六花
2026-06-25 00:09:06
2941文字
Public アークナイツ:エンドフィールド
 

どんなきみもきっとかわいい

パジャマの話。ほのぼのウル管♂

「ねぇ、キャトロ、パジャマを買ったんだけど」
不意にそう管理人に告げられ、ウルフガードは足を止める。そういえば先日、端末を見ながら、悩んでいたな……と思いだす。意外に寒いので、もこもこしたものを買ったと聞いたが。
「それで、俺にどうして欲しい?」
「似合ってるか見て欲しいんだ」
「寝る時に着るものなんてどうでもいいだろう」
ぶっきらぼうにそう告げるウルフガードに管理人はどうでもよくないよ!と返す。年上のウルフガードには管理人はやや子どもっぽい言動を取る、ウルフガードはそれを受け流したりするのだが、管理人には不満らしい。
最も、ウルフガードは素直になる事が上手く出来ないし、どうしても寡黙で近寄りがたいウルフガード。だが、馴染もうという努力はしている。
「動物のにした」
「そうか」
瞬間に、ウルフガードの脳内ではピンクのうさぎのもこもことしたパジャマを着る管理人が浮かぶ。それは可愛いな、と思ってしまうあたり、ウルフガードも重症である。
「だーかーら、見に来てよ」
「分かった、分かった。見に行く」
「やった、約束だよ?」
「約束だ」
ウルフガードにも下心がない訳でもないが、ピンクのうさぎのもこもこパジャマの管理人など、見たいに決まっている。管理人はそっと小指を差し出す。指切り、というものなのだろう。
ウルフガードも小指を絡ませると「指切りげんまん、嘘ついたら~」と、管理人は歌い、約束してしまった。
脳内で妄想するとウルフガードは、どうしてこんなに管理人はひたむきな迄に自分を慕ってくれるのだろう、と思う。確かに自分は皆に馴染もうとは努力しているが、なかなかに馴染めない。
それを気にかけてくれるのは管理人であり、ありがたいと思う。反面、どうして、そこまで——?と悩んでしまう時がある。管理人は贔屓をするような性格ではない、誰にでも平等である。
しかし、時折、ウルフガードに見せる甘えたな態度や、言動を見ていると、思い上がりかもしれないが、それは好意、それも友情を越えたものではないか、と思う。ウルフガードはまだ、管理人から寄せられる感情が「恋」なのか、「友情」なのかを、見定めている。
自分だけ「特別」だと思い上がるな、とウルフガードは自分を戒める。
そして夜になり、管理人の部屋を訪れる。
管理人の部屋は権限レベルが高く、管理人以外は立ち寄りが出来ないし、認証も強いものだ。ウルフガードには、認証カードが与えられているが……それも、ウルフガードは自分が管理人が好きなのではないか、と勘違いしてまう事の一つである。
「あっ、約束通り来てくれたんだね、キャトロ」
「ああ、お前と約束したからな」
「うん、見てよ、新しいパジャマ!」
と、ワクワクしながら、見せられたのは、だぼっとしたペンギンのパジャマだった。それも可愛いが……とウルフガードは喉まで出かけた言葉を、慌てて、引っ込める。
「僕のシルエットがペンギンに似てるって指摘されて、ペンギンにしたんだ」
「そうだな……ああ、似合っているぞ」
「え~?キャトロ、なんかがっかりしてなかった?どんなの期待してたの、えっち」
「うるさい、黙らないとキスするぞ」
「いいよ?」
今度はウルフガードが困惑する番だった、冗談で言ったのに、どうしてこうも管理人は無防備なのか、ウルフガードの方が迷ってしまう。どうも、この管理人には理解らせないと駄目らしい。
ウルフガードはそっと最初は触れるようなキスを繰り返す。恥ずかしいのか、管理人の頬は、桃のような色に染まっている。
呼吸が苦しいのか、管理人の小さな口が僅かに開く。同時にウルフガードは、管理人の口の中に舌を入れる、管理人は驚いてウルフガードの背中にぎゅっと抱きついてくる。
何の覚悟もなく、許可を出したのは管理人だ。
「はぁ……きゃとろ……
「どうした?」
「ずるい、そうやって大人なところ見せるの」
「お前の前でだけだ」
「それって、僕の事が好きでいいの?」
管理人は、ぎゅっとウルフガードの背中に回した手を強くする。言葉にしなければ、分からないのだろうか、不安なのだろうか?とウルフガードは、考える。
その不安な気持ちが分からない訳ではない、自分は寡黙であり、あまり器用とは言い難い、けれど、目の前で、自分の言葉を待つ管理人に応えてやりたい。
「これが答えだ」
好きでも、愛してるでもなく、ウルフガードは管理人の唇を再び貪る。
部屋に充満する沈黙の中で、二人の息遣いだけが聞こえる。ウルフガードの唇が離れた瞬間、管理人の胸元の拘束具にも似たそれが揺れた。彼がいつの間にか首から外していたものだと気づいたとき、ウルフガードの内側で何かが砕け散った。
「もっと深く」
低く掠れた声が喉から漏れる。ウルフガードの両手が管理人の頬を包み込み、親指が微かに震える瞼に触れた。管理人の睫毛が微かに濡れていることに気づき、彼の胸が痛んだ。
「怖いか?」
問いかけに答える代わりに、管理人はゆっくりと目を開いた。瞳の中には恐怖ではなく、探求の光が宿っていた。それはまるで暗闇で道標を探す旅人のようだった。
「キャトロがくれるものなら、怖くない」
言葉の終わりを待たず、ウルフガードは再び唇を重ねた。今度はより強く、より深く。管理人の舌が戸惑いながらも応じてくる感触に、ウルフガードの背筋を熱い電流が走り抜けた。
窓から差し込む月明かりが床に落ちた影を揺らめかせる中、二人の輪郭が溶け合うように重なり始めた。管理人の指がウルフガードのシャツの縁を探るように滑り、ウルフガードはそれに応えて管理人の細い腰を引き寄せた。
「逃げ場はない」
囁くような警告に、管理人は小さく笑った。
「最初から逃げるつもりなんてないよ」
その答えにウルフガードの理性が完全に崩れ去った。唇から耳へ、そして首筋へと移動する唇の軌跡は、まるで地図を描く航海士のように正確だった。管理人の肌が粟立つのを感じ取りながら、ウルフガードは確信した——……これは欲望の渇望ではなく、存在そのものの欲求なのだ。
「ねぇ、キャトロ、僕の事、どう思ってる?」
「好き、だ」
やっとウルフガードの口から表明された好きに、管理人は照れくさそうに笑い、「僕もキャトロが好き」と答える。
「ねぇ、キャトロ、もしも……ううん、やめようか」
「なんだ?」
「もしも、全ての任務が終わったら、キャトロの故郷で僕は過ごしたい」
……そうなるといい」
「うん、だから、僕は頑張るよ。僕のために、君のために。だから——……僕の隣にずっといてね」
泣きそうな顔で笑ってみせる管理人の頭を撫で、「今日はもう寝ろ」とだけ返したウルフガード。管理人は扉に背中を預けて、触れ合った唇を、まだ熱を持った唇をなぞる。
——好きだよ、空を切る言葉。管理人はまだどこか現実感のないまま、ただ、好きという気持ちを抱きしめ、今夜は眠る事にした。
同時に、ウルフガードもまた、管理人と扉越しに座り込んで「なんて事をしたんだ……」と反省していた。
似た者同士なのかもしれない。
二人はただ、お互いにお互いが大切だと想っている、それだけで充分だ、と思った。

了。