ローエンがお菓子を作ってくれる話


「ねぇ、なんか甘い物食べたい」
「いいんじゃね、どっか出かけるか」
「ローエンが作るやつが良い。甘くて美味しいやつ、作って?」
…………ぁあ?」

 私が読んでいた手元の本を閉じてからローエンへ目線を向けると、彼は自前のナイフの手入れをしていたようだった。ウチのシンプルな机が気づいたら武器庫になりかけている。相変わらず数が多い。あれらをいつも西風騎士団の隊服に隠してるんだから、もっと凄い。
 そんな彼は手先も器用で、自分用にガムを手作りするような男なのだ。他のお菓子を作ってる所は今まで見たことが無かったが、彼なら一通り作れそう。

「仕方ねぇお姫様だな。……少し待ってろよ」
「うそ、本当に? 嬉しい‼︎」
「お前が言い出したんじゃねぇか」

 思わず私がにんまりと笑っていたら、その顔を見たローエンも釣られたのか、ニッと片方の口角を上げて笑っていた。
 並べていた自前の武器類をしまうと彼は立ち上がり、早速キッチンへ向かった。
「なぁ、何使ってもいいか?」
「もちろん!」
 何か手伝いは必要かと思って、キッチン近くまで椅子を運んでみたが、特にいらないらしい。棚にしまっていた小麦粉やお砂糖、そして冷蔵庫の卵と牛乳などを並べて着々と準備が進む。
「料理してるローエン見るの、好きなんだよね。相変わらず手際が良くて格好良いですねぇ」
「へぇ、そうかよ。――いつでも俺に惚れ直してくれて良いんだぜ?」
 手に持った泡立て器を私の方へ向ける。格好良い顔面と可愛い道具のギャップに、思わず笑ってしまう。

 大きなボウルに材料を入れて順番に混ぜていく。シャカシャカという小気味良い音が聞こえて、なんだか楽しくなってきた。
「ローエンは何を作ってるの?」
「お前が食べたいやつに決まってんだろ」
 食べたいやつ……なんだろ。あれかな?それともこれかな?と考える時間も楽しいね。
 彼が勝手知ったる我が家のキッチン、……なんとなく同棲してるみたいで少しだけドキドキしてきた。そんな未来も夢があって良いなぁ。朝ごはん作ってくれるローエンとか、最高じゃない?彼なら何を作ってくれるのだろう。

…………おいっ」
「えっ。――いったぁ」

 脳内で繰り広げていた妄想の世界から、額に感じた痛みにより意識を取り戻すと、私の目の前にはローエンが眉間に皺を寄せて仁王立ちしている。……デコピンされた!
「俺が話しかけてんだからよ、ちゃんと聞いとけ?」
「ご、ごめん……、なに?」
 ヒリヒリと痛む額を撫でながらローエンの顔を見据えると、彼はキッチンの方へと目線を向けた。
「蜂蜜、さすがに場所が分かんなかった。てか、あるのか? 探してみてくれよ」
「はーい、了解!」
 椅子から立ち上がってキッチンの隅にある棚の奥を探すと、目的の蜂蜜を発見。「あったよ!」と答えたながら振り向くと、「よし、上出来じゃん」と返事がもらえた。
 ナイス、買っておいてくれた過去の私。

「なぁ、お前はどっちにするんだ?」
「ん、なんの話かな」
「甘い方? それともしょっぱい方?」
「甘い方で‼︎」
「へいへい」
 出来上がった生地をフライパンで焼いていくらしい。ここまで来たら流石にわかる。これはもう、絶対美味しいやつだ!
 せっかくなので、買っておいたアップルサイダーと合わせましょう。グラスに氷を入れて準備も万端。
 そうこうしているうちに出来上がったのは――ローエン特製フカフカのパンケーキ!


――お待たせしました。どうぞ、お嬢さん」
「えへへ、最高のおやつ時間になった」
「そうかい、そりゃ良かったな」
 二人で並んで座り、グラスにアップルサイダーを注ぐ。最高のおやつを眺めてからローエンの方に顔を向けると、彼も私の方を見ていたようで目が合う。そして二人同じタイミングでニコっと笑った。さてさてそれでは――
「「いただきます!」」



『至高の午後のパンケーキタイム。』