒動の顛末を記録した映像が流れていた。
記録を流し終え、そのまたあと。冠位として人間どもに稽古をつけてやっている記録を視、そして一区切りとなるあの戦いをも視た。かくして、世界は元通りになりあの人間も“雨粒の一つ”として日常に溶け戻る。
——
かにおもわれた。
全くどうしてこのようなトンチキが起きているのか。なんの因果か、再びカルデアは現れ新たな旅を始めんとしていた。
それは良い。いや、善悪は置いておくとして神には些事というものだ。雨粒との再会をいちいち喜ぶでもない。再びカルデアへ物見遊山に出向くにあたり、切り離す霊基がヴァジュラやアイラーヴァタでは足りなかったため追加でいくつか切り離したものもいる。ヴァーハナをあと一騎連れてこればよかったのでは?と思わないでもないがそれでは存在が大きすぎるらしい。仕方なしに細切れにして遊ばせている小さな雨雲共はつい、カルデアで施してやっていた時のように「人間が口にしても問題ない程度」に調整されていた。
そうしてもう一つ。ガラスドームによく似た球体の置物へ目を向ける。正直なところ、雨雲をいくつ切り離したとてたいして霊基の容量を削ることはできぬ。であれば
……
「空そのものを切り分ければ良い」雑な仕事と侮るなよ。決してちまちまと霊基を削る作業が面倒になったわけではないからな。
これは、いつか神のマスターを名乗る雨粒が神に助けを求めて泣きついてきた時に施してやる慈悲の形だ。
……
あの雨粒が、神に縋って逃げたがる姿など到底想像できないが、あって困るものでもあるまい。あれが使わずとも、神の判断で使わせても良い。
……
いや、意思の確認をしてやらねばならなかったか? たしかパールヴァティーあたりがそんなことを言っていたな。神々の王としてふるまうなら、雨粒の意思など聴く理由もない。しかし、アルジュナの父として在るのであれば、アルジュナが主人として仕えている相手と、少なくともアルジュナの意思には耳を傾けてやらねばならん。神として敬われるばかりではなく、父として尊崇されるためにはマスターを瑣末に扱うのは悪手。それに、あの人間はなかなかどうして神との距離の取り方が上手い。気安く接しているようで、一線を引くべきところは弁えている。そして、いくつかの神霊には触れぬようにと周りが引き離しているようなそぶりすらある。その引き離しておくべき神霊に神が含まれていないことは妙に気分がいい。あまりに気安いので侮られているのかと思った瞬間こそあれ「アルジュナのお父さんだと思うとつい。インドラ様はとても優しいし、雨粒を気にかけてくださっている気がして」と困ったように笑われれば悪い気はしない。神の寛大さをよくわかっている。
故に、バレンタインデーという催しの返礼として、気まぐれに切り離した空を閉じ込めたスカイドームを下賜した。
あれの中に広がるのは、もう一つの本物の空。
空があるなら神が在り、神が在るならそこは神域のようなものだ。凡百の雨粒どもが悪意を持って手を伸ばしたとしても決して触れられぬ場所になる。
神がカルデアに滞在している以上、そうそう起きることはなかろうが万が一ということもある。その時には、きっと役に立つだろう。
「そう、軽い気持ちで下賜したが
……
」
失念していたわけではない。慢心したわけでもない。ただ、想像よりもはるかに空の雲行きというのは変わりやすいというだけのこと。
神は、いま、かつて切り分けた空“スカイドーム”の中にいる。
初めに感じたのは小さな違和感だ。
いつも周りにぽてぽて、もちもちと転がっては好きにしている小さな雨雲共に雰囲気の違う個体が混じっていた。
しかしそれも些事。いちいち雰囲気が違うからと気にするようでは狭量ではないか。適当に切り離したものなのに規格が揃っていないからと潰しているところをアルジュナたちに見られでもしたら
……
。おそらく心象は良くない。あれらはこの雨雲を「もちンド」と呼び可愛がっている。神とて犬猫を愛でる気持ちは理解する。そのような気持ちで神の切れ端に接するのは不敬とも取れるが
……
まあこの見た目なのでよしとする。それなりに敬意を持って接しているようであるし。
故に、見過ごした。
否、一瞥はした。
一瞥して、神と同種の存在であると確認した。そこに悪意がないことも、他の切れ端と比べて特別な力がないことも確認した。ならばこれ以上は不要、と目を逸らした。
ただ、ソレがカルデアの人間や息子たちと接触することだけないように他の切れ端に命じることは忘れなかった。
その結果がこれか。
違和感は日増しに増えていった。
神の気配の強い個体は日に日に減っていき、同じようで違和感の残る個体が増えていった。
しかし別段不調というわけではない。
この小さな雨雲共は世にまろびでた瞬間からわずかながら解けている。意思を持って形を固定されなければいずれ世界に溶けて消える。そうして、再び神に戻り、また切り分けられる。
繰り返される創生と崩壊の中で僅かずつ変化があるのは自然なことだ。空模様と同じく、それを均一化しようなどというのは愚かな考えだろう。
そう思い、放置した。
「神がここにいるということは、今表にいるのは、元々スカイドームにいた神か」
カルデアにいる神がスカイドームの中にいるのであれば、必然として、スカイドームの中の神が外に出ることになる。
世界とはそういうもの。欠けたものを同質の何かで補おうとする力が常に働いている。外に出られぬわけではない。無理に出ることもできるが、そうすると
……
ふと頭によぎるのは空を割ったあの日の記憶だ。空の修復自体は容易いが、その規模が広範囲に渡れば人間共には毒となるだろう。
ふむ、と少し思案してすいと虚空に手を伸ばした。
「まあよい、酒でも飲んで戻るのを待つか」
どうせすぐ戻るだろう。神も神ならあの場に長居しようとは思わぬだろう。あそこは何かと騒がしく、せせこましい。
フラットな神であればあるほど、あの場はたまに顔を出して楽しむ程度がちょうどよい。間違っても、雨粒の世話を焼いてやろうなどという物好きではあるまい。
もちもちとアイラーヴァタに登ってくる雨雲に見覚えがあり手を延ばす。
「なんだお前たち、ここにいたのか」
「きゅ
……
ぷきゅ!」
カルデアに残している眼はまだまだ多数ある。
今しばらくは様子見でよかろう。
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